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    マンスリー左寂お題企画(@319_1month)様のお題で書いた左寂です

    #左寂
    leftSilence
    #monthly左寂

    細く開けた窓の横で煙草をふかしていた左馬刻の頬を、湿度を纏った柔らかい風がふわりと撫でた。空を見上げると、夕陽を隠していた灰色の雲がどんどん分厚くなり、その光を殆ど遮ってしまう。ポツポツと落ちてきた小さな水滴はみるみるうちにその数を増やし、あっという間に水のカーテンを張った。外の喧騒が、雨の音にかき消されていく。
    「もう、梅雨だね」
    湯呑みを二つ持った寂雷が、片方を左馬刻に差し出した。左馬刻は自分のために用意された灰皿に煙草を押し付け湯呑みを受け取る。一口啜ると、ぬるめのお湯に引き出された茶葉の甘さがまろやかに舌の上に広がった。コーヒー派の左馬刻だが、寂雷の淹れる緑茶は、好物だ。
    寂雷は湯呑みをテーブルに置き、細く開いていた窓をぴったりと閉め切った。ざあざあと勢いを強めていく雨の音すら遠くなり、急に部屋の広さを感じてしまう。二人ぼっちで世間から切り取られたかのような空間の中、いつもは気にしていないことがふと気になり、机の向こうで椅子に腰掛けた寂雷に一つ問いを投げた。
    「先生は、雨、嫌いじゃねえの」
    左馬刻は、雨は嫌いだ。片手が塞がる傘をさすのも、ジメジメした空気も性に合わない。何より、空を低くする雨雲がもたらす閉塞感は、じくりと古傷を疼かせる。
    「嫌いだった頃も、あったね」
    「過去形なんだな」
    ずず、と静かな音を立てて寂雷がお茶を啜る。心地よさそうにほう、と息を吐いて、その唇に優しい笑みを乗せた。
    「今は、君がいてくれるからね」
    寂雷の声が、低く柔らかく、左馬刻の耳から響いて身体中を包み込む。雨の憂鬱さに萎んでいた心臓が、マッサージされたかのようにどくどくと動き出した。我ながら単純だなと自嘲しながらも、体温が上がっていくのを抑えられない。
    「俺も…今、好きになった」
    「それは何より」
    左馬刻は緑茶をまた口に含み、ゆっくりと飲み下した。幸せに味があるならこんな味かもしれないと思うほどの優しい甘さが、腹まで落ちて体の芯をほぐしていく。
    (このまま、降り続いてくれたら…)
    同じことを考えながら、紅と蒼の瞳が窓の外を見つめる。二つの湯呑みが空になるまで、二人はあたたかな静寂に浸っていた。
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