口「なあ聡実くん、〝口〟ってどこのことやと思う?」
「…は?」
「ええから、どこ? 触って」
「口って…口ですよね? ここ…、」
「あ、ちゃうくて、狂児さんの、口、触って」
「なんなんですかほんと…、ん、」
「…聡実くんそこ、〝唇〟ちゃう?」
「……そう、ですね?」
「な? 〝口〟ってあるんかな…?」
「くち、」
ゲシュタルト崩壊しそうなほどに繰り返される単語が脳を埋め尽くす。そんなことを考えたこともなかったけれど、至極真剣にそう問いかけてくる狂児に、僕は『口』の在処を考える。
どこなのかと問われてすぐに浮かぶのはやはり『唇』だった。口に触ってと言われたら、おのずとそこへ手が伸びることが分かった。今まで僕が口だと思っていたところは唇だった。たしかにその通りかもしれない。
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