暮桜 川沿いには、立派なソメイヨシノが並木を成している。この時期になると薄い花弁がモザイク模様のように隙間なく空間を埋め尽くし、重なり合い、幻想的な木陰を作っている。
「おーい、こっちは捌けたぞ」
「ああ……」
河口側からキースが歩いてきた。足を引きずり気味に歩くせいで、地面に落ちた花弁が砂埃とともに巻き上がる。
リトルトーキョーを通る河川の、河口にほど近いその岸は、日本の友好都市から送られた桜並木で有名な場所だった。もう百年近くにもなるというその並木は、歴史の浅いニューミリオンの中では特に大切にされている。桜の時期には人でごった返すこの場所の治安維持にも、ヒーローが出動しているのだ。最も、今日は夜桜のライトアップの機材点検のため、夕暮れの少し前に人を追い出すというのが仕事である。
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