一年待って夏の暑い日に飲むビールは最高だと、目の前の上司はぐいとどでかいジョッキに入ったビールを呷った。プロヒーローになったとはいえまだ二十歳ではない俺は、それを横目に見つつウーロン茶を飲む。汗をかいたグラスに負けじと、ふうふう言いながら吹き出る汗を拭って、俺の上司、ことファットガムは熱々のたこ焼きを口の中にいくつか放り込み、はふはふと嬉しそうに頬張っていた。
「ビールとたこ焼きが最高に合うねんで。君にそれを教えてあげられるまで、あと一年やなァ」
あと一年。そう言いながら、柔らかくファットガムは目を細めた。
「そうっスね」
「君と飲めるの、楽しみやな」
楽しみだ、と俺も思う。こういう夏の暑い日だけは、普段はそれほど興味の湧かないビールとやらが酷く魅力的に見えた。
「そんなに美味いンすか、ビール」
「美味いかって言われると、何ともいわれへんけど……癖になる感じ?」
居酒屋の、年季の入った木製のテーブルの上に頬杖をつき、俺は面白いほどどんどん減っていく黄金色の液体を見つめた。自分の隣に座る天喰はお腹いっぱいになるからとって、早々と焼酎の水割りに移行したけど、ファットガムはずっとビールばっかり飲んでいる。そんなビールも10杯目を超えて、とろんと、少し酔っぱらったこの人の顔を見ンのが、俺は、結構好きで。普段は蜂蜜に似てんなって思うファットガムの目の色が、だんだんビールの色に見えてくる。
「なァ、切島くん」
いつもより、少しばかり距離も近くなって。声も甘くなって。
「今日もかわええなぁ、ずっと、うちの事務所に居るんやで、どこにもいかんでな」
甘えるように指先が、ウーロン茶のコップを握る俺の手の甲をなぞって、ふふ、とファットガムはうっとりした顔で笑った。もしかして、ビールの中にちょっぴりの媚薬でも入ってんのかなって感じ。翌朝になればいつも、忘れてしまったみたいに元通り戻るけど。
「どこにも行かないですよ、ファットのこと、俺好きですから」
「ん、俺も、好き好き」
くすくすと、くすぐったそうにファットガムが笑う。ああ、あともう一杯飲んだらきっと、潰れて寝てしまうかもしれない。そしたら何も覚えていないファットガムの出来上がり。
「早く……一緒に、酒飲みたいっスね」
好きと言う言葉を酔えば平気で吐くくせに、いつもはそんなそぶりも見せないこの人に。どうしても一歩踏み出せない、俺の理性をどうか、アルコールが壊してくれますように。
酒が飲めるようになるまであと、一年、待ってて。