悪戯好きの銀の蝶
紐の先から現れたのは銀に光る髪飾り。横向きの蝶を象ったプラスチックのバレッタは見るからに安物、300円のくじの景品なんてこんなもんか。
彼女にあげたら? と屋台の兄さんは言うが、屋台で取った物もらって喜ぶ女子なんかいるのか? あげたら絶対振られそう。第一あげる相手がいないから新と二人で祭りに来てるのにな。
屋台の兄さんに突き返したが交換出来ず、隣に流した。
「いる?」
「いらない。自分で着けたらどうだ」
「俺が着けても面白くないし、お前の方が似合いそうじゃん?」
「面白さは求めてな……こら止めろ」
振り上げた腕のバリケードを越えて、銀色の蝶は鮮やかな黒髪に羽を休める。パチンとバレッタを止めた矢先に、新の持っていたうちわが仁の顔にぶつかった。
鼻をさすりながらもニヤニヤ笑いが止まらない。案の定、可愛いとか初対面の兄さんに言われて、肩を震わせてるし。分かりやすいなー、本当。
からかわれても外されることなく頭に止まり続ける銀の蝶が引っかかったが、面白いからそのままにしておこう。
「そっちの彼女もやってかない?」
「男です」
ため息を吐き出し、店主にお金を払う。別に見間違えるほど女顔じゃない新が、たまに女子と間違えられるのはやっぱり身長のせいか。
「男物の浴衣着てるのにな」
口を噤んで睨み付ける新と目があったのは一瞬で、すぐに逸らして引っ張る紐を身繕い始めた。ほどなくして細い腕が一本の紐を引いた。
間違えてごめんねーと店主から手渡された箱から出てきたのは同じ蝶の髪飾りだった。ボロい商売してんなー。
「ツいてないなー、同じのか」
「二つもいらないからこっちは君に」
「……まさかわざと当てたとか」
「そんな訳ないだろう。ほら」
目を細めて意地悪く新が微笑む。やられた、髪飾りをすぐに外さなかったのはこのためか。同じ物が出たのは偶然だろうが、どんな形でも仕返し出来れば彼の勝ち。
今度は君の番だと浴衣の袖を掴まれた。
2015.11