「スレイプニル、どこにいる」
二十四時間を主君のために使う権利を得たのはいいが、当のバルナバスがその多忙さで家を空けがちなのが従者のもっぱらの不満ではあった。朝は早く夜は遅く、誰よりも偉いのだからもう少し融通を効かせたらいいのにと思うのだが、そもそも肥大化した企業系列のほとんどが社長の才覚で保っているので会議のひとつも間引けない。一国の王であった頃からそうだったのだから、全てを自分だけの腕で抱え込もうとする性格はもはや悪癖と言ってもよかった。
もちろんスレイプニルはそれが悪だなんて一欠片も思わずに彼の度量の広さにめろめろと瞳を溶かしているのだが、それでも男の膝を独占できる時間が短いことは不愉快である。この身がぬいぐるみであれば仕事中もぴったりとくっついていられたのだろうが、まったく人間とはままならない。
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