きみのためにできること長い髪からふわっと風に乗ってやってくる彼女の好きな洗髪材の香りと、俺に向けた彼女の優しい笑顔に心奪われ、胸が高鳴る。
俺が守りたかった彼女の笑顔。一度、約束を守れず彼女の心に深い傷を負わせてしまった。
割れた鏡に封印され、鏡の世界にも戻れず彼方の世界の途中にある何もない不思議な空間に放り出された俺は、恋人である彼女と離ればなれになり寂しい時期を過ごした。
どれくらいそこで過ごしたのだろうか。日々落ちる気力と体力に愕然とした不安を抱き始めた頃、どこからともなく彼女が姿を現した。
この空間に偶然やって来た彼女は俺に似た格好と髪型をしていた。体力も気力もなく小さく踞っている俺に気付いた瞬間、彼女は目を見開いたかと思うとゆっくりと瞼を閉じ、一筋の涙を溢した。
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