宇宙高く宙は鳴きプププ…ププ…ルルル…ボロン
乾いた空気の中に乾いたギターの音が溶ける。
指先から弾ける波紋はノイズに消えて、曇天の宇宙に微睡む。
「ここは暗く、寒いね。悲しくて落ち着くよ」
空からたくさんの忘れ物が落っこちてくる中、こんなことを呟いてみた。
ギターの音よりもボクの声は忘れ物に吸収されない。そんなとんでもない忘れ物は持ち主の元へ還ることは、ない。
ラズベリーの香りのする宇宙では、またひとつ宝物を無へと還す音がする。
『無』という存在が『有』るこの世界は面白いと喉を鳴らした。
「神さまはいないけど、お姫さまはいるよ」
ピックを放り投げて、付け足すように
「お姫さまという、神さまはいるよ」
楽しい言葉遊びをしたところで部屋に戻った。もちろんギターは忘れ物と一緒に忘れてきた。
「お姫さまも、王子さまも、いるんだよ」
おかえりの代わりに世界を越える声がノイズされた。
発信源は捜すまでもない。
「やあ、鏡の向こうの王子さま。キミは相変わらず不幸そうだ」
「そんなことはないさ。今日限りは誰もが幸せだよ」
「なんだい?世界は幸せに満ち溢れたとでもいうのかい?」
「わあわあ、物騒すぎて心からソーダ水が流れてしまうよ」
王子さまは飛んできた星屑から身を守るように両手を小さく上げる。
「世界中が幸せだったら、それは幸せではないよ。
嘘だと思うなら、ほら、そこにある無機質な箱をあけてごらんよ。真実はそこにあるからさ」
「真実は事実であるという保証はどこにもないけれどね」
ボクは疑うことなく何の飾りもない、ちっぽけな箱を無造作に開けた。
中には何も無かった。
あるとしたら酸素とか、ホコリとか、目には見えないもの。
「見えたかい?」
「ああ、見えたよ。これは一体何の悪戯かな」
「見えたならいいじゃないか。それ以上に求めることは何もないだろう?」
無が有るビックリ箱をひっくり返した。夢が舞い踊っていた。
「今日はいい日だね。今夜ぐらいは友達なんて放っておいて、世界の美しさに酔いしれ、溺れるのもいいんじゃない」
風も空間もない鏡の中で王子さまの髪が静かに揺れた。
「……すてきなプレゼントだ。宇宙、銀河、星、そして生命。無から生まれた事を祝福するのも悪くないね」
地球のさびしさが伝わった星の鳴き声。
祝福が微笑んだ。
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最後にオオカミ少年が見つけたもの、ひとつひとつの言葉の意味、きっと人それぞれ、いろんな解釈があると思います。
でもきっとその考えは言葉にした途端、意味を無くしてしまうと思うので、心の隅っこにそっと置いといてください。耳を傾ければそこにあるのですから。
空っぽの言葉には実は深い深ーい意味があって、まっさらな雪原の中から1時間前に降った雪の結晶を1粒だけ家に持ち帰るような、難しいことなのかもしれません。まあ、本当に意味も何もない言霊の可能性もあるんですけどね。
分からないことがあるから、生きるのは面白いのですよ。分からないことがあるから、生きるのが辛いんですよ。人間とは、いや、生き物、万物とは本当に奥が深い。
12/24
オオカミ少年、ハッピーバースディ