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    アオヤナギ

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    アオヤナギ

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    おっさんと少女の話。基、文の殴り合い。

    汝、良き隣人たれ汝、良き隣人たれ

    護りたいものが多い人生だ。
    明日には消えてなくなるかもしれない命を知っているから、目に映るもの全てが朧気に見えた。気まぐれに吹く秋風に、冬に注ぐ凍えそうな雨にかき消されそうな灯火を必死に覆い隠していたら、いつの間にか『英雄』などという大仰な呼ばれ方をしていた。臆病な獣は、各々の勝手な想像、思い込み、理想を以て怪物へと成り果てたと、そんな次第である。

    だからこそ、矮小でつまらない存在だと悟られたくないからか。ーーー目の前の少女の口から英雄と出た時に、ギクリと心臓が痛むのを感じた。
    「金が居るなら、掘り起こした宝の地図がある」
    「おたからっ。それって、いくらになる?」
    羽は市場で売り捌けば百万は下らないと告げると、ふんふんと鼻を鳴らして自分が取り出すよりも早く鞄に手を突っ込んだ少女は、目当てのものを取り出すと早く早くと開封を急かした。稚児のようだ。話を無理やり逸らしたことに成功した自分は瓶を開ける。
    「ここいらにはトレジャーハンターが彷徨いてる。そうだ、金が要るなら奴らに師事して貰えばいいんじゃねえか?」
    どうして自分はこのような言い方しか出来ないのだろうか。そのまま伝えれば良いのだ。『英雄になるな。それは辛く、重い、窮余な道である』、と。少女の思い描く英雄の姿が崩れるのが、そんなに恐ろしいものなのだろうか。

    「しらないひとについてけっていうのか。はくじょうな。ひとでなし」
    「何処で薄情なんて賢い言葉を。聡くなったなあお前も」
    「さといってなんだ?それはいいとしてだな、おしえるならおっさんがおしえればいいだろ。たからのちずっていいだしたの、おまえなんだから」
    唸る。恐らくこれは、振り切るには困難を極める。経験からそう告げている。その予感を的中させるかのように、彼女は鎧の角をしかと掴んで離さない。
    「ーーーそれともじゃまか?」
    「どうしてそう思う。宝の地図って言い出したのは俺なんだろう?」
    「なんとなく。かんってやつかな」
    そのままよじ登ろうとするのを下ろして、手を叩いて平服に換装する。鎧油が着いて、おべべが汚れるのは居た堪れない。
    「お前が変なことをしないか心配しただけだよ。宝の地図の取り分全部持ってったりとか、な」
    そんなことするもんか、と振り上げた少女の腕を捕まえて、笛を持たせる。鯨笛だ。
    「吹け。地図は三枚ある。行くんだろう」
    「じゃあ、あわせて……さんびゃくまん?」
    「運が良ければな」
    ぷおんと、荒野に音が響く。滑るように躍り出た鯨の背に飛び乗って、遥か南を目指した。夕暮れの風が冷たく頬を刺すが、運任せの未来に小躍りする少女には問題では無いらしい。
    あ、と声を漏らした。
    朧気だった姿が輪郭をはっきり持って、鯨の背で炎の色に彩られて燃え盛る、シウという人間が見えた。
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