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    nanase_n2

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    nanase_n2

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    サカデの俺キンです。(俺=自我のあるモブくらいでお願いします)
    夢じゃなくて俺小説です(?)。
    キンダカさんいいよね…大好き…

    俺キン俺は殺連本部の総務で働いている。
    今の仕事は嫌いじゃない。それに最近は自分の仕事ぶりが課内で認められて、リーダーに抜擢された。
    俺はかつてはJCCに通い、プロの殺し屋になるつもりだった。
    殺し屋としての訓練をしていたが、三年の時怪我をしてドロップアウトした。
    でも怪我はほとんど周囲への言い訳のようなものだ。
    本当はあまりに訓練が苦しさに耐えられなかったから。
    JCCの同期は殺し屋として前線で働いている。彼から聞く話はどんな苦労でも自慢話に聞こえた。
    今でも後悔してる。あの時、諦めなかったら殺し屋として一人前になっていたのかもしれないと。
    近頃、もう一度JCCの編入試験を受けてみようかと頭をよぎるようになった。
    先月二十五になった。これが最後のチャンスかもしれない。

    ***

    殺連本部へ毎朝出勤する時に、エレベーターで同じ時間に乗り合わせる男がいる。
    サングラスをかけ茶髪の三十代後半に見えた。背も高くてガタイもいい。
    でも人事課のファイルを見てみたがこんな外見の殺し屋はいない。
    納入業者にしてはいつも手ぶらだし、スーツでも作業着でもない。
    あ、サングラス越しに目が合った。
    「おう、おはよう」
    そしてかなり気さくに話かけてくる。といってもかわすのは挨拶くらいだけど。
    「お、おはようございます」
    俺が返すとその人はにっと笑う。
    なんかチャラい人なのかもしれない。でも悪い人ではなさそうだ。
    俺は総務のフロアで下りた。エレベータは殺連本部の最上階のフロアまで上がっていくみたいだ。
    あの人、偉い人にはとても見えないんだけどなぁ。



    ある月は処理が終わらなくて連日夜遅くまで残っていた。
    さすがに疲れて自販機へコーヒーを買いに行く。
    消灯時間を過ぎて廊下は暗い。自販機だけが煌々と明るかった。
    その廊下の先にぬっと黒い影が現れて、俺は思わず声を上げそうになった。
    「……っ」
    俺が硬直していると、その影は近づいてくる。
    「お、なんだ、お前か~」
    それはエレベータの男だった。びっくりした、夜見ると熊みたいに大きく見える。
    「何?残業?朝疲れた顔してたぜ?」
    彼は近づいてきて自販機の前に立つ。
    俺はようやく我に返った。
    「あ、はい……、お疲れ様です」
    「忙しいのはいいことだが、限度ってモンはあるよなぁ~」
    彼はへらへらと笑いながら自販機のボタンを押す。
    「何飲むの?」
    出てきたペットボトルを取り、俺の方を向いてニコッと笑う。俺はぶんぶんと首を左右に振った。
    「いやっ、そんな、悪いです」
    「え~、そう言いなさんなって。コーヒー?ブラック?」
    矢継ぎ早に言われて俺は思わずうなずいてしまった。
    「ほい」
    取り出し口に落ちてきた缶を拾って、俺に渡す。
    「あ、ありがとう、ございます……」
    「いいって、これくらい」
    彼はペットボトルの蓋を開けてごくごくとのどを鳴らして飲んだ。
    俺はコーヒーのプルタブを開けたまま、彼の横顔を眺めていた。
    彼は一度スマホのメールをちらっと見た。
    「あの……変なこと聞いていいですか?」
    尋ねると彼は俺の方を振り返った。
    「何?金貸してくれとか?」
    「いえ、そういうんじゃなくて……」
    なんでこんな話をしようと思ったのかわからない。
    でもいつも会うこの人なら、賛成してくれるんじゃないかって思ってた。
    だってチャラいし、責任を取らないでいい他人の人生なんてどうでもいいだろうから。
    「俺……、もう一度JCCの編入試験を受けようかって思ってるんです」
    「へぇ~……、アレ、結構難しいんじゃないの?」
    「まぁ、そうなんですけど」
    俺は顔を伏せた。
    「……そこまでして殺し屋になりたい理由があるんだ?」
    彼の声が頭上から聞こえた。
    理由?そんなことを聞かれるとは思わなかった。
    JCCから殺し屋になった連中も
    「いえ、理由とかじゃないんです。JCCで一度ドロップアウトして、どうしても諦めきれなくて……」
    「…………」
    「俺にとっては夢みたいなものなんです」
    すると彼はため息をついた。
    「そんなトロいようじゃ、死ぬぞお前」
    俺は彼の言葉にどきりとした。今まで聞いたことのないくらいひんやりした声音だった。
    「いえ、俺は……」
    顔を上げると、彼は窓を背に立っていた。
    月が登り始めて差してくる月明りで逆光になる。
    「今日また仲間が死んだ。いい奴だった」
    彼はとつとつと語った。さっきのメールの内容だろうか。
    「……こういう知らせを、もう受け取りたくないんだ」
    「でも、その人も殺し屋だったんですよね……?」
    すると彼は首を振る。
    「だから死ぬのは当然だと?」
    サングラスを外すと、俺の方へ近づいてきた。
    目が合うと俺は後ずさった。すぐ後ろに壁があって、あっという間に追いつめられる。
    すぐそばに彼の顔があった。
    いつものチャラい言葉もにこやかな表情もそこにはなかった。
    そこにあるのは、研ぎ澄まされた獣のような殺気だけだ。
    首筋にひやりとした刃物が押し当てられているのだろうか。
    少しでも動けば殺される。いや、俺はもう死にかけているのかもしれない。
    指先が緊張で冷たい。息ができない。
    暗い海に置き去りにされたみたいだ。誰か助けて、そう叫んでも誰も答えてくれない。
    それは今まで感じたどんな孤独よりも嫌な気持ちだった。
    「……あいつはこういう気持ちで死んでったんだぞ」
    そう言うとすっと背を向けて離れていった。
    俺は何も言えなかった。
    彼は二、三歩離れて、くるりと振り返った。
    「なんてな。俺、意外にイケメンでびっくりしただろ?」
    そう言ってにやっと笑う。
    いつもの彼の表情だった。
    「……あ、あの……」
    ようやく俺の咽喉から出た声は掠れていた。
    「残業はほどほどにな~?体に悪いぞ」
    俺の声に気づかなかったのか、そう言い残して彼は去っていった。
    足音が聞こえなくなるとようやく緊張が解けた。
    「……ふ……」
    廊下の壁にもたれかかる。自分が情けなくて立っていられなかった。
    殺し屋は憧れてなるものじゃない。ましてや夢でもない。
    誰かを殺すことしかできない人間がなるものなんだ。
    彼はきっとそれを伝えてくれた。
    エレベーターでただ一緒になっただけの俺に。
    俺は総務のデスクに戻り、JCCの編入試験の申込用紙を破って捨てた。



    翌朝、眠い目をこすりながら出社する。
    昨日はあまり眠れなかった。
    でも不思議と気持ちは晴れ晴れしている。
    出勤して込み合うエレベータに乗り込むと彼がいた。
    「おう、おはよう」
    いつものように斜め後ろから声をかけてくる。
    「おはようございます」
    俺もいつものように返す。
    途中のフロアで半分くらい乗り合わせる人数が減ると、俺は彼の隣に移動した。
    「俺、今の仕事、もっと一生懸命にやってみます」
    前を見たまま言うと、彼がうなずいた気配がする。
    「……そうか」
    顔を見なくても、その声はなんだかうれしそうに聞こえた。
    エレベータはすぐに総務のフロアについた。
    俺は壁から離れて開いたドアに向かう。
    エレベータを降りて立ち止まる。
    「あんまり自分のことイケメンって言わない方がいいですよ、それが本当でもモテないし」
    振り返って言うと、彼は唇ににやりと笑みを浮かべた。
    「辛辣なアドバイスどーも」
    その言葉は閉まっていくドアの向こうに消えた。
    辛辣はお互いさまじゃないか。
    それがなんだかおかしくなって、俺も一人で笑ってしまった。(完)
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