しんと静まり返った庭を見つめ、アルフェンはこれまでの道程を振り返る。それは決して容易なものではなく、今こうして穏やかな暮らしを得ようとしているのは、まさしく奇跡とも言う人もいた。
だが、奇跡という言葉で片付けるのはあまりに口惜しく、失ったものの上にあるこの喜びを得ることの難しさは当人である彼が一番に知っている。
「アルフェン、どうしたの? 眠れないの?」
夜風の中に聞こえるその声に振り返ると、そこには寝巻にストールを巻いただけのシオンが立っていた。
「ああ、少し……夜風にあたろうと思って」
近寄ってきた彼女が冷えてしまわぬように、肩を引き寄せると、「もう」という声を上げつつ、その身をこちらに預けてくれる。
アルフェンはその様子を見て笑みを浮かべると、再び視線を庭へと戻す。シオンもそれを追うように視線を移すと、小さく息を吐く。
「いよいよ、明日なのね」
「ああ」
明日、この場で二人は仲間たちに祝福されながら、永遠の愛を誓い合う。
顔も名前も無い男と、他人へ痛みを与える女。生まれた場所も、時間も違う二人が出会えたことは、確かに【奇跡】と呼べるものだったのかもしれない。だが、手を取り合い並んで共に歩むことを選んだのは、ただの偶然でもはたまた必然でもなく、二人と、そして仲間や今まで出会った人々と選びとってきた、二人だけの選択の結果だった。
「シオン」
――そう呼ぶ声に、彼女は何度助けられただろう。
「アルフェン」
――そう応える声に、彼は何度立ち上がる力をもらっただろう。
交わした視線は徐々に近付き、やがて吐息が重なった。
「ずっとそばにいる。もう二度と、シオンを一人にはしない。いつしか離れる時が訪れたとしても、いつだってシオンの名前を呼んで、そばにいると伝えるよ」
「ええ、私も、ずっとあなたのそばにいるわ」
まるで誓いの言葉のようなそれを、夜空に輝く星空だけが聞いていた。