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    fuki_yagen

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    おためしぽいぴく
    ロドだよ

    #ロナドラ
    Rona x Dra

    三十八時間越しの月 スマホのアラームは随分と前に止めた。
     季節性の下級吸血鬼が大量に徘徊しているとかで(季節性ってなんだ怖い)陽のあるうちにギルドへと出掛けたはずの若僧はまだ帰っては来ないだろう。本日の夜食はないから適当に食ってこいとRINEは入れた。既読が付いたかどうかも確認はしていないが、見ていないのならそれは自業自得というものだ。ジョンのついでに用意してやっているとはいえ、毎日ロナルド君の重たい夜食を作ってやる義理もない。まあ趣味だから苦ではないけども。
     ジョンはいつもの時間に起き出した気配がしていた。しばらくヌーヌーと鳴いて棺桶にこつこつと爪を当てていたが、今は静かだ。事務所のほうにいるのかもしれない。お腹が空いてヴァミマにでも行ったのかも。ジョンの食事くらいは用意してあげたかったが、どうにも怠くて動けない。瞼も重く、すっかりと夜のはずだというのに覚醒できない。
     一昨昨日はうっかりゲームに熱中しすぎて窓から差した朝日に焼かれて灰になり慌てたジョンがロナルド君を起こしてくれるまで焼かれ続けてしまったし、一昨日はギルドへ遊びに行ったら何やら吸血鬼が出たというので見物をして帰りが遅くなり事務所にあと一歩というところで朝日で死んだ。昨日に至ってはまだ真昼間だというのに吸血セロリが出たと雄叫びを上げたゴリラの声に驚いて飛び起き棺桶の蓋に頭を打って死んで、ズレた蓋の隙間から差した陽の光でまた死んだ。
     まあ三日も太陽浴びたらそら疲れる。
     これ寝てて治るかな、最近不摂生してて牛乳しか飲んでないし、とうとうととしながら考えていると、こつん、と棺桶の蓋が軽く小突かれた。ジョンの音ではない。
    「ドラ公。寝てんのか」
     どうやらゴリルド君のご帰宅らしい。
    「……夜食は適当に食べてこいと連絡は入れたぞ」
    「ああ、見たよ。それは別にいいけど、何でお前寝てんの。もう深夜だぞ。いつもならゲームやら配信やらしてる頃だろ。眠いの? それとも調子悪い?」
     躯の輪郭がときおり揺らぎさらさらと砂になっては再生をする。調子が悪いというなら悪いんだろう。だがまあ、どうせ死に慣れている。
    「眠いだけだ。ほっといてくれ」
     そんざいに返事をし、いつものようにノータイムで棺桶が殴り付けられるのだろうなと構えてみたが、ロナルド君は少し黙っただけだった。
    「んじゃ、しばらく事務所にいるわ。おやすみ。なんかあったら呼べよ、ジョンが心配すっから」
    「……おやすみ」
     気配が離れた気はしなかった。というより、そもそも気配が抑えられていた。普段は廊下にいても解るほど気配も足音もでかい男だが、そういえば彼はあれで優秀な退治人だった。この貧弱吸血鬼に悟られぬよう気配を抑えることなど本当は朝飯前なんだろう。
    「ジョーン。おいで」
     ひそりと押さえた声が使い魔を呼んで、ととと、と駆け寄ったジョンを抱き上げたようだった。ロナルド君と一緒に帰ってきていたらしい。
     ぱたん、と静かにドアが閉まる。それだけで再び、夜の静けさが訪れた。
     ジョンを棺桶の中に入れてあげればよかったか、でも眠くはないだろうし、と考えながら、私はうとうとと浅い眠りに浸った。






    「うーん、いい夜」
     がこん、と蓋を押し開けて伸びをして、凝り固まった身体をぱきぽきと鳴らす。実に40時間近くも寝てしまった。ヌー、と鳴いて見上げた使い魔に心配を掛けたねと微笑んで小さな頭を撫でてやる。
     まあ吸血鬼の中には何十年も眠り続ける者もいるのだし、寝て過ごしたところでどうということもないのだがジョンと触れ合ったり五歳児の世話を焼いたり詰んであるゲームを消化しなくてはいけないことを考えると(クソゲーレビューの締め切りもあった今思い出した)そうそう寝てもいられない。
     着替え、散らかっているかもしれないキッチンを覗くと綺麗なものだった。シンクも最後に拭き上げてから使っていないようで乾いてぴかぴかだ。レンジも同様、何も爆発させた気配はない。
     ごみ箱を覗くと潰したピザの箱がふたつ入っていた。なるほど宅配、しかもピザならば食器を洗う必要もない。
    「ジョン、ピザ食べさせてもらったのかい?」
    「ヌヌ」
    「そうか。お腹空かせてたんじゃないかと気になってたんだけど、それならよかった」
    「お、起きたのか」
     しかしロナルド君はピザで足りたのか、レトルトも食べなかったんだろうかと考えていると、事務所から思案の君が顔を出した。
    「平気かよ」
    「まあまあだね。よく眠れた」
    「そりゃよかったな。ほい、これ」
     キッチンカウンター越しに差し出されたボトルを受け取り、目を丸くする。なかなか値の張るものだが、そもそも人間である彼がどうやって仕入れたのか。
    「いいボトルじゃないか。しかもB型」
    「お前の親父さんからだよ」
    「お父様が来たのか? 全然気が付かなかったが」
    「あんたの息子寝てるから来るなら静かに、つったらヌーバーイーツで届いた」
    「ヌーバーイーツで!?」
     注文物凄くがんばったんだろうなあ、と考えながらボトルを見ていると、ぬっと伸びた手が水切り籠に伏せられたままだったグラスを取って差し出した。
    「せっかくだから飲めば」
    「ああ、いただくよ」
     ロナルド君に血を勧められるのも変な気分だなと考えながらグラスに注ぎ、テーブルへと回って座る。なんでか向かいに座ったロナルド君が脚を組み椅子の背に片腕を掛けてこちらを見ているので、満面の笑みでグラスを掲げてやった。
    「では、良い夜に」
    「ただのコップじゃ様になんねえよ。さっさと飲め」
    「はいはい」
     香りを楽しみ一口含むとまだ飲み込んでもいないのにじんわりと口内が温かく感じた。思わず口角が上がる。上等な処女の血だ。さすがお父様が選んだボトル。というかなんでお父様がこれくれたんだ。
    「ねえロナルド君。君、お父様に連絡したの」
    「え? うん」
    「連絡先知ってたっけ? うちの一族とのRINE交換は回避したでしょ」
    「ジョンが電話番号知ってた」
     おっと思わぬ伏兵。
    「なるほど。で、なんで連絡したの」
    「なんでってお前」
     見上げてくるジョンをえらいえらいと撫でてやりながら尋ねると、ロナルド君はあーうーとなんだか気まずそうに唸った。
    「何。ドラミングでもするの」
    「するか」
     拳は飛んでこない。珍しい。
    「退治の仕方は知ってっけど、吸血鬼が調子悪いときにどうしたらいいか、俺知らねえもん」
     まあ確かに、彼は私の『殺し方』なんて熟知しているだろう。そりゃほいほい死ぬが復活も早い私を、けれど永久に消滅させる方法なんていくらでもある。退治人がそれを知らないわけはない。弱った吸血鬼の復活の方法だって、本当は解っているだろう。
     とはいえ手近にある血はロナルド君のもので、まあ多分彼の血飲んだら私死んじゃうから。くどくて。
    「それでお父様に連絡したのか」
    「電話越しでも大騒ぎだったから絶対本人が来ると思ったんだけど」
    「来れば騒ぐ自信があったんだろうね」
    「なにその自信」
     しかし彼がお父様に連絡をしたことは解った。キッチンに一切触れていないこと、部屋のものもほとんど動かしていないことを視線を巡らし確認して、ロナルド君を見る。
    「なんだよ。元気出たのか」
    「ああうん、処女の血はやっぱりいいねえ。最近牛乳しか飲んでなかったから疲れがとれなくて。それより君、どこでこういうの覚えたの」
    「は? 何こういうの」
    「いやだから、家主が調子崩してるときに部屋やキッチンは汚さず現状維持するとか、解るだろう相手に連絡するとか」
    「誰が家主だコラ」
     今度は拳が飛んできた。
    「病み上がりにひどくないかね」
    「お前が調子に乗るからだろうが!」
     ナスナス……と復活してグラスに残った血液を飲み、まだしばらく楽しめそうなボトルをついと指で撫でて、視線で促すとロナルド君は眉間にきついしわを刻んだままうう、と唸った。
    「今度こそドラミングか?」
    「だからしねえよ! ……あー、うち、妹いっからさ」
    「うん?」
    「だから、子供の頃とか妹が急に熱出して、おかゆ作ってやろうとしてキッチン崩壊させたり薬わかんなくて薬局の棚にあったの一揃え買ってきたりして」
    「ああ、叱られたのか」
    「いや……別に叱られはしなかったけど、兄貴も仕事で疲れてんのに後始末させちまってさ」
    「それで、普段やってないことはいくらやってやりたくてもしない、解らんものは解る相手に尋ねる、と教わったわけだ」
     はは、素直な良い子だ、と笑うと貶したわけでもなかったのにまた砂にされた。
    「まあ、ありがとうね。キッチンもキレイなままだし気分もいいし、買い物に行って夜食は好きなものを作ってあげようか。ロナルド君、事務所は」
    「今日はもう閉めた。カツカレーがいい」
    「相変わらず重いもん食うな君は」
    「デザートにババロア。なんかいろいろ乗ってるやつ」
    「はいはい。サラダも食べなさいよ」
    「セロリは入れんな」
    「入れないよ、今日はね」
    「いつも入れんな!」
     騒ぎながらも一緒にスーパーに来るらしい彼はジャージを羽織った。野生の君はそれでいいのだろうが私は寒いので、ジョンと一緒にマフラーを巻く。
    「荷物持ちしてくれたまえよ」
    「いつもしてやってんだろうが」
    「ジョン、ドーナツ買ってあげようか。ロナルド君のお金で」
    「いつも俺の金だろ!」
     語彙のない退治人に笑いながら先に立って部屋を出た彼について靴を履き、私は灯りの点いたままの部屋の扉を閉めた。
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    fuki_yagen

    PROGRESS7/30の新刊の冒頭です。前に準備号として出した部分だけなのでイベント前にはまた別にサンプルが出せたらいいなと思うけどわかんない…時間があるかによる…。
    取り敢えず応援してくれるとうれしいです。
    つるみか準備号だった部分 とんとんと床暖房の張り巡らされた温かな階段を素足で踏んで降りてくると、のんびりとした鼻歌が聞こえた。いい匂いが漂う、というほどではないが、玉ねぎやスパイスの香りがする。
     鶴丸は階段を降りきり、リビングと一続きになった対面式キッチンをひょいを覗いた。ボウルの中に手を入れて、恋刀が何かを捏ねている。
    「何作ってるんだい? 肉種?」
    「ハンバーグだぞ。大侵寇のあとしばらく出陣も止められて暇だっただろう。あのとき燭台切にな、教えてもらった」
    「きみ、和食ならいくつかレパートリーがあるだろう。わざわざ洋食を? そんなに好んでいたか?」
    「美味いものならなんでも好きだ。それにな、」
     三日月は調理用の使い捨て手袋をぴちりと嵌めた手をテレビドラマで見た執刀医のように示してなんだか得意げな顔をした。さらさらと落ちてくる長い横髪は、乱にもらったという可愛らしい髪留めで止めてある。淡い水色のリボンの形をした、きっと乱とお揃いなのだろうな、と察せられる代物だ。
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