ケンカ話(タル空)食事中、鍾離から空がアカツキワイナリーのオーナーと付き合っていると聞いたタルタリヤ。
動揺を隠しながら食事を終え、どれだけの人間が交際の事実を知っているか調査。
結果、鍾離以外は知らない。これは鍾離の嘘だということが分かった。しかし、鍾離はこんなくだらない嘘をつく人ではない。

彼自身が念入りに用意した嘘なら、もっと質が良いはずだ。
よって、この力の入っていない嘘は誰かからの依頼である可能性が高いと踏んだ。こんな嘘をつかせるのは誰なのか。
空と自分が親しくなることを良しとしていない者で、鍾離とコンタクトをとれる者。
そこまで考えて一人浮かんだ。

それからタルタリヤは空の監視を続けた。確かにアカツキワイナリーのオーナーと過ごしていることが多かった。仲は良さそうだが、キスやハグといった行為はない。
相手がもともと積極性に欠けそうな男であることを考慮しても、付き合いたての恋人同士には見えなかった。

いよいよ仮説が確信めいてきた。
あとは犯人に聞くしかない。
恋人と定義された男とともに居る空に、タルタリヤは怒りを抑え、出来るだけ普段と同じように声をかけた。
「やあ、相棒」

空はタルタリヤを警戒している様子で、傍にいたディルックの腕に腕を絡め、寄り添う。
「やっぱりね。相棒、どうして俺を遠ざけるようなことをするの？」
「遠ざける？」
「隠さなくていいよ。鍾離先生とソイツに嘘をつかせてるのは相棒だろ？」

空は俯き、小さくため息をついた。
それからディルックに声を掛ける。
「ありがとう。ここまででいいよ」
「そうか」
ディルックはパイモンをつかんで退場する。

「タルタリヤは、今回どう思った？」
「どうって？ そりゃ腹が立ったよ。大好きな相棒に、こんな遠回しな方法で一緒にいたくないって伝えられて」
ずっと感情を抑えてきたが、ふたりきりになると、言葉が止まらなかった。
「気づいてほしいから、あんなに雑な嘘を用意したんだろ？」

「俺が嫌いなら真正面から、そう言えよ」
怒りをあらわにしたタルタリヤ相手に、怯まず空は言う。
「不快だったんだよね？ じゃあ成功だ。タルタリヤには俺を嫌いになってほしかったから」
思わず手が出た。そんな自分に驚いた。そんな自分にも、避けない彼も、面白くて笑える。
「ハハッ」

空の顎を掴んで、タルタリヤは宣言する。
「悪いけど俺は、絶対に君を嫌いになってやらない。決めたからね。俺が世界征服するさまを君に見せるって」

感情の色を見せなかった金色の瞳が揺れだす。
「だめだ、できない」
「どうして」
「俺は、蛍とこの世界を出ていくんだ。タルタリヤとは、一緒にいられないんだよ」
なんだ、そんなことか。タルタリヤは怒りの感情がひいていくのを感じた。

腕を引いてタルタリヤは空を抱き締める。
「ばかだなぁ相棒。俺は欲張りなんだよ。俺が家族のことも君との旅も、大事にしたいって思ってること、知ってるでしょ？ 俺の盛大な計画に君の妹が加わるだけだ。全部呑み込んで旅する覚悟が俺にはあるんだから君はそれについてくればいい」

「タルタリヤが俺と蛍の旅についてくるんじゃなくて？」
「二人が俺についてくるんだよ」
「その計画を話して俺が蛍に嫌われたらタルタリヤのせいってことにするから。一生恨んでやる」
空はタルタリヤを、強すぎる力で抱き締め返した。