雌獅子は愛を抱く『このお電話はお繋ぎする事が出来ませ――』
何度か聞いたメッセージを最後まで聞かずに通話を打ち切る。
「……はぁ」
深々溜息を吐いて、これ以上は無駄だとスマートフォンをサイドテーブルの上に置いた。そのすぐ近くにはこの家には不釣り合いな、ファンシーなキャラクターが表紙を飾る手帳が一冊。
おめでたですねと全くめでたくない事を病院で宣告されたのは、獅子神が恋人「だった」村雨に別れを告げられて二週間後の事だった。
その時の獅子神は生まれて初めての恋が終わった痛みから食欲不振が続き、けれど幾ら何でもこんなには続かないだろうと訝しんで病院を受診してみれば、内科から産科に回されて容赦のない宣告だ。
何とか顔を強張らせないように笑顔を作ったつもりだが上手く行っていただろうか、と獅子神は明後日の方向の心配をする。
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