誘拐と猗窩煉 目を瞑っていても、見えている目蓋の内側がくるくると回転しているような、不思議な浮遊感があった。
徐々に体が覚醒へ向かっていくと、ひどく喉が渇いていることに気が付く。口の中に嫌な粘つきがあり、耐え切れず唾液を飲むとゴクリと喉が鳴った。
身体のあちらこちらから痛みを感じ、声にならない呻き声が洩れる。重たい目蓋を開こうとすると、目ヤニで睫毛が引っ付きスムーズにいかない。ようやく開いた両目の視界を確かめるように、何度も細かく瞬きをする、ぱちぱちと嘘みたいな音が立ち、そうして見えたのは知らない部屋の天井だった。
「アカザ。」
一人切りだと思っていた部屋で、男の声が響く。
重怠い体では咄嗟に動くことが出来ず、首と視線を動かして部屋を見渡すと、自分が干乾びた布団の上に横になっていること、自分の腹の上に頭を預け重なり合うようにして寝転ぶ金髪の男の存在が確認できた。無造作に伸ばされた金髪、毛先には赤色のメッシュが入っている、派手な男だ。
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