140文字SSまとめ
「愛せるものなら愛してみろ」
実に面倒くさい。こんなに面倒な奴だとは思ってなかった。呆れたため息が漏れ、無表情に新は見返す。他にもっと適した言い回しがあるだろうに、それを選ぶ遠藤仁の恋愛偏差値はかなり低いようだ。仮に女子なら、いや、きっと女子でも無いと首を横に振るだろう。そんな口説き文句。
「きっと、たぶん」
ここぞという時強く出れないからきっと彼をさらえやしない。結局最後まで一人寂しく行くわけだ。そう選んだのは俺だけどやっぱりお前には付いてきてほしい、駄目かな?帰りたくない気持ちを分かち合えるお前とならきっとむこうで楽しくやれるよ。でもお前は俺を選ばないから、ここでお別れ。
仁新で「貴方の心臓が欲しい」
「もう面倒だからお前の心臓俺にちょうだい?」笑ってリボンを指に絡め取る吸血鬼に横着するなと水先案内人の彼は呆れ顔。吸血鬼の仮装だから血がほしい?違うだろう、本当にほしいのは心臓じゃないくせに。自分で気づかない内は絶対に連れて行ってやらない、と新の手の中でランタンが揺れる。
「多分上手く笑えていない。」
笑顔のコツって何だろうな。万年笑顔の俺が言うのも何だけど自然に笑うのすっごくムズくない?どうやって笑うんだっけ。マジで悩む時あるんだけど、あれ怖いよな。思い出せないと笑えないんじゃないかってもう冷や汗もの。ずっとお前らと一緒だといいのに。「俺、ちゃんと笑えてる?」
「天秤はいつまでも重いまま」
これでも軽くしようとしてんだよ。と中身をひっくり返すけどあれもこれも懐かしくて手放せない。手放せないまま新しい思いが次々増えて乗っかっていく天秤。傾きがまたひどくなる。
「取捨選択は大事だな」
「コラ、勝手に取り分けるなよ。……あれ、そんなのあったっけ」
「多過ぎて忘れてるだけだろう。減らせば軽くなる」
「いーから戻せって。持ってることが重要なんだよ」
それ見たことかと彼は取り分けた思いを慎重に俺の皿に乗せ直す。総量は変わらないけど整理されたお陰でずい分見栄えが良くなった。一つを手に取る。
これ新の方に乗せたらどうなるんだろ。隣の皿にこっそり移し替え。
「分けようとするな」
「ずっと俺の方が重いままで天秤壊れたらイヤだし?」
「いきなり横から増やされても困る。人には適量というものがあるんだ」
移し替えた思いはリターン。やっぱり駄目か、と何倍もの差を見比べて眉間にシワを寄せる。重そうに天秤が揺れて傾く。釣り合わない天秤は片恋の証。
重いのかなあ。よいしょと新が腕を伸ばして思いを乗せていた。小さくカタンと揺れる皿に彼の顔が綻ぶ。なんだ、心配なんか要らないじゃないか。うれしそうな横顔が振り向く前に抱きしめた。
「ご機嫌取りも楽しみのひとつ」
「新発売のお菓子食う?」「食べる」「ほら」「ありがとう」開いた箱を傾けてザラザラと新の手に落とす。飴が好きだという彼好みの甘いお菓子。これで機嫌が良くなるなら安いものだと口に一つ放り込む。「……おいしい」そうやって顔を綻ばせてくれる度密かに心が浮き足立つ。
「死ぬまでの君を全てください」
「これどう思う?重い?」流麗に台詞を紡ぐと仁は至って真面目に伺いを立てる。「プロポーズみたいに聞こえる」「言われたらお前うれしい?」そう言われるとちょっと重いかもしれない、一体何の台詞なんだろう。「あーあ、口説き文句って難しいな」これは笑うところなんだろうか?
2015.10~12