凍土主従のとある一幕 危なっかしい所がある方だ。と、思っていた時が懐かしく感じる。緩やかな風に促され揺れる銀鼠の髪を、じっと見つめながら俺は心の中で呟いた。
ふとした瞬間に消えてしまうのではないかと思うくらい儚く見えたこの後ろ姿が今や、あぁ……また面倒ごと持ってきた……どこか遠くに逃げたい……、と脳が即座に判断してしまうのだ。世話人としては多分よろしくない。よろしくないのだが……今までの経験が、そう判断させるんだ。
俺は悪くない、悪いのはコルネイユ様だ。訳のわからんことを突然言ったりするコルネイユ様だ。俺は絶対悪くない。旦那に聞いても俺は悪くないと言ってくれる……はずだ。
「イロンデール」
「……」
「イロンデール」
「……」
「……あれは東方の破壊者の……」
「旦那か?」
「なんだ。イロンデール、聞いているじゃないか」
「………………あぁ」
聞いてないフリで押し通しどうにかして円卓の間に誘導作戦は見事に失敗。ちなみに旦那はどこにもいなかった。完全に嵌められたらしい。俺としたことが……。ほんの少しだけショックを受けたがそれは心の奥底に押し込んで見なかったことに。
「あれを見てくれ」
「……雲だな」
「あれはうろこ雲と言うらしい」
「……そうか……」
なんだこの実の無い会話は。必要か? いや必須無いな。心の底から必要性を感じない会話に適当に相槌を打つ俺(テンション下降は言うまでもない)と、妙に張り切って頭上に浮かぶ自然現象に指を突き付けるコルネイユ様。
周りに数名程いるが、え、なにしてんのコイツら??、と怪訝な視線を飛ばしてるんだろうな。脳裏に過りそうになった映像を空の彼方にブッ飛ばした。んなもんいらんわ。勝手なことすんじゃねえ脳。もっとマシなことに使えや。
自分の脳に軽く罵声を浴びせた後、俺は強制的に気持ちを切り替え(どうやってだよとか聞かないでくれ、それすら考えるのも面倒だ)未だ続くコルネイユ様のウンチク(?)を右から左に受け流しつつ、どうカットインするかを真剣に思案し始めるのだった。
……結果だと? それは……たまたま通り掛かった旦那が気を利かせて助けてくれた、だ。これ以上は聞かないでくれ……。
おわり