「ひとりで行くなと何度言わせるんです」
些細なことだった。今となっては理由など覚えていない。何かに目を奪われた私がひとりで走り出す。私にとっては日常の、いつもどおりの事だったと思う。しかし月島にとってはそうでなかった。
この男は元来、おのれの感情をあまり表に出さない。永く共に過ごすことで愛情であるとか、そういった明るい感情は比較的分かりやすく見せるようになってきた。しかし負の感情はいまだに胸に押し込めがちだ。怒り、悲しみ、苦しみ。悪い癖だ。こればかりは中々直らない。殻の中に閉じ込める。それが今夜はひび割れた。
「しつこいとお思いですか。ですが私は謝りませんよ、あなたが聞かないんですから」
「つきしま」
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