細く開けた窓の側で煙草をふかす左馬刻の背に、突然、紫色の影がのしかかった。煙草を持つ左手を反射的に遠ざけ、腰に巻きついてきた腕に右手を重ねる。
「危ねぇぞ」
寂雷は何も答えず、ただ腕の力を少し強めた。ゆっくりと、いつもより長めの間隔で繰り返される呼吸が左馬刻の首を擽る。
(これは、大分疲れてるな)
煙草を消してしまおうと机の方に伸ばした手を寂雷の左手がするりと追いかけ、灰皿に押し付けられる直前のそれを取り上げた。予想外の行動に驚いて振り返ると、寂雷は自然な仕草で煙草を咥え、その唇の端で僅かに微笑み白い煙をふうと吐き出した。
「随分強いね。早死にしても知らないよ」
普段の寂雷からは出てこないような台詞はこちらに気を許した証拠で、寂雷なりの甘え方だと知っている。仄暗い優越感に左馬刻の心がどろりと満たされ、煙草を取り上げ薄い唇に喰らい付いた。
「……そんときゃ、一緒だろ」