私の貴方の平和な時間及び過ぎ去った後【私の貴方の平和な時間及び過ぎ去った後】
「カメリア!!」
完売したので午後三時ごろだというのに閉店したパン屋で片づけをしていた私はご近所さんであるギラに名を呼ばれました。
ドアを何度かノックされて開けたらこれです。
「ギラ」
「早いな。店じまい」
「パンが完売したし、明日は店は休みで屋台だし」
「そっか。他の国の王様たちが来るなら、稼ぎ時だな」
私たちが住んでいる国、シュゴッダムに明日、近隣国から王様たちが来るのです。ンコソパ、イシャバーナ、オウフ、ゴッカン、町の人たちは浮足立っています。
お祭りみたいなものですから。
「王様たちにパンを売るわけじゃなくて見てるみんな用」
ギラに逢えればいいなと考えていたら彼が来てくれました。一週間あったら六日はあってる気がします。
私は片づけを終えた店舗でカウンターテーブルの下をあさってバスケットを出します。
「いつもの?」
「焼きそこね。みんなで食べて」
ギラは児童養護施設で育っています。そこのまとめ役のお兄ちゃん。私は私でたまに焼きそこねが出たらそれをあげてます。売り物にならないだけで美味しいのです。
「ありがとう。店主さんは」
「先に帰っちゃった」
「気を付けて。カメリアも帰れよ」
「そっちもね。兵が煩いみたいだから」
ここは下町ですがパン屋をしているといくつもの噂話が耳に入ってきます。王様たちが集まるのも調印式のため、
これから世界に危機が起きるとかどうとかそうはいっても、この国は最大の国だしラクレス様もいるから大丈夫! みたいにはなっていますけど。
ラクレス様。
この国の王様で、遠くから何度か見たことはありますがどうも私は好きではなく。
「カメリア。心配事?」
「……平和にいきたいなって」
考え事をしていたら、ギラが私の顔を覗き込みます。
このところ、兵の態度がこっちに厳しい。税金が厳しくなってきている。
生活の方は出来ているし、毎日は穏やかに平穏に過ぎて行っている。
でも。
たまに、予感がする。
これが粉々に砕けてしまうのではないかと。
「心配しなくても、平和は続くって。……カメリアも子供たちに会いに行かないか?」
「そうする。ギラ」
ギラは私にとってよく話す相手だ。
店を確認してから、私はギラと共に店を出てドアにしっかりと鍵をかける。
ギラは片手にバスケットを持っていて、私の手を引いてくれた。
(こうしていると……)
ギラの手は暖かい。
私はギラと一緒に居たいし、ギラと共にいなければならない。
このまま平和に、毎日を過ごせればいいのにと、
そう、想っていました。
「……本が電子……」
「紙じゃないんだ」
「ンコソパの本は電子書籍で紙はねーぞ」
児童養護施設の子供たちは元気かな。パン屋の店主さんは元気かなとなりつつも、私とギラはンコソパにいました。
ンコソパの街中で、これが電子書籍……!! と文明に触れています。
調印式の日、賑やかで各国の王様や王女様を遠くで眺めながらパンを売っていて完売して、ギラのところにでも寄ろうとしたら、
シュゴッダムが何者かに襲われて、ギラを探したらギラは王城に向かっていて、怒涛の展開が起きて、頭が混乱する中、
ギラの側にいた私はギラと共にンコソパの国王、総長と呼ばれているヤンマ・ガストさんに連れてこられました。
シュゴッダムとは違いすぎる国で私はンコソパ文化に触れながらも、隣にいるギラを気にかけます。
うちの国王であるラクレスは民は犠牲にするとか全ての国を支配するとか言ってそれに怒ったギラは悪を背負い、反逆しました。
言葉にしたら簡単ですけれども、どれだけ重い決断だったか。
私は平和に生きたかった。
平和は直ぐに失われるもので、ギラやみんなと過ごす毎日はささやかながらも、とても幸せだったのに。
「カメリア」
「……ンコソパなんて来られるとは思ってなかったから」
シュゴッダムの下町で暮らしていたのにいきなりンコソパです。連れてこられなかったら私はギラと共に死んでいましたけど。
「巻き込んでごめん」
「ついてきたのは私だから」
ギラは心底謝っていますが、私としては何故でしょうか。
平和が壊れてしまったのは嫌だけれども、ギラが遠くに行ってしまうのは、これから修羅で血まみれでどうしようもない道を歩いていく、
歩かなければならないギラから離れるのは嫌だったんです。
そんなことを言ったらギラは余計に落ち込むので口には出しませんけど。
「仲がいいんだな」
「ご近所さんなので」
電子書籍は空中に浮いていてめくるように触っていけば、ページが捲れて行きます。凄い。
「何とかシュゴッダムに帰れればいいんだけど」
ギラへ。
今帰ったら確実に死罪な気がします。私の命も危ないです。けれども私はギラが死ぬ方が怖い。
これからやったり、どうしてもやらざるを得ない貴方の選択を、尊重はするけれども。
「……ラクレスの顔、殴りたい」
「殴るなら僕が殴るから!!」
「その時は俺も殴るぞ」
殺意のこもった声で話したら、ギラが慌てて止めてきました。殴るは変わってないからさすが。
ヤンマ総長も言ってきました。怨んでますものね。そちらも。
【Fin】