[ミマモ完結版ネタバレ注意]突然現れた塔と事情の多い男「へー、ちょっと近くから見るととても高いにゃ~」
ゴルトオール領内の、城下町から離れたとある場所に、小さなオアシスがあった。
ここは砂漠を仕事の為に横断したり、探検したりする者がたまに休憩している姿を見かけるが、ピクチャンが来た時には一人しかいなかった。
画家のピクチャンは城下町を出て、いつのまにかできた、とても高い電波塔を見上げていた。
「電波塔」とされているが、ただ鉄骨などを組んだものではなく、城や教会と言ったように、非常にしっかりとした姿を見せていた。
その建物は、今ピクチャンがいる崖を超えた先にあり、距離もまだかなりある。
その搭は雲の上まで続いているのだが、気象条件によってはこの搭の存在に気が付かないかもしれない。
確かにあそこには、以前までゴルトオールに最近やってきた放送局「ポラリスちゃんねる」が建設した電波塔があったと、ピクチャンはナナミから聞いていたことがあった。
しかしいつからか日、いつの間にと言った漢字に、こんなに立派な塔が湧くように出来上がっていたのだ。
ピクチャンとしては、この素晴らしい建築物を編み出したデザイナーを知りたいというのと、いかに短い工機で作り上げたのか知りたいところだったが、それは二の次だ。
早速ピクチャンは背負っていた鞄を降ろし、キャンバスやパレットなど、画材をすぐに準備した。
「ちょっと遠いけど、風もそこそこで見通しはよし……はっきりとした風景を描くのは素晴らしい気候だ。ここからの角度もちょうどいい、日光もいいかんじ……さ、描いてやろーっと……」
†
「ふんふふーん♪」
「なにしてんだお前……」
ピクチャンが夢中になって塔の絵を描いていると、そんな彼に掛けてきた声があった。
しかし、彼は特に気にもせず、夢中になって塔の絵を描き続けていた。
それから筆を一旦止めて、ピクチャンは塔をじっと見つめていた。
「ふむ……いい感じに描き上げられたかにゃ」
「……あの……」
「日照権のトラブル……」
「は?」
「いや、他に建物や畑があるわけでもないしにゃあ……あとはなんかよくないことが起こって未曽有の崩壊……」
「おい、お前!」
「おお、なんだ? ぼくに用があったのかい?」
考え事ピクチャンはようやく、どこか憤っていた男の声に気が付いた。
「用も何も、このオアシスは僕とお前しかいないぞ……」
オアシスにやってきたのは、星が装飾された帽子と、左目を隠す大きなリボンが特徴的な、金髪の男性だった。
「ごめんごめん、気が付かなった。このオアシスで休憩する人って結構多いからさ」
「……まあ、そうだが……」
「な、なんで怒ってるの?」「
「お前、なんか、さっきから不穏な言葉をぶつぶつ言っていた気がするんだが……」
「ひ、独り言だよ。ものってちょっと壊してみたいと思ったりしないかにゃ?」
「勝手に塔の崩壊とか言われちゃいい気分はしないというか……いやなんでもない……」
男は目の下に大きなクマを作っていた。
ピクチャンは、そんな彼の姿からどこか、昔共に描いていたある男に通じるものを見た気がした。
「ていうか、きみはどこかで見たような……ああ、ポラちゃんのとこの司会さんだっけ?」
「そうだが? ポラリスだ。お前はこの搭の絵を描いているのか?」
「そうだよ。ん? てことはあの塔の持ち主さん?」
「まあ、そうとも言える。だから塔の破壊は止めて欲しいがな」
「そ、想像だよあくまで」
ピクチャンはどこか気まずそうに言った。
「でも、いつの間にかできたって感じだけど、どうやって建てたの? まるで魔法だったみたいだにゃ~」
「う……まあ、それはいろいろとわけがあってだな。まあ、魔法みたいなものだ」
ピクチャンは、どこか応えづらそうなポラリスを見て、あまり詮索しちゃいけない気がした。
きっといろいろな事情があるのだろう。
それに、ピクチャンはポラリスに会ったのは初めてなのだが、彼からはなんとなく、神々しい何かを感じた。
「一つ事実を言うなら、僕はここからだいぶ離れたところで『ポラちゃん』を放送していたのだが、これからは地上に……というか、地上からも入りやすい本社でも作ろうかって思ってね……」
そう言ったポラリスは、明らかに嘘で塗り固めていた様子だったのを、ピクチャンはなんとなく見抜いていたが、特に気にもせず話を続けた。
「ん~、なろほど、本社ね。でも入りやすいっていうか、だいぶ遠くにある気がするけど?」
「べ、別に、一般開放してるわけではないからこれでいい」
「そう」
ポラリスはそう説明していたが、明らかにしどろもどろな雰囲気は拭えていなかった。
「なるほどにゃあ。一応事情はわかった。ぼくもポラちゃんは銭湯や食堂で見かけることあるよ。まあ、ぼくは放浪してる絵描きだから、普段テレビとか持ってるわけじゃないんだけどね」
「そうか……まあいい。せめて、ゴルトオールにいる間でも見てくれ。僕から観測……取材? まあ……仕入れたいろんな情報を提供したいと思っているからな。それにしても……」
それからポラリスは、遠くに見える「本社」の棟を見て言った。
「そんなにこの塔がいいか?」
「おや、君のところの『本社』なのに気に入らないのかい? おっきなおしろみたいでかっこいいと思うよ?」
「いや……デザイン自体は別に文句はないんだが、そもそも勝手に建てられたと言うかなんというか……」
ポラリスはぶつぶつと言っていた。
「むぅ……素晴らしい建物だと思うよ。絵にしてみてもいいかい?」
「そうか……それはありがとう……しかし言われてみると、ずいぶんと立派なデザインな塔で繋げやがったな……」
「……そういえば『ポラちゃん』って以前まで普段どこから放送してたんだい?」
「それは秘密だ」