10/30新刊進捗 あれから玲太くんとは特に何事もないまま過ごしていた。恋人としてのスキンシップも今まで通り軽いキスやハグくらいで、あの日のような深いキスもしていない。穏やかな反面、それはそれで何だか物足りないような気もしていた。玲太くんにあんなことを言われてから、わたしもそういう意識をするようになったのだろうか。しかし、未知の体験へ一歩踏み出す勇気は中々出せずにいた。
そうこうしているうちに五月の連休に入り、玲太くんと久しぶりのデートへ森林公園に出かけた。
「ふふっ、久しぶりのデートだね」
「ああ。高校生の頃もよく来たよな、ここ。ごめんな、今日しか休み取れなくて」
「ううん。その分今日はいっぱい楽しもうね」
「だな。じゃ、行こうぜ」
玲太くんと手を繋ぎ、公園の並木道を歩いた。こうして手を繋ぐと、高校生の頃に初めてここに来た時に玲太くんと手を繋いで嬉しかったことを思い出す。
(あの頃はこうして玲太くんとデートできるだけですごく楽しかったなぁ)
勿論、今も玲太くんとこうして一緒にいられるだけで幸せだ。でも、今はもっと――。
「どうした?」
「ううん、なんでも……どこ行こうか?」
「そうだな。並木道抜けたら、広場の方行こうぜ。ランチもそこで食べてさ」
「うん、そうしようか」
玲太くんとこうして一緒にいられるだけで幸せなはずなのに、もっと、なんて……。玲太くんに対してどんどん欲張りになっているような気がして、そんな自分をはしたないと思っていた。
公園の並木道を抜けると、芝生が広がっていた。同じくレジャー客で賑わっている。
「よし。この辺でランチにするか」
「うん。お弁当作って来たから食べよう」
「サンキュー。楽しみにしてた」
芝生にレジャーシートを敷き、今日のデートのために作って来たお弁当を玲太くんと一緒に食べた。
「ごちそうさま。美味かった」
「ふふっ、お粗末様でした」
「食ったらなんか眠くなってきたな」
「そうだね。ちょっと休憩する?」
わたしもちょっと眠くなってきたような気がするし……。レジャーシートの上に寝そべると、玲太くんはわたしの手を取って自分の方へ引き寄せた。
「えっ、玲太くん?」
「このまま一緒に寝るか? ……なんてな」
「えっ⁉」
一緒に寝るという言葉にドキっとして顔が熱くなる。すると、玲太くんにクスっと笑われた。
「バカ。こんなところで何にもしないよ」
「あっ、そうだよね……」
まだお昼だし、周りには人もいるのに、自分は何を考えていたのだろうと恥ずかしくなる。
「それに言っただろ? おまえがいいって言うまで待つって」
「う、うん……」
玲太くんはここで何もしないことを改めて約束する。そう言われたら、やはりわたしが玲太くんを待たせているから先に進めないのだと申し訳ない気持ちになる。
「ほら、来いよ」
玲太くんは手を繋いでいない方の腕を腕枕するように差し出す。
「え、えっと……お邪魔します」
差し出された玲太くんの腕におずおずと頭を乗せると、玲太くんはわたしの髪を優しく撫でて「おやすみ」とおでこに軽くキスをした。
「……っ! 何もしないって言ったのに……」
「いいだろ、これくらい。デートなんだし」
「もう……」
玲太くんと手を繋いでいない方の手でキスをされたおでこを押さえる。まだ軽いキスでもこんなにドキドキしているのに、それ以上のことなんてやっぱり恥ずかしい……。