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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    にゃんじーくすからのラブレターのお話。

    ラブレター フロム…?バンジークスの書斎の卓上に、手紙の束が積みあがっている。

    「すごい量だな。果たし状か?」

    亜双義は軽口をたたきながら、こぼれ落ちた封筒を拾いあげた。
    可愛らしい柄、ハート形の封。
    他の手紙もどう見ても恨みや脅迫が綴られているとは思えない。
    いわゆるラブレターのようだ。

    「こんなに人気者だとは知らなかった」

    「私も驚いているが…新聞にも載ってしまったからな」

    クリスマスにチャリティーコンサートを開いた後、
    寄付の礼と使い道の公表を兼ねた記事が写真付きで新聞に掲載された。
    元死神の偽善という批判も覚悟したが、意外にも賞賛の声が多かった。

    「全てに返事を書くのか?」

    「さすがに無理だろう。まとめて、季節の挨拶のカードでも出そう。
     それでよいだろうか?」

    バンジークスが傍らに座っているにゃんじーくすに尋ねる。
    聞かれたにゃんじーくすはそれでよいと快く答えた。
    そこで亜双義ははじめて、手紙の宛て先を勘違いしていたことに気が付く。
    バンジークス宛てのラブレターではなく、コンサートで美声と麗しい姿を
    披露したにゃんじーくす宛てのファンレターだったのだ。

    「なんだ、にゃんじーくす宛てか」

    「誰宛てだと思ったのだ?」

    「いや、その……にゃめん、とか」

    「……にゃめん宛てのものはないな」

    まさか、貴方宛てのものだと思いました、などとは言えず苦し紛れに
    出した名を、バンジークスは真面目に探して答えた。

    数日後の休日。

    亜双義の部屋ににゃんじーくすがやってきた。
    封筒と便せんを差し出し、頼みがあると言う。

    「手紙の代筆?もちろん、いいぞ」

    ファンレターをもらったことが嬉しかったのだろう。
    自分が嬉しかったことを周りにも行いたい、そういう心根の猫である。
    賢いので文字は読めるし、書くこともできるが、細かい文字で長い文章を
    書くにはその手は不向きであった。

    「誰宛てだ?にゃめんか?」

    いつも可愛がっている、小さな従者の名前を挙げたが違うらしい。

    「バンジークス卿、だと?」

    代筆とは言え、複雑な感情を抱く相手に親愛の文面を綴るのは
    やや抵抗がある。しかしにゃんじーくすの思いを無碍にもしたくない。
    自分の事情に過ぎないからと割り切り、お願いをきくことにした。

    にゃんじーくすは楽しそうに語りだす。
    優しく、大切にしてくれることの感謝。
    同じくらい自分を大切にしてほしいという心配。
    どんなところが好きなのか――

    亜双義とにゃめんが来る前、ふたりで過ごしていた日々の
    エピソードも交え、バンジークスへの温かい愛が溢れだす。
    それは同時に、まだ知らない彼の一面の紹介でもあり、
    いつの間にか亜双義は、興味深く聞き入っていた。

    便せん数枚に語られた思いを綴り、封筒に入れる。
    淡いラベンダー色の封筒、青い花のシール。
    その取り合わせは、送られる相手の髪と瞳を思わせた。
    にゃんじーくすは、そういう心配りをする猫である。

    にゃんじーくすは亜双義から渡された封筒を受け取らずに、
    一緒に届けようと腕をひいた。
    いつの間にかやってきていたにゃめんまで、
    腕にしがみついてひっぱるので観念して部屋を出た。

    書斎の扉を開けると、にゃんじーくす達は先に飛び込んだ。
    部屋の奥に座るバンジークスへ駆け寄り、亜双義に
    手紙を書いてもらったことを告げる。

    「あくまで俺は言われたままに書いただけで、文面は
     にゃんじーくすのものだ。
     ……とても愛されているのだな」

    決して自分からの手紙ではない、と念を押して渡す。
    亜双義は手紙には嫌な思い出がある。
    こんな内容の手紙ばかりならどんなにいいか、とふと思った。

    受け取ったバンジークスは驚いた顔で封筒と亜双義を交互に見た後、
    にゃんじーくすの頭をなでた。

    「ありがとう。とても嬉しい。亜双義も、書いてくれてありがとう」

    礼を言われてたじろいでいると、バンジークスはデスクの引き出しから
    何か取り出した。

    「私も、にゃんじーくすに頼まれていたのだ。亜双義宛の手紙の代筆を」

    白地に金の縁取りがされた封筒に、赤い花のシール。
    亜双義の執務服を思わせる取り合わせだ。

    「亜双義も、愛されているぞ」

    受け取った封筒には厚みがあり、数枚に渡って綴られていることが分かる。
    バンジークスへ、亜双義への思いや好きなところを沢山語ったのだろう。
    亜双義にそうしたように。

    「策士だな、にゃんじーくす」

    亜双義は感嘆の声を上げ、ほほ笑むにゃんじーくすの頭をなでた。


    後日、にゃめん宛てにはにゃんじーくす自らが書いた手紙を送ったらしい。
    にゃめんが中身を見せてくれないので、亜双義達は何がどう書かれているのかは知らない。
    おそらく、彼らにだけ通じる方法で愛や感謝が込められているのだろう。

    -完-
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