「いって」
ガシャン、と音がしたかと思うと、続けて聞こえてきたのは耳馴染みのある声だった。痛い、そう言ったように聞こえた。腰を沈めていたベッドから弾き出されたかのような勢いで立ち上がると、声のした方へと駆け寄る。
「どうかしたんすか」
見慣れた背中に声をかけると、癖毛を揺らしながら空色の瞳がこちらを向く。
「待って、こっち来ないで」
空色の瞳が警告の色を浮かべながらそう告げる。――こっち、来ないで? 今までに言われたこともないような言葉に思わず身体が強張る。近付くのも許されないようなことが今までにあっただろうか。いや、思い当たる記憶がない。それなのにこんな朝から急にどうして? ついさっきまでどんな会話をしていた? ぐるぐると思考を巡らせる中、空色の瞳がゆるりと細まり、形のいい唇が困ったような笑みを浮かべた。
1950