「覚悟しろ!!」
殺気だった目でベッドの上に堂々と仁王立ちする降谷。ことの発端は、消灯後の羽音。耳元で鳴る不快な音に飛び起きた降谷は
「れいくんもう寝よう、あのシュッとするやつあるだろ……」
「今無いんですよ!敵の侵入を許すんですか!?ぼくたちの寝室に!!」
「ほらこうしてふとんをかぶって寝ればさされないよ……」
「刺されるのは全部僕なんですよ!!わかってますか!?貴方のかわいいれいくんが虫に血を吸われて良いんですか……!?」
煌々と明かりのついた部屋の中央で、我を忘れて可愛いことを口走っている。そう、どちらが美味しいかは虫にもわかるようで、一緒にいても降谷だけ噛まれるのだ。
「どこからでも来い!!」
こうなったら気が済むまで待つしかない。今日は「クーラーを効かせた部屋でふとんをかけて眠るという日本の夏の風物詩を教えてやる」と言って、早々に寝室に向かった。久しぶりのゆっくりした時間を邪魔されたことで怒りは頂点に達している。そもそも、安室の柔らかな笑顔に反して降谷の怒りの沸点は以外と低いのだ。
ベッドボードにもたれのんびりと降谷のことを考える赤井の頬に
「そこだっ!!」
ピシャリと平手打ちが決まる。きっと可哀想な虫は血を吸う前には仕留められただろう。頬に向けて伸びた腕を掴み、ごめんあかいと言おうと開きかけた唇に口付けた。
「……何」
「……闘いに燃える君が可愛くて」
どうして君はこうなんだろうな。真剣になりすぎて汗をかいてるじゃないか。ほらおいで君の守った寝室の安寧を享受しよう……闘志の炎は今は赤井の眼の中に燃えている。服の中に入れた手に背中を撫でられた降谷は、ボソリと不満を呟きながらも赤井の首元にぐい、と頭を押し付け、赤井との夜に身を任せるのだった。