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    平岩真砂

    一次創作も二次創作も描きたい絵描きオタクです。
    男女CP(主にイケメン陽キャ×平凡陰キャの同い年や年下×年上、年下×年上の年の差CP)が大好きです。
    男性→女性寄りの両想い、両片想いが大好きです

    【MakeS -おはよう、私のセイ-】
    セイ(デフォルト)、セイユ(セイ×ユーザー)
    【テイルズ】
    〈T〉ティルアー、箱推し
    【ワートリ】
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    【テニプリ】
    〈ダブプリG、Gttt〉
    【ヴァンガード】
    櫂ミサ、Q4

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    平岩真砂

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    櫂ミサ小説。1年以上かけてようやく完成した。
    櫂君がミサキさんの落とした本を拾うお話

    #ヴァンガード
    vanguard
    #櫂ミサ
    oarMass

    メッセージ



    「戸倉」

     いつものように本を読みながら店番をしていたミサキは櫂に声をかけられて顔を上げた。
     
     パックを買うのだろうと櫂の言葉を待つが、櫂は何かを言いたそうにミサキをじっと見るだけだった。

    「……何、どうしたの?」

     自分を無言で見てくる櫂がどれだけ待っても何も言いそうにないのでミサキは櫂に要件を言うように促した。

     何か言いたい事がある雰囲気を出しているのに、櫂は言いづらそうに重たい口を開いた。

    「……落とし物をしなかったか?」
    「落とし物? 誰が?」
    「……お前以外に誰がいる」

     今はお前と話しているんだ、と櫂はため息をついた。
    ミサキはムッとしながらも自分の記憶をたどる。が、心当たりはない。

    「記憶にない。私が何を落としたの?」
      
     ミサキが詳細を尋ねると櫂は僅かに顔をしかめて、そして顔を背けてミサキを視界から外して答えた。

    「……本だ」
    「本……?」

     やはり心当たりがないミサキは首を傾げる。
    櫂はミサキに向き直って半睨みで続けた。

    「本当に心当たりはないのか?
     文庫本だ。赤いブックカバーの」
    「赤いブックカバーの、文庫本……」

     『赤いブックカバーの文庫本』に思い当たる節があったミサキは、あ、と声を漏らす。
    その様子を見て櫂は更に顔をしかめた。

    「……落とした事自体に気づいてなかったのか……」

     図星だったので、呆れる櫂の言葉に言い返せなかった。

     ミサキは頭を抱えた。一体いつ落としたのか。
    もう読み終えてたからあまり鞄の中とか気にしてなかったけど、帰って来てから鞄の中をどうして確認しなかったのかと今更ながらに後悔した。

     ……何でこんなに後悔しているのか。
    ただ本を落として、それを櫂が拾って届けてくれただけなのに。

     多分、その原因は……

      
    「……櫂。もしかして、中身……見た?」
    「……ああ……」

     ミサキが尋ねると、櫂は気まずそうに肯定した。

    「……お前もこういう類の話を読むんだな」

     櫂は視線をミサキから本にうつした。
    そう言った櫂の顔は少し険しくて。
    怒っているというよりは面倒事に巻き込まれてうんざりしているといった感じの表情だった。

    「私は基本的には何だって読むよ。
    ……どうしても苦手で読めないジャンル   だってあるけど」

     櫂の中でいったい自分はどういった話を読む人間として認識されているんだろうか?
    ほんの一部のジャンルしか読まないと思われてるのだろうか。そんな事ないのに。
    ……ホラーものは苦手だから絶対に手を出さないけど。でも今、櫂に言いたいのはそういう事じゃない。

    「……一応言っておくけど、何でも読むっていってもこれは私の趣味って訳じゃないから」
    「……そうなのか?」

     ……絶対に信じてない。完全に疑ってる。
    櫂の視線が痛い。
    でもこっちだって嘘は言ってない。
    櫂が最初に意外だったみたいな反応を示した通り、自らすすんで選ぶジャンルじゃない。
    だから言い訳みたいになってでも弁解する。

    「……これはレンに借りた本だよ」
    「……は?」

     レンの名前が出た途端にただでさえ険しかった櫂の顔が更に険しくなった。
    ちゃんとした事情はよく分からずじまいだったけど、レンとはもう和解したんじゃないのか。
    これは言わなかった方が良かったのでは、とさえ思えてきた。……もう手遅れだけど。

    「……何故レンがお前にこんな本を貸したんだ? それ以前に何処で会った?
    レンがカードキャピタルに来たのか?」
    「来てないよ。レンとはこの前下校途中で偶然会っただけ。本はその時に借りたけど、レンが貸してきた理由までは流石に知らない。」

     まさか質問攻めにあうなんて思ってもみなかった。
    そんなに気になるんだったら本人に会って直接聞けば? と負けじと呆れながら言い返せば、櫂は無言で目を伏せた。

    「……これは、学園ものの恋愛小説だろう」
    「……え? ああ、うん……そうだね」

     櫂の言葉を待つか、自分から何か言うか迷っていたミサキは櫂の予想外の言葉に驚いた。

     櫂の声のトーンが低い……怖いくらいに。

    「ちょっと櫂。こういう事はあまり言いたくないんだけど……今のアンタ、顔も声もものすごく怖いんだけど」
    「……そうだろうな……」
    「自覚あるんなら少しでもいいから緩めて欲しいんだけど。ここ店だし」
    「……」
    「アンタがこういうジャンルに興味が全くないのはわかってるし。結果的にそれを見せる事をしちゃったのは、こっちが悪かったからさ」

     興味がないどころか、好きじゃないんだろうな、こういうジャンル。
    自分が知ってる櫂は興味がない事には無表情と無言を貫くか、徹底的に関わらないはずだし……今回の場合は後者は無理だろうけど。

    「……ジャンルというよりも、内容自体が俺には無理だった」
    「内容、って……」

     内容は確か……両想いだけどまだ付き合ってはいない片想いの両片想いの、同じ学校に通ってる優しい性格の年下の男子高校生とクールな性格の年上の女子高生のラブストーリーだったっけ……

    ……

    ……ん?

    「……あ……」
    (もしかして、櫂は……)

     櫂に限ってそれはないだろうと現実を見ようと見上げた櫂の表情を見た途端、それは確信に変わった。
    自身の顔が熱を帯びていくのを感じる。
    ミサキを見る櫂の表情は切なかった。

    「……さ、流石にイメージのし過ぎじゃない?」
    「それはどうだろうな。最初は俺もそう思ったが、これだけ条件が一致するとな……」

     ハッキリと言ったわけじゃないけれど、櫂の肯定するような発言。
    櫂は認めた。
     

    ――櫂は本の登場人物の男子高校生と女子高生を、アイチとミサキに重ねて不機嫌になっていた――


    「……いや、でもさ、櫂……」
    「……わかっている」

     誰も恋人同士でもなければ付き合ってもいない。

     本の男子高校生と女子高生も。
    アイチとミサキも。
    櫂とミサキも。

     それ以前にアイチとミサキに関しては互いに対して抱いている感情が男子高校生と女子高生が互いに抱いている感情と同じものかどうかすらわからない……櫂の方は別として。

    「……櫂の不機嫌な理由はわかったけど。
    それなら、レンは? 本を貸してくれただけで何も関係ないじゃない」
    「……あいつが本の内容を知っていて、その上でお前に貸したのなら嫌がらせとしか思えなかったんだ」


    (嫌がらせ……っていうか……)


     ミサキが本を落としてそれに気づかなかったから、それを拾ったから櫂が内容を知ってしまったわけで。
    レンにそういう意図があったかどうかはわからないのだけれど。


    (……レンなりの、櫂の応援って事なのかな)



     櫂の、ミサキへの気持ち。
    ミサキの、櫂への気持ち。

     


     この本は、それを知っていて、ミサキと……特に櫂の進展を望むレンの、早く先へ進めというメッセージだった。
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