いばにゃんを可愛がる回「ほーら、茨、猫じゃらしっすよお」
「ぐ……」
「ねずみちゃんもあるね〜〜」
「うぬぬ……」
「……紐もあるよ」
「そんなものに! 惑わされません!」
茨がベッドの端にこちらに背を向けて蹲ってしまった。ねこみみとしっぽが生えてしまった茨は、ねこの性質も備えてしまったらしい。
「一緒に遊んだほうが楽しいね? 猫ちゃんになっちゃったんだからそれを楽しむべきだね〜〜」
「もう記録は取りませんから、茨、おいでおいで」
「い、いやです!」
茨は断固として背を向けて蹲っている。
「……ううん、茨、本当は遊びたいんだよ、ほら」
日和くんとジュンに、茨の耳と尻尾を指差して見せた。
茨の耳はこちらに向いてぴくぴくし、尻尾は立って、くねくねしている。
それは遊びたい時の合図。
「じゃあ、茨、おやつにしようか」
持ってきたチーズのおやつを開けると、茨がピクリと反応して、おずおずとこちらを向いた。
「はい、どうぞ」
「……ありがとう、ございます」
いい匂いに負けたのか、茨は素直に受け取ってもくもくと棒状のチーズを食べ始めた。とってもかわいい。
「茨、せっかくだからこのおもちゃの品評をしてほしいんだけれど。そうして企業にフィードバックしたら社会貢献になる。監修の提携もできるね」
「……なる、ほど、……さすがは閣下であります! それなら自分、遊ばせていただきます」
こうして仕事を口実にしたら、プライドの高い茨は遊んであげるという理由ができる。それで遊べるのだ。
「凪砂くん、手慣れているね〜〜」
「ナギ先輩すげぇ」
「よしよし、じゃあ遊ぼうね」
「アイ・アイ!」
それからは茨はねこちゃん仕草でおもちゃと遊んだ。猫じゃらしもねずみちゃんも紐も、それはそれは興奮しながら猫仕草でじゃれついている。
「ほら、茨、こっちだよ」
「あう、抗えないっ!」
「つかまえてみてね〜〜」
「まかせるであります!」
「これはどうすか」
「はっ! 心拍数が上昇する!」
耳をぴこぴこして、尻尾を揺らして遊んでいる。おっきいねこちゃんである。
「かわいいね〜〜」
「茨、かわいい」
「……かわいい」
「かわいいっていわれると興奮します! 現場からは以上であります!」
「じゃあもっといってあげるね!」
ふんふんと鼻息を荒くして部屋をゴロゴロしている茨は、ほんとうにねこちゃんだった。
「……茨はほんとうにねこちゃんが似合うね」
「それは! よかったです?」
興奮したねこちゃんみたいに、部屋を走り回る。
そうして急に、体を床に擦り付け始めた。
「茨、どうしたね?」
「これはっ、が、我慢ができないであります……!」
「あ、これマタタビですねぇ」
ジュンの持っていた猫ちゃんグッズに、マタタビの木の棒が入っていたらしい。
「あう、あ、なんかっ……っ」
茨は仰向けになって、とろんとした顔でこちらを見やった。
「茨、大丈夫?」
「かっかぁ……♡」
「わ」
茨は四つん這いでこちらにやってきて、がばっと私に抱きついてきた。そうして、顔を胸にすりすりくっつける。
「わー、茨が酔っちゃったね」
「やっぱり茨はナギ先輩が好きなんすねぇ。体を擦り付けるのは信頼してて甘えてる証拠っすから」
「でんかぁ♡ じゅんん♡」
茨は日和くんとジュンの間に入っていって、同じようにすりすりと体を擦り付ける。尻尾はピンと立っていて、すきすきといっていた。
「かわいいね……♡ あごなでなでしてあげるね……♡」
「じゃあおしりぽんぽんしてあげますねぇ」
「あう……♡」
ごろごろと喉を鳴らして、茨はますます酔った顔をした。かわいいかわいい私たちの茨。
茨ははぁはぁ息を吐いて、私たちをねだるような目で見た。
「かっか、でんか、じゅん、あの、あの、いいこと、しませんか……♡」
みみをぴくぴくさせて、尻尾をゆらめかせる。
茨からのおねだり。
それに抗う術を、私たちは知らなかった。
(220319)