「さらなる商品化? 駄目だ」
夏の爽やかな風も思わず声を潜める拒否が隠たちに突きつけられた。現炎柱である煉獄杏寿郎のものだ。普段多忙で捕まらない彼を休暇中の生家まで追いかけてきてまだ五分と経っていなかった。
だがここで左様ですかと引き下がるつもりなら、わざわざ休暇先まで追いかけてきてはいない。隠には隠なりの理由もあるのだ。――この炎柱の愛弟、煉獄千寿郎にまつわるものである。
鬼殺隊ではこの頃、隊や隊士になぞらえた様々な商品を作っている。例えば食器をはじめ日常品、服装品、果てには手のひらにすっぽり収まる愛らしいぬいぐるみまで。
だが鬼殺隊は政府ですら非公認の集団であり、その存在と意義を知る一般人も決して多くはない。よって商品も一般には流通しておらず手に取るのは主に隊士たちとその家族、関係各所などに限られるが、売り上げはそれなりに上々ではあった。始めの触れ込みもまたそうさせた。鬼の被害に遭った市井の人々が、再び心と体の平穏を取り戻していく資金の足しとするのが目的なのだ。
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