Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌠 🐣 🍩 💕
    POIPOI 191

    なりひさ

    ☆quiet follow

    ガンマトと魔導書

    #ガンマト
    cyprinid

    最後の魔導書 マトリフはベッドに横になったまま咳を繰り返す。引き攣った喉は細く息を吸ったが、それは込み上げる喀血に邪魔されて長くは続かなかった。
     気休めの回復呪文も薬草もとうに諦めた。マトリフは手のひらに広がった血を服で拭う。あの戦いから十数年。だが命はまだ終わろうとしない。
     マトリフは咳を堪えながら起き上がると枕元の棚に手を伸ばした。そこには一冊の魔叢書が置かれてある。マトリフはそれを迷わずに手に取った。
     マトリフはその魔導書を開かずに胸に抱える。中に書かれたことは暗唱できるほどに覚えていた。マトリフは魔導書を胸に抱くと安心したように身体の力を抜く。その身体は前のめりに倒れていった。
    「……ガンガディア」
     呟いた言葉は響くことなく消えていく。何故よりにもよってこの本を託されたのかとマトリフは思った。
     火竜変化呪文はマトリフにとって数少ない習得できない呪文だ。たとえどれほどの努力を持ってしても不可能である。だから託されたとしても使い道などなかった。代わりにアバンへと譲ったが、習得後に魔導書は返された。マトリフにとって大切なものだろうと言われて。
     マトリフは震える手で魔導書を抱きしめる。そうしていると、あのときの嬉しさを思い出せるような気がするからだ。誰かをあれほどに思うことはもう無いのかもしれない。
    「……素晴らしい……ライバルか……」
     あの時のように人間を守りたいとは思えない。だが、ガンガディアへの思いは変わらなかった。この魔導書をガンガディアの代わりだと思うほどに、今もその存在はマトリフの胸に刻まれている。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works