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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    記憶を取り戻した日の夜のお話。

    仮面は剥がされた運命は人を変えはしない ただ仮面をはぐのみである   
                        リコポニー夫人

    ベンジャミン・ドビンボーの無罪が確定した日、そして名もなき従者が記憶を取り戻し
    亜双義一真が還ってきた日の夜。
    バンジークス邸の一室にて、亜双義はトランクに荷物を詰めていた。
    ここは従者のためにあてがわれた部屋。詰め込むものは全てバンジークスから
    与えられたものばかり。
    手に取る度に、彼と過ごした時間が蘇りそうになり頭を振る。
    身ひとつでやってきたため私物は着替え程度で、さほど大きくないトランク一つに収まった。
    いつぞやの出航時とは大違いだと思いながらそれを抱え、使用人通路を通り勝手口から出る。

    「あてはあるのか」

    ドアを出て短い階段を降りていると、不意に背後から声をかけられた。
    振り返ると屋敷の主人、バンジークスが立っている。
    帰ってきたばかりなのか、検事服のままだ。

    「グレグソン刑事に紹介して頂きました」

    「そうか」

    「用はそれだけですか」

    黙るバンジークスに、亜双義の苛立ちが募る。そもそも顔を合わせなくて済むように、
    急いで荷物をまとめ、わざわざ勝手口から出てきたのだ。心遣いを無碍にされては気が悪い。

    「俺が何者か気づいていたのでしょう。因縁の相手をもてあそんで、面白かったですか?」

    そんな人ではないことは、これまで傍にいて分かっている。
    知らなかったとはいえ、父の仇に己の命すら預けていたことを受け止めきれず、嫌味となって口からこぼれた。

    「私は、検事として育てるようにとの命に従ったまでだ」

    煽り言葉にのることもなく、淡々とした返事であったが、その顔を見た亜双義はぎょっとした。
    どんな言葉を投げつけられても平然としている男が、明らかに傷付いた表情をしている。

    「そんなことはわかっている」

    沸き上がる罪悪感を押さえつけ、どうにか発した声は小さくてバンジークスの耳に届いたか定かでない。

    「弁護士に戻るのか」

    「なぜそれを…」

    言いかけて思い出す。執務室に成歩堂たちがやってきた日を。
    あの時、成歩堂が腕章について語っているのを背中で聞いていた。

    「ナルホドーが遺志を継いだ友人というのは、其方だろう」

    「ああ。なんです、検事になってほしいのですか」

    「どちらでもよい。……法廷で、勝利ではなく真実を求める者であるなら」

    それを聞いて、亜双義の髪が逆立った。まなじりは吊り上がり、バンジークスを睨みつける。

    「その言葉、ゆめゆめ忘れるな」

    低い声で吐き捨てるように言うと、身にまとう黒いマントを翻して屋敷に背を向ける。
    振り返ることなくすすむ姿は、あっという間に倫敦の夜の闇に溶けていった。

    ー完ー
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