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    yurufree

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    暦ランWebオンリー2、開催おめでとうございます!
    ふたりが大好きな気持ちをこめて、ひたすらラブラブハッピー!な暦ランを書きたかったんですが、ちょっと違う雰囲気のお話になってしまったかも…
    長年お互いに気持ちをはっきりつたえられず親友のまま過ごし、アラサーになって想いをつたえあう暦ランです。ハッピーエンドです!

    欠けては満ちる(暦ラン) ランガとの待ち合わせの店に向かうまでの藍色の夜空には、ぽっかりとまるい満月が浮かんでいた。東京じゃあんまり星は見えないけど、月は故郷の沖縄と同じように綺麗に見える。欠けた部分のない満月を見て、なぜだか高校生のころを思い出した。あいつがいつも隣にいて、一緒に滑って、将来はまだ見えなくても、足りないものなんてなかった日々。
     そういや高二のとき、デカめのケンカをして仲直りしたのも夜だったな。
     『無限に暦とスケートしたい』って言ってくれた時、心の底から嬉しかったし、それはある意味叶ってはいる。あいつがプロになって、お互い社会人としての生活がある中でも定期的に会って一緒に滑ってる。それはあの頃に思っていたような『無限』とはたぶん少し違くて、だけどその違和感は今更埋めるべきもんでもないんだろう。もう大人だし。そんなことを考えるたび心の端にチクリと小さな痛みがある。いい歳してそんなこと思ってるの、あいつには言えないけれど。

    「暦、飲みすぎじゃない?」
    「はあ? いいじゃねえかよひさしぶりなんだからさ~。オラ、おまえももっと飲めよぉ」
    「めんどくさいなあ…酔っ払い…」 

     ひさしぶりに二人で会って適当な居酒屋に入って飲みながらも、会話の内容はずっとくだらないことだ。高校時代の話、地元の話、エスの仲間の近況、それからお互いの仕事の話。なんとなくあんまりプライベートには触れない。意識してるのは自分だけかもしれないけど。
     ランガはまったく酔った様子はなくて、涼しい顔で何杯めかのモヒートを飲んでいる。何年か前にモヒートを飲んだ時は「にがい…」と眉をしかめていたのに「慣れてきたら結構ハマった」らしい。 
     ランガはアルコールに強いし、ずっと飲んでても顔色はほぼ変わらない。それこそ雪みたいに白い肌にほんのり赤みがさすくらい。さらさらとこれまた色素の薄い髪が頬にかかって、こんな安っぽい居酒屋なのに薄暗い照明が謎に絵になる。
     オレは若いころからずっと童顔と言われ続けてきて、それでも最近はさすがに鏡の自分を見て老けたなあなんて思うこともあるけど、ランガは本当に昔のままだ。なんなら大人になったぶん美貌に凄みが出てきた…ような気さえする。ずっと一緒にいた頃はコイツの顔がキレイなことなんて普段忘れてた、日常すぎて。

     ひさしぶりにランガから「時間あいた。会わないか?」って誘いがきた時、指定された時間が夜だったから「ちょうどそのくらいに仕事終わるから飲みにいかね?」って返して、それに「いいよ」って帰ってきたときなぜだか「助かった」って思った。会うのは数ヵ月ぶりで、素面で対面でメシとか食うのも緊張してしまいそうで、アルコールがあったほうがやりやすい。
     でもランガと会うのに緊張するって何なんだろうな。
     高校の頃ではありえない。卒業して何年かたってもありえなかった。ランガとはいつも会えば元の空気感に戻れていたから。

     オレは東京で就職して、ランガも選手としての活動拠点は東京だけど世界中飛び回ってるからいつどこにいるのかよくわかんないことも多い。
     昔は、あんなに当たり前に毎日傍にいたのに。

    「暦、からあげもう一皿追加していい?」
    「なー、ランガぁ」
    「なに?」
     酔っていたせいか、思わずぽつりと声に出た。
    「なんでオレら、離れて暮らしてんだろーなぁ…」
     そう言うと、ランガは「はあ?」とあきれたような顔をした。
    「それを暦が言うわけ?」
    「え?」
    「俺は暦と一緒に暮らしたいって言ったのに。高三のときに」
    「あ? あー…」
     ああしまった、と思った。そうだ。これはオレとランガのあいだの小さなわだかまり…って言うのとは違うかもしれないけど。高三の夏以来触れられずにきた部分だった。
     いやでも、正直ランガはもう忘れているのかと思ってた。覚えてたのかよ、と小さな驚きがあった。

     夏に進路票が配られて、いよいよ本格的に決めないといけない時期で、いつものオレの実家のガレージで話をしていた。
     ガレージは空調もないから暑くて、ボロい扇風機カラカラ回しながら、アイスなんか食べながら話してた気がする。
     進学か就職か、進学なら大学か専門か、県内か県外か。まだまだ将来はぼんやりしていて、それでも否応なく期限は迫って、なんとなく「ランガとは離ればなれになるのかな」としんみり考えていた。といっても今生の別れでもあるまいし、会おうと思えば会えるしな、とオレは意識的に楽観的に考えるようにしていたと思う。
    「暦は東京の学校にいくの?」
    「そうなるかもなー、やっぱデザイン系の勉強とかしたくてさ…美大、は無理だろうし…、専門とか。ま、一度、親に相談しないとだけど」
    「そっか。じゃあ俺も東京行こうかな」
    「じゃあってなんだ、じゃあって。真面目に考えろよ」
    「俺なりに真面目に考えてるよ。暦と一緒にいたいんだ。卒業したら一緒に住まない?」
     ルームシェア。親友同士なら多分よくある話だ。
     でもそのときのオレは咄嗟に頷けなかった。
    「え~、だっておまえさあ、お互い彼女とかできたらどーすんだよ」
     だから思わず笑って茶化した。
     それにランガは少し傷ついた顔をした。
    「暦がいやなら、いいけど」
    「いやっつーか…、いやなわけじゃねえけど…」
     そのままその話はうやむやになった。お互い、東京の学校に進学して別々の路線の部屋を借りて、ランガはスケーターとしての仕事が忙しくなって大学を中退した。
     
     一緒に暮らそうって、なんとなくあのときのランガは思いつきで言ったんだろうと思ってた。カナダから沖縄に来て、それからオレとはずっとべったり一緒にいて、あのときのオレは親友だけどもはや親鳥みたいなもんでもあった。だからオレと物理的に離れるのが不安なのかなって。
     実際それぞれの生活がはじまって、それ以降、ランガから一緒に暮らそうと言われたことはなかったし。



     適当なところで切り上げてお会計して店を出た。そのまま解散でもよかったけど、なんとなく気まずい雰囲気にしてしまった自覚があったので「どーする? うちで飲みなおす? オレは明日も休みだけど」と誘うと「俺も明日は午後からの打ち合わせだけだから、行く」って返ってきて、二人してコンビニでビールと適当なつまみを買った。
    「最近暦の部屋、行ってなかったな。ちゃんと掃除してる?」
    「してるわ。つーかオレの部屋散らかってねえよ、おまえの部屋がものなさすぎなの!」
     お互い実家にいたときと変わらず、何度か遊びに行ったランガの部屋はザ・シンプルだ。最低限の家電と、スケートボード。以上。って感じの部屋。でも、むかしオレがあげた手作りのシーサーと時計だけは変わらず置かれている。
    「実家の暦の部屋は、もっとゴチャゴチャしてたもんね」
    「あちこちステッカーとか貼ってたしな。今はもうできねえな、賃貸だし。ポスター貼ったりするときも気ィつかうし」
    「そっか。でも俺、暦の昔の部屋好きだったな。楽しくて。暦の家族もにぎやかだし」
     ランガが放課後よくオレの部屋に入り浸っていると、母さんや妹たちが乱入したりしてきて落ち着かなかった。うちでよく一緒に夕飯も食べて、小さな双子の妹たちが「ランガくんもうちの子になっちゃえばいいのに」なんて言ってたのを思い出す。
     うるさくねえ? って一度心配して聞いたら「うちはいつも静かだから、楽しいよ」って笑ってたっけ。
     オレの住むアパートまで並んでのろのろ歩きながら、もし高校卒業してすぐこいつと暮らしていたら、こんなふうに並んで歩くのも日常だったのかなって考える。
    「なあ暦」
    「うん?」
    「俺たちそろそろ三十だろ」
    「あー、まあ、そうだな」
     世に言うアラサーってやつだ。
    「暦も誰かと結婚とか同棲とか、考えたりする?」
    「えぇ…、いや、ねぇかなあ。そもそも彼女もいねーし」
    「俺と一緒に暮らせばよかったって思うことあるかなって」
     なんも口に含んでないのに思わず噎せそうになった。まだその話するのか。
     こいつ、もしかして十八歳のあの日からずっと根に持ってたのかよ。

     高校卒業後、オレはなんやかやで美術系の専門に進学して念願の彼女ができたりしたけど、あんまり長続きしなかった。
     なんでかはわからない。オレはオレなりに、マメに時間割いたり、がんばってるつもりではあったんだけど。そして社会人になったらデザイン業界は激務のところが多く、当時の彼女とは互いに仕事で忙殺されて別れたりして、そのあとは恋愛どころじゃなくなった。
     ランガには一度も浮いた話はなかった。言わないだけかと思ったけど、たぶんマジでずっとなかった。
     ミヤが「ランガは彼女とか作らないの?」って直球で聞いた時も「要らない」って即答していたらしい。
     要らないってなんだよ、要らないって。プロスケーターで、有名にもなって、いくらでも可愛い女の子が寄ってくるだろうに、と思いながらも時折「暦と一緒にいたい」っていうあの夏の言葉を思い出していた。
     もしかしてあいつ、オレのことずっと好きなのかな。恋愛の意味でも。
     いやいやそんなまさか。さすがにないだろ。
     もし仮にそんな感じなら、アイツならもっと直球でぶつけてくるだろ。
     っていうかもはやお互い近すぎて、そんなカテゴリーに入れられない感じだろ?
     そんな押し問答を時折自分のなかで繰り返していたけど、ランガに彼女ができないことには、なんとなくずっと安心していて。だから、つい最近たまたま見かけた、そのSNSの投稿はわりとショッキングだった。
    『馳河ランガはゲイ』
     あんなイケメンで、実績があって女の影がないと、そんなふうに言われるもんなんだろうか。
     とはいえ多様性の世の中だ。その投稿にはすぐさま「品のない憶測だ」とか「仮にそうだとして、アスリートとしての彼の実績に性的嗜好は関係ない」だとか、まっとうにみえる意見のリプライがいくつかついていた。
     けれどオレにはそんなことはどうでもよくて、衝撃で足元が揺らぐような心地だった。
     ランガにもし彼女ができたら、嫁さんができたら、ってぼんやり想像したことはあっても具体的にはイメージできなかった。そして、同性のパートナーができたら、って考えたことは何故だか一度もなかった。
     ランガがオレ以外の男とパートナーになって、一緒に生活して、そいつにだけ見せる幸せそうな顔があって、って、考えたら吐きそうなくらい「嫌だ」と思った。

    「俺はさ、暦のボードで、暦と一緒に並んで滑れたらそれでいいから。それ以外の部分は他の誰かに渡してあげてもいいかなって思ってたんだけど」
    「………」
    「でも、いないなら。そろそろ、俺が暦のことまるごと貰ってもいいんじゃないかなって。暦はどう思う?」

     どう思う、って。
     やっぱりこいつも酔ってるんじゃないのか。

    「俺は暦のことが好きだよ。昔からずーっと」
     アルコールの余韻が残っているのか、どこかふわふわした口調でランガが言う。
     にこにこ笑う顔は昔と変わらず幸せそうで、ああこいつ、ほんっとに昔からオレのこと好きなんだなあってなんだか泣きそうになる。

    「あのなあ…」
    「ん?」
    「おまえ、ずりーよ…」
    「何が?」
    「おまえばっか昔からカッコよくてさあ………」
    「は?」
    「オレから言わせろよ、たまにはさあ~~~」
    「だって暦言わないじゃん。ずるいのは暦のほうだろ」
    「うっ」
     ぐうの音も出ない。そーだよ。オレは言えなかった。

     一緒に暮らそうって言われて、なんであの時自分は頷けなかったんだろう、って考えても自分でもずっとよくわからなかった。ランガとだったら気心知れてたしラクだし、一緒に暮らせば家賃だって助かったし、そうしても良かったはずだ。

     彼女がいたときは、それなりに可愛いと思ってたし、好きだった…と思う。でも、ランガといる方が楽しかった。それよりもあの頃、ランガと毎日毎日一緒にいて、汗まみれ泥まみれになってスケートしてた日々のほうが何百倍もキラキラと眩しく、懐かしかった。たぶんずっと。
     それを認めるのが悔しかったのかもしれない。だって、もっと世界は広いはずで、オレの人生にだってきっとランガ以外の領域があって…そう思っていたけれど、結局、こいつと出会ってしまったあの春から、オレの人生はまるごとランガに明け渡されてしまっていたのかもしれない。
     ああ、なんで無駄に遠回りしちゃったんだろうな。

    「…あのさー、ランガ」
    「何?」
    「オレの部屋についたら、キスしていいか」
    「うん!」
     返事が早い。食い気味。
    「俺はずっと、暦とキスしたいって思ってたよ。高校生の頃から」
    「マジかー…」
    「暦は一度も思わなかった?」
    「思…わなかったわけじゃねえかも。でもたぶん、考えないようにしてた…」

     なんなんだ。十年以上も、オレって臆病すぎ? どんどん情けなくなってきた。

     オレの部屋につくと玄関先でランガが唇をよせてきたので、いったん手で制した。当然ランガはどうして、と拗ねた顔をしたので「オレからするの!」と言うとぱっと顔を輝かせた。わかりやすいやつ。
     十年前も今日も、ランガから歩み寄ってもらったんだ。ここはオレからいかないとだめだ。
     とはいえ、ずっとダチだった相手にキスするって変な緊張が走る。それでも期待に瞳を潤ませてるランガを見ていたら、愛しい、という気持ちが溢れてきて自然に唇が重なった。雪色の髪に指を差し入れて何度も何度も重ねていると「んんん~~~~」と苦しそうな声をあげた。
     唇を離すと、ぷは、と息をついた。
    「…息するタイミングがわかんなかった」
    「なんだよそれ」
     思わず笑うと「だってはじめてだから。わからないよ」と唇を尖らせる。

    「…おまえ、誰ともキスしたことないの?」
    「ないよ」
    「まじで…?」
     今の今まで?
    「だって、暦とだからキスしたいのに、暦とじゃなくちゃする意味ないだろ」
     なんでもないことのように言うけど、出会ってから十年以上。オレに彼女がいた時期だって当然のように会っていたけど、そのあいだも本当にずっとオレのことだけが好きだったのか、こいつ。
     ああもう、これから何回でも、一生分のキスしてやる。
     衝動のままにぎゅうぎゅう抱きしめると「暦…、苦しいんだけど」と冷静な声で訴えられた。
     どうしよう、可愛い。好きだ。愛おしさが雪崩のように押し寄せてきて、そう言われても全然力を緩めてやれなかった。
     夜空に浮かぶ満月みたいに欠けては満ちて、やっと再びまんまるくなれたような、そんな夜だった。
     

    【めでたし♡】
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    yurufree

    DONE暦ランWebオンリー2、開催おめでとうございます!
    ふたりが大好きな気持ちをこめて、ひたすらラブラブハッピー!な暦ランを書きたかったんですが、ちょっと違う雰囲気のお話になってしまったかも…
    長年お互いに気持ちをはっきりつたえられず親友のまま過ごし、アラサーになって想いをつたえあう暦ランです。ハッピーエンドです!
    欠けては満ちる(暦ラン) ランガとの待ち合わせの店に向かうまでの藍色の夜空には、ぽっかりとまるい満月が浮かんでいた。東京じゃあんまり星は見えないけど、月は故郷の沖縄と同じように綺麗に見える。欠けた部分のない満月を見て、なぜだか高校生のころを思い出した。あいつがいつも隣にいて、一緒に滑って、将来はまだ見えなくても、足りないものなんてなかった日々。
     そういや高二のとき、デカめのケンカをして仲直りしたのも夜だったな。
     『無限に暦とスケートしたい』って言ってくれた時、心の底から嬉しかったし、それはある意味叶ってはいる。あいつがプロになって、お互い社会人としての生活がある中でも定期的に会って一緒に滑ってる。それはあの頃に思っていたような『無限』とはたぶん少し違くて、だけどその違和感は今更埋めるべきもんでもないんだろう。もう大人だし。そんなことを考えるたび心の端にチクリと小さな痛みがある。いい歳してそんなこと思ってるの、あいつには言えないけれど。
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