冬の星座(モラトリアムのキス) 学生時代、最終考査を終えて二人で旅行に行ったことがある。本当は大人の許可が必要で、IDだって就業証明があるものじゃなきゃいけなかったのだが、狡噛はどこかに手を回して(多分廃棄区画だろう)本物と見紛うばかりのIDを俺に用意した。旅行先に選んだのは、東北に近い、人が住むぎりぎりの地区だった。もう少し行けばハイパーオーツ畑といったところだ。そこはひなびた温泉宿で、女将も不思議がっていた。もうここらには何もありませんよ。名物の祭りもあったんですけどねぇ、シビュラシステムの命令で、みぃんな宿を仕舞ってしまって。私ももうそろそろ終わりにする予定です。
美味しい料理をたくさん食べて、掛け流しの湯に浸かって、そのまま寝るのかと思ったら、狡噛は俺を散歩に誘った。女将は懐中電灯を持たせてくれたのだが、それはとても狡噛の散歩には役に立った。何せ彼は林の中の一本道を歩き、光などなかったから。
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