生前から恋してた(前).
人生は一度きりである。
そんなことは誰に教えられなくとも皆知っていることだ。かくいう魏無羨もそうだと思っていた。薄暗い部屋で目を覚ますまでは。
荒らされて物が散乱した部屋に、自分の真下には血を使って書かれた悪臭を放つ陣。力の入らない体で部屋の中を探索して得られた情報は自分がこの体の持ち主に献舍されたということ。そしてこの体の持ち主の恨み辛みだ。
「はあ……冗談じゃねえ」
思い切り天を仰ごうとして、すぐさまやってきた眩暈に頭を手で支えた。思うままに悪態をついていたいがそうも言ってられない。なにせ献舍の術は呪いの一種。しかも代償にされたのは命だ。呪術陣の類に詳しい夷陵老祖魏無羨をもってしても返すことのできぬ術である。魏無羨に残されたのは術者の願いを叶えて献舍の術の契約を完遂させることだけだ。さもなければ呪いが発動して魏無羨の魂は引き裂かれ完全に消滅してしまうだろう。そんなのはまっぴらごめんだった。
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