孤島にいるだけのぺご君と番長水色だ。眼前に広がる光景を言い表す言葉がそれしか出てこなかったことに、俺は久しぶりに自分の無力さを感じた。いいや。それは本当に瑣末なことだ。もっともっと深い無力感を俺たちは噛み締めている。
「悠……」
「どうした」
「蟹が歩いてる」
いや、俺だけかもしれない。
そこは、外周を水色の海に囲われる、砂浜しかない孤島だった。孤島と呼ぶのも贅沢だ。湖にでも浮かぶ、ちょっと大ぶりな浮島といったほうがちょうどいい。とにかく驚くほど小さな島で、浜辺をなぞって歩いてみると、ものの十数秒で一周できてしまう。校庭に敷かれたトラックのほうがずっと大きいぐらいだ。
そんな島にはいくらかのぺんぺん草と、刺しただけのような一本のヤシの木しかなく、あとは俺と蓮と、蟹しかいなかった。
「蟹は何を食べてるんだろう」
「……さあ……プランクトンとか……」
蓮は砂浜に手をついて、しゃがみ込んだまま、うーんと唸った。
「俺たちの腹は膨れないな」
「ああ、その蟹を食べてもな」
海は空と同じ水色をしていて、水平線がひどく曖昧だった。まるで海と島ごとガラスのボールの中にいるようだ。
「船とか通りかかっても、気づいてくれるだろうか……」
そもそも島自体に気づいてもらえるか怪しい。焚き火もできそうにない。ぷっつりと世界から隔離されてしまったようで、俺はため息をつく。
「ひどい顔だ」
蓮は蟹を見るのをやめ、いつの間にか俺の近くまで戻ってきていた。俺は浜辺に座り込んだまま、君を見上げる。
「こんなところ、景色がいい以外何も良くない」
やがて空腹で死ぬのだと思うと、やるせなくもなる。すると君は、さっと俺の隣に腰を下ろした。機嫌の良さそうな笑みを浮かべたまま、俺に言う。
「景色がいい場所で、悠と二人きりだ。悪くない」
「……前向きだな」
「それが取り柄だから」