かごめかごめ
かごめかごめ、籠の中の鳥はいついつ出やる。
「何だ、お前だったんだ」
口ずさむ歌が寄せたのは長身の目隠しの少年。以前は誰かを捜して彷徨ってると言っていた。この間は気づかずにフラフラと教室を出て行った彼は一直線に狐の少年に近寄ってくる。やっと見つけたと握り締める手は怪異らしくひやりと冷たかった。
「君は?」
「意地悪すんなよ、下手くそな歌歌ってたのお前だろ? 前にもこの教室で俺を呼んでた」
「別に君に向けた歌じゃない」
「じゃあどうして振り払わないんだよ」
握り締めたままの手を指して鬼の少年はへそを曲げる。確かに下手だと自覚はあるけどハッキリ指摘されると面白くないから知らない振りをする。素直になれないばかりか手も振り払えないこの天の邪鬼っぷり。本当はずっと気づいてくれるのを待っていたのに。
狐、と苛立った声が呼びかける。顔を背けたまま返事をしない。二人で立ち尽くす教室の中は静かだった。
「わかった。人違いなら他当たるよ」
「そうか……」
「じゃ元気で」
あっさりと手は離れて着崩した着物の背を向ける。
彼も怪異だ、一人に執着なんてする筈がない。執着している自分の方がおかしいのは誰から見ても明らかで。
……なんて言うと思ったか、と背中から呟く声。彼が再び振り向いたのと狐面の少年が後ずさったのは同時で、しかし一歩早く鬼が肩を捕まえた。
狐面を両手で挟んで上向かせる少年からはすっかり笑みが消え失せていた。
「いい加減に認めないと本気で怒るからな」
「……」
「待っててくれたんだろ?」
「ああ」
「よし。捜しててよかった、やっと幻想じゃないお前に会えたよ」
押さえつけていた両手が離れる。
やっと君に会えた。
ずっと待ち望んでいた。でも『君』がどこの誰なのか分からない、この世界に存在しているとも限らない。
それでも時々せき立てられ、誰も来ない教室で吹けない口笛を吹き、下手な歌を口ずさんでは日を明かして。
そして現れたのが彼だった。最初はお互いすれ違って別れたけど、また会いたいと願って再会したのなら彼が捜し求めていた君なのだろう。そう思えた。
お近づきの印にと鬼が差し出した手には酒の入った瓢箪。どうやら酒飲みらしい。丁重に受け取って一杯の酒を飲み交わした。
2015.6