鬼のおみやげ
鬼の怪異は変わり者だ。度々鳥居をくぐっては、そのむこうへ行っては土産を持って狐の怪異の元へ戻ってくる。祭りのむこうに広がる世界の一部を見せてくれるのは密かに楽しみだったが、彼が持ち帰るのは相変わらずヘンテコな物ばかり、驚かせた顔を見て笑うまでが鬼の旅行プランらしい。
「ほら、見てみろ。綺麗だろ」
今日出会った彼は見せびらかすように紅葉の葉をくるくると回した。秋らしく紅く色づいたひとひらの葉。「外」は紅葉に溢れているのだろう。こちらに紅葉が望める場所はないので少し羨ましい。渡り廊下から見えるのは無人のグラウンドだけだ。
羨ましくなっても鬼のように奔放に外へ出ようとは思えない。もたらされる話から外は楽しく前快なもので溢れているのが分かるし、ちょくちょく出かけていくから実際楽しいのだろう。
しかし、土産話にどれだけ惹かれてもこの逢魔ヶ時の祭りから出ることはきっとない。狐は祭りが好きだし、この世界に特に不満もないから、一時でもここを離れる気にはならなかった。
「ああ、綺麗だな」
「だろ。鳥居を越えたら山に着いてさ、生憎と人間はいなかったけどそれはそれで静かでよかったな。キノコ食ったり、鳥食ったり、山菜探して食ったりしてきた」
「食べてばかりだな」
「仕方ないだろ、誰もいなかったんだから」
体育館の外壁へもたれかかって、二人並んで座り込む。土産と渡された紅葉の葉は読んでいた文庫本に挟んで栞代わりにしよう。鬼の旅行話を聞き流しつつ、文庫本へ目を落とす。
話し終えると満足したのか鬼の怪異は腰を上げ、校舎の方へ着物の裾を翻した。祭りへ行くか、校舎で一休みするか、はたまた鳥居を越えるのかもしれない。
追いかけないで着流した背中を見送る。
ひらひらと舞い落ちる紅葉が映った気がした。
2015.10