ゼロ 沼の底から引き上げられるように意識が急浮上して目を覚ますと、脇腹のあたりに寄り添うように、戦闘装束のままの松井が身を縮めて眠っていた。
何時間意識を失っていたのだろう。肩口からざっくりと袈裟懸けに斬られた傷口は、もうほとんど塞がって血も止まっていた。
松井の居る側と逆の手をそっと動かして、手のひらをぐっ、ぱっ、と握ったり開いたりしてみる。冷たく感覚を失っていた指も思い通りに動く。手入れは終わりかけているようだ。
先の出陣では、松井も軽傷だったはず。松井の傷を確認しようと思い至ったとき、丸まっていた緑のコートがもぞもぞと動いて、松井が上体を起こした。
こちらをそっと伺う気配。次に、僕の呼吸を確かめるように、顔の前に手がかざされる。その手を取って、手のひらに口付けた。驚いてびくりと身体を弾ませたあと、松井はほう、と息を吐いて、「…起きていたのか」と小さな声で言った。
1955