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    いしえ

    @i_shi_e

    新規の文章と絵などの公開をこちらに移動。
    幽白など。文と絵(と過去は漫画も)など。
    幽白は過去ログ+最近のをだいたい載せています。
    一部、しぶにあげている小説ものせています。
    以前のものだと、ごっず関連や、遊Aiほか雑多。

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    いしえ

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    短編集『主従ア・ラ・カルト』2020/01/18大安発行。受攻お任せ多めバトビ主従CP全年齢本web再録。本への編集時にいれたあとがき等以外全てpixiv公開の短編小説で、webから本にしたものを更にポイピク用に編集しweb再録。
    もくじ、まえがきあとがき、ラストにいれた文章も入れましたが、挿絵のメニュー表等、関連画像https://poipiku.com/26132/9933701.htmlにて

    #バトビ
    batvieh.
    #主従
    mainEmployee
    #主従CP
    theMainCp
    #ジョシュカイ
    #カイジョシュ
    #web再録
    webRe-recording

    主従ア・ラ・カルト/受攻お任せが多めのバトビ主従CP全年齢本【本からのweb再録】◆Menu *受攻お任せのものについて…片方で見て頂いてももちろん構いません! as you like

    ◆それはおやすみの魔法(原作主従)
    独自設定(ハーブ、今回は特にカモミールを母の影響で生活によく取り入れてきた幼少期と、カイン改心時の話)。
    カインの父が亡くなったとき習慣が続くか途絶えるかで、2パターンに分岐します。
    受攻曖昧(ジョシュカイ寄りの部分とカイジョシュ寄りの部分とが混在)です。

    ◆propose -誓いの宣言-(原作5年後)
    原作ラスト、5年後の、18歳と21歳の主従。
    受攻お任せですが主からのプロポーズ(従もするつもりがあった)。受攻がニュートラルなかんじです。わりとカイジョシュ寄りに見えやすいですが、そう見えるジョシュカイっぽい要素もあるかと思いますので、そんなかんじで大丈夫なかた向けです。
    どちらか片方に限定してみていただいてももちろん構いません。

    ◆やさしいあなた(原作主従・過去の話)
    柑橘の木にまつわる思い出の話のひとつを考えて試しに書いてみました。カインさまのやさしさのエピソード。
    モブキャラ(子ども、気が強い)が一人出ます。子ども同士の、ちょっとした挑発の応酬があったり。

    ◆a promise(原作主従)
    黒衣時代にまどろんで見た夢と、改心時にそれに因む約束をする話。受攻お任せ。
    カインがジョシュアの様子にときめく様子あり。

    ◆我が主のアドベント -聖なるこの日に!-(ジョシュカイ もしくは男前受のカイジョシュ)
    カインの誕生日に向けてアドベントカレンダー方式の贈り物をしたジョシュア。それが実はプロポーズだった話。
    受攻どちらでも構わないのですがジョシュカイに見えるかな?と思い…男前受のカイジョシュでも。
    贈り物は、キャットカフェでアルバイトをした賃金とカインさま邸でのお手当とを合わせて用意しています。

    ◆アニメ43から52話 視聴時短文まとめ
    随時書いていったものなので、先の展開は推測で、実際に見進めると全然違ったぞ?!ということもありました。それもご愛敬ということで何卒。

    ◆ああ、しあわせを噛みしめるよろこび!
    クリスマスのシュトレンに向けて年明けから柑橘ピールの仕込みを始めて一年の私生活を過ごすような、ゆったりとした主従の一年のライフスタイルを描いてみました。
    カインさま一人称で、若干、ジョシュアはすごいんだよというノロケのようなかんじになっています。一緒にシュトレンを作ったり。でも、新年っぽい内容です。
    原作版アニメ版、特にどちらか決めていないのですが、二か所、年齢差がありそうな描写があります。また、柑橘をさらりと思い出の木としています。アニメ版の未来として読んで頂く場合そこはスルーしていただければと思います。

    ◆Special Menu for reception party(原作主従・5か7年後)
    婚約したふたりが身内向けのカジュアルパーティをするために、料理メニューを考える話。
    メニュー表仕立てのノベルティの元になります。(※補足:本では、挿絵でノベルティポストカードと同じメニュー表をカラーのまま掲載)

    *アニメ一期ラストの主従を総括する話 二作
    ◆光に透けたロゼはうつくしい(アニメ版)
    主従のラストについて、ロゼワインをキーワードに設けて自分なりにまとめてみました。考察に近い部分もあります。二人の名に因んだ比喩もあるのですが、それは名を借りただけで、私自身の思想的なものを含みません。

    ◆Epilog: Ah, dear vin rosé(7年後)
    『光に透けたロゼはうつくしい』のエピローグです。ほのぼの明るく短く。



    *前書き/Apéritif
     この本は、pixivで公開しているSSのなかから主従の全年齢向けをまとめたものです。…なのですが、本にまとめるために書いたSSもあるので、オンラインとコピ本通販と、両方の活動の相互効果でできたかんじです。
     それと、ノベルティを楽しくつくりました! パール紙と水色トレペ使いたいというのも決めていたので、本のかたちにできてすごくうれしいです!

     受攻について、基本的に読んでくださるかたのお好みにお任せしているので、判断の手がかりになるかな?という情報を目次にまとめています。

    grantieYa
    unofficial fanbook BB003
    2020/01/18

    Joshua x Cain,
    Cain x Joshua,
    or both
    As you like


    以下、本文。お付き合い頂けましたら幸いです!




    ---
    ◆それはおやすみの魔法 /原作主従(受攻曖昧)・分岐あり



     あなたの夢の路先(みちさき)に、多くの幸がありますよう。祈りをこめて、額にくちづけひとつ。カモミールの余韻がふわり薫るよ。それはおやすみの魔法。

    ***

     白い可憐な小花が一面ずらり咲く景色は、さながら初夏の雪化粧。ルース邸の広い敷地では、カインの母の趣味もあり、多彩なハーブが育てられていた。そのなかでも特にカインとジョシュアにとって思い出深いのは、カモミールだ。初夏ごろに花を摘んで乾かし、通年で、さまざまなことに使用した。よく使うので足りなくなって、信頼できる市販品を買い足すこともあるほど。そのリンゴに似たかぐわしい香りは、二人によく馴染んだ安心感を抱かせるのだった。そのなつかしさを、今、思い返す。
     バスタイムには、ローズマリーと合わせて、オートミールを加えガーゼでくるみ、リボンでむすんで小袋に。大きな湯船に、浸して使う。しっとりとした柔肌の子どもには、効能の恩恵が大幅にあるわけではないけれど、大人の世界に入る準備のようなもの。カインの母親が好むこのバスは、習慣として、確かに受け継がれるのだった。大人と同じことをする、それは、カインやジョシュアにとって当たり前のことであると同時に、どこか得意げな心地にもさせる折だ。シルクのようになめらかで、しっとり、すべすべの肌を、ともに湯船に入りながらぺちぺちと、たわむれに確かめ合いけらけらする。無邪気そのものの時間。バス用の小袋は、よく二人で作った。カモミールだけでなく、いろいろなハーブを気分で使い分けられるように用意したものだ。
     それからカモミールはバスタイムで もうひとつお役立ち。カインの金髪に合わせて、自家製カモミールシャンプー。これは明るい髪にことさらによいというので、そのつややかな天界のもののごとき透明感にいっそうみがきをかけている。こちらは作るのをジョシュアが手伝い、カインは見守るだけ。そのきみの御髪を洗うのも幼執事ジョシュアの大事な仕事!
     そんなふうに、リラックスの時間を経て。迎えるおやすみの時間。そのときにいつも決まった、儀式があった。それは。
    「カインさま。カインさま、カモミールティーが入りましたよ」
    「うん! ありがとう、ジョシュア。…ねえ、一緒に飲もうよ!」
    「…では、遠慮なく」
     こくり。のみごろで運ばれた琥珀色を、ともにひとくちくちに含めば、鼻腔までやさしい香りでいっぱい! 笑顔ほころぶ時間は夢の同一線上。寝室こそ別なので、ジョシュアは一日の最後のティータイムを終えれば片付けがてら去って行く。それはカインをいつも少しさびしくさせた。これが、ジョシュアの一日における主な執事業の締めくくり。今日もカインさまといっしょでしあわせだった。そんな慈しみたい時を、日ごと、当のカインとともに振り返って、まどろむまなこに微笑み、その頭をやさしく撫でる。こんな夢のような日々が、続いている幸福。
     短いおしゃべりの時間で、もうすっかりうとうととしだしたカインに、ジョシュアは言う。
    「カインさま。そろそろ、おやすみになりますか?」
    「うん…」
    「それでは…」
     前髪を掻き分け、額にくちづけひとつ。
    「…おやすみなさいませ、カインさま…」
    「うん、おやすみ、ジョシュア…」
     うとり、夢見心地の主をベッドへ。おやすみの魔法はこうして、今日もふんだんにその効力を発揮するのだった! カインさま、どうぞ、良い夢を。安らかなる時を。あなたにとって、この時間が、穏やかなひとときでありますよう。
     その祈りが、


    (分岐地点)
    A: カインの父が亡くなったあとも習慣として続く→このあと
    B: カインの父が亡くなったときに突っぱねられる→p.7



    [A: カインの父が亡くなったあとも習慣として続く]


    おやすみの魔法はこうして、今日もふんだんにその効力を発揮するのだった! カインさま、どうぞ、良い夢を。安らかなる時を。あなたにとって、この時間が、穏やかなひとときでありますよう。
     その祈りが、その習慣が、ことさらに効果を成し、あるいはその効果が眠って見えたのは、カインの父が亡くなってからだった。
     就寝前の主に、それまでと変わらず、そしていっそうの祈りを込めて、カモミールティーを運ぶジョシュア。主は、どうも、それがリラックス目的とはあまり意識していないようだった。
    「…カインさま。カモミールティーが入りました」
    「…ああ。そこに、置いておいてくれ」
    「………はい…」
     物音をたてぬよう、そうっと、ソーサーをカインの寝室のサイドボードに置く。ちらりと、様子をうかがうけれども、彼は考え事の海。否、一日を終え今ひとときぼうっとしているのかもしれない。そんな彼に、ジョシュアは胸が苦しくなる。けれども、今は、自分の出る幕ではない。ジョシュアは、カインがカモミールティーを飲むのを見届けることもなく、その部屋をあとにし、朝になればぬけがらのそこから食器を回収するのだった。それでも日中、彼が眠そうな様子を見せることがないのが、わずかな救いだった。
     そんなふうにして、閉ざされた心に、ずっと、ジョシュアは、祈りを捧げ続けた。就寝前のカモミールティーは、絶やしたことはなかった。それが習慣づいていてよかったと、ほんの少しだけ安堵する。
     そうして日々を過ごし、そして、カインがその身を自ら囚え縛り付ける思念から、脱却したとき。ジョシュアは、カインを支えながらともに立ち、そして歩き、改めて、カインの館へと帰るのだった。その念願がかなった今の、なんと喜ばしいことだろう!
     ヤマトと炎呪とのバトルで体力を使った主に、カモミールのバスを勧め、そして、風呂上がりにはジョシュアがその髪を乾かすことを提案した。ジョシュアが「カインさま。お髪を乾かしましょうか」と言えば、彼は昔のようにあどけなく、「…うん…ありがとう、ジョシュア…」と、はにかむように笑むのだった。ああ!
     カインの髪からは、使い続けているカモミールのシャンプーの香りがした。ジョシュアが、欠かさずつくって用意しているそれ。胸がなんとも、くすぐったい心地。
    「…カインさま。きれいなお髪ですね…」
    「…そうかな」
    「はい、きらきらと光に透けて、まるで、天使のようです」
    「天使…? ふふ、ジョシュアったら、おかしなことを言うね」
     カインが心底心当たりのない様子だったので、ジョシュアは、曖昧に笑んで返し、胸の内に言葉を留める。カインさま。カインさま、わたしは、こうしてずっと、あなたの間近に控えることができて、――あなたに、この手で触れることをゆるされて。…本当に、幸福なのです。
     カインが、力が抜けたように、あるいは甘えたように、ジョシュアにもたれかかってきた。ジョシュアは、何も言わずにその肩を、抱きしめた。
     そうして、就寝の時間になる。今日だけだ、と言ってジョシュアに甘え、支えられながら寝室に向かったカイン。ベッドに腰を掛け、いつもの、魔法を待つ。そこで、はたと気付いた。ああ、そうか。彼はこうしてずっと、ぼくにだまって寄り添い続けてくれていたんだ。ずっと、ぼくのことを考えて、いたわってくれていて。彼の本当の魔法は――
     カインから一旦離れ、カモミールティーを淹れてきたジョシュアが、真っ赤に頬を火照らせているカインを見て、動揺する。そんな彼にカインは飛びつきたかったけれども、手元のトレーを認識していたので思いとどまった。トレー。その上に、カップはふたつ……
    「………ジョシュア…、一緒に、飲んで、くれるのかい?」
     ジョシュアは、すべてがわかっているように、けれどもひみつを明かされて気恥ずかしいかのように、やわらかく曖昧に笑む。そして控えめに言った。
    「…カインさまの、おゆるしが出るのであれば」
     それは、いたずらっぽいとも、照れ隠しとも取れた。カインは、いっそうに頬が熱くなる。思わずベッドから立ち上がって、言った。ジョシュアがまるでふたりの呼吸がひとつであるかのように自然な所作でトレーをサイドボードに置く。
    「…ありがとう、ジョシュア…ぼくには、きみが、必要だ。ぼくの歩むだろう道には、きみが、いなくちゃならないんだ。幾多の困難も、きみが、――きみたち、仲間がいれば、乗り越えられるだろう。だから、だからどうか……ぼくの隣で、眠ってはくれないか」
     ぱちくり。ジョシュアは目をまたたかせて、それから至上の笑み。目元を伝う流れ星は願いを既に叶えてなお輝く。
    「カインさま……よろしいのですか、わたしは、ずいぶんと大きくなりましたよ。あなただって」
    「だいじょうぶさ」
    「…今日は、ほんとうに、ことさらにすばらしい一日です…」
    「おっと、ジョシュア、それは気が早いよ」
    「え?」
    「ぼくは、こんな日々を――きみと、過ごす大事な時間を。これからも、もっと、もっと重ねていきたいと、思ってるんだ」
    「…カインさま…!」
     ジョシュアが、自身のてのひらをくちもとで合わせて、喜びにわずか身をふるわす。その手をカインはそうっと包み、その手の甲に、そして、背伸びをして頬に、くちづけするのだった。ジョシュアったら、目をまんまるくさせて!
    「…ひとまず、これからの日々に備えて、今日はゆっくり眠ろう」
     カインがそう言った意図を、ジョシュアは正確に汲み取る。戸惑う、様子を見せたのが、照れだとわかって、カインは自らも照れながら、それでも、催促するように、ひとみを閉じるのだった。澄ました猫のように、つんと上向かせた鼻先。さあ、我が執事どの?
     ジョシュアのくちづけが、ずいぶんと久しぶりにカインの額に、――そして、鼻先に、くちびるに初めて! 捧がれる。歓喜の泉がとうとうと湧く、そこはこの世の楽園だった。
     順番はあべこべになってしまったけれど、それからふたり、ともにカモミールティーを飲んだ。微笑み合う、時間の尊さよ!
    「……おやすみなさいませ、カインさま」
    「……おやすみ、ジョシュア……」
     気分が高揚しすぎて眠れやしないと思ったけれど、おやすみの魔法は、そこに新たに加わったエッセンスとともに、存分に効果を発揮してくれたのだった。





    パターンA終


    [B: カインの父が亡くなったときに突っぱねられる]


    「…おやすみなさいませ、カインさま…」
    「うん、おやすみ、ジョシュア…」
     うとり、夢見心地の主をベッドへ。おやすみの魔法はこうして、今日もふんだんにその効力を発揮するのだった! カインさま、どうぞ、良い夢を。安らかなる時を。あなたにとって、この時間が、穏やかなひとときでありますよう。
     その祈りが、けれども突っぱねられるときが来る。カインの父が亡くなり、カインは、変わった。
    「カインさま、おやすみ前のカモミールティーです」
    「…そんな甘ったれたもの、不要だ。よけいなことをするな」
    「……はい、申し訳ございません、カインさま…」
     こんなときこそ、なおさらに、少しでもよく眠れるようにと思ったのだけれども。ジョシュアは、魔法を封印する。黙って、食器と庭の手入れは続けた。
     その封が解けたのは、ああ! 主自らの、望みによるだなんて。
     ヤマト、炎呪とのバトルを通して、ジョシュアの、そしてそこに重ねられたカインの父の、カインに向けた想いが通じる。カインは、石牢から解放された。ジョシュアの胸を借りて泣いた。
     ジョシュアの肩を借りながら送迎車まで歩き、もたれかかって自宅に帰る、その時間は、とても心地のよく、安らげるものだった。カインは、なつかしさを覚える。なつかしい。そうだ、いつも、ジョシュアはそばにいてくれて。なにか、ほっとすることをしてくれていた。そうだあれは――
    「…ねえ、ジョシュア」
     うっとり、夢見心地に浸るようにして、カインが、ジョシュアの袖口をくいとつまんだ。その様子に何を言うでもなく、ジョシュアは返す。
    「はい、なんでしょう、カインさま」
     間近で聴くその声に、カインは胸をくすぐったく引っ掻かれ、全身がなんとも言えない多幸感に満ちる。彼は、こんな声をしていただろうか。なったんだろうな。いつの間にか。
    「…カインさま?」
     ぽうっとしていたカインに、ジョシュアが、思い至ることのない様子で、首をわずか傾げる。それにカインは少し上の空だったことを自覚して、くちもとに自身の片手をゆるく結んで添え、やわらかく笑んで、言う。
    「…なんだったかな…そうだ、お茶だ。カモミールティー」
    「…カモミール、ティー…」
     これについてはその単語だけですぐにすべてを悟った様子のジョシュアは、深刻なようにも、噛み締めているようにも、今すぐにでも無邪気にはしゃぎまわりたいようにも見えた。多くは、語らなくていいだろう。けれども。これだけは、はっきり伝えたかった。
    「…ジョシュア。また、カモミールティーを、淹れてくれるかい」
    「カインさま…! もちろんですとも、ああ、よろこんで致しましょう…! いつでも淹れられるよう、手入れはしてございますので…」
     感極まったジョシュアの頬をほろりほろほろと露が伝う。カインはそれを指でそうっとかすめ取り、彼の手に、指を絡めた。
    「……もちろん、一緒に飲んでくれるんだろうね」
    「ええ、ええ…!」
     ああ、間近なこのぬくもりよ! ジョシュアの肩にもたれかかって車に乗っていたカインは、そのふれ合っている体温以上に、心底から、あたたかい光に満ちていくのを改めて、感じる。よく沁みて、カインまで涙をこぼすほど! それはずっとそこにあって、望みさえすれば、いくらでも注がれる準備ができていたのだ。かつてのなじみの、カモミールティーとそっくり同じに。
     さて、そういえば。ジョシュアはいつも、カモミールティーを一緒に飲んだあと、額にひとつ、キスをしてくれたのだった。あれは――あれこそが、彼の……
     今日は、自分から彼の額に口づけてみようか。それとも…。そんなことを思って、カインはまたくすくすと、さえずる小鳥のように肩を揺らすのだった。





    パターンB終








    ---
    ◆propose-誓いの宣言- /原作主従(受攻お任せ)・5年後



     大粒ダイヤに、ルビー、純金。そんなマシンをつくると言ったら、ジョシュアは目をまんまるくさせた。大人びて見えがちな彼のそんなところも好きだ。そうだ、愛してるんだ。だからぼくは。
     そのマシンのとっておきのひみつを、ぼくはプレゼントを待ちきれないこどものように、明かしてしまうのだった。
    「…ジョシュア。ぼくは、次の大会、必ず、勝つ」
    「ええ、応援しておりますとも。カインさま」
    「ありがとう。――そして、聞いてくれ、ジョシュア。
     ぼくは、勝つ。そして…きみに、これを、ウイニングマシンとして――捧げる」
     ほら、ジョシュアの目はさっきよりももっと大きくなった! 大粒のサファイヤだって彼のひとみにはかなわない。だけど。ぼくには、これが、ぼくの、愛の証。
    「…何者にも屈しないダイヤモンドには、絶対不滅の、永遠の愛を。勝利を呼ぶルビーには、きみが思い出させてくれたこの情熱を。腐食しない純金にも、永遠の気高さを。ぼくは、誓う。きみに」
     ジョシュアも知ってはいるだろうそれを、単なる知識ではなく、自分のことばとして、告げる。ジョシュアの目はさらに少しだけ大きくなったかと思ったら、一転細められ、彼は自らの両手を合わせて、くちもとでふるえさせるのだった。ぼくはその手を握りしめる。手の中で、ぼくが成長してもぼくより少し大きいままの手が、ぎゅっと、まるくまる。ぼくはそれに合わせて握る手のかたちを変えた。
    「ああ、カインさま…わたしは、あなたに、ああ…!」
     ほろり、こぼれる真珠。それに引き寄せられるように、くちびるを寄せる。ジョシュアは目を少し開いて、閉じる。それがなによりも神聖で、この彼の教えてくれた光の世界のためなら、魂を闇に堕とす以外ならなんだってできると、改めて思った。いつの間にか、五指を絡め合っていた。くちびるを、寄せ合う。深く。何よりも深いこの愛と絆のように、深く。
     ジョシュアから、ぎゅっと、抱きしめられる。いつかのように、いつものように。支え合うというよりは、それは、すがるようだった。ぼくの胸がときりと、産声を上げたかのように跳ねる。ぼくはジョシュアの上着の裾をくいと握りしめ、それから、彼の背中に腕を回し返す。
     互いにもたれかかり合いながら、ぼくは言った。
    「…18歳になったら、こうしようと、思っていたんだ」
     ジョシュアが、もうあまり驚いた様子を見せずに、ふわりと微笑んで返す。
    「…実は、わたしも…カインさまが18歳になられたら、と、思ってはいたんです…ですが…」
     機を逃していて…、と、言うことばがぼくとジョシュアのふたりぶん重なる。ぼくたちは視線を合わせて、くすくすと笑い合った。
    「誕生日には、みんなが祝いに来てくれて、にぎやかだったからね」
    「ええ、それで、なんだか、気が抜けてしまいまして…そのあとになると、なかなか、これというタイミングを設けるのが難しく…」
    「…ぼくたちらしいね」
    「…はい」
     ふわり、はにかみ合う笑みの尊さといったら!
     ぼくを光の世界に連れ出してくれたのは、ジョシュアひとりだけじゃない。仲間が、みんなが、力を貸してくれた。それを導いたのも、決定打を与えたのもジョシュアだけれども。ぼくたちには、仲間がいる。ふたりだけの世界では、決してない。
     さて、この勝利宣言の行く末は。もし仮に万が一、だけれども? 優勝こそできなくても、予選を通れば誰もがウイナーズ。そんなことばと、負けてもぼくの価値はかわらないと言ってくれたジョシュアに甘えて、ぼくはこのマシンを、この身と心ごと、彼に捧げることだろう。それでも。
     さあ、今回の優勝は、このぼくだ。大会に向けて、特訓に身が入る。その相手はもちろんジョシュア。彼は大会こそ好んでは出ないけれども、ビーダマンは続けている。腕前は折り紙付き。彼とそうして過ごす日々こそが、何よりの宝物。それを永遠に約束することを、ここに二人、改めて誓う。











    ---
    ◆やさしいあなた /原作主従・過去の話



    「はい、ジョシュア。これはきみのぶん」
    「え、ですが、カインさま…」
    「だって、きみのためじゃなかったら、ぼくはとても登れはしなかったからね」
     笑顔が、この青空よりも気高く、まばゆく澄んでいる! そんな思い出の小箱にまつわる話。

    ***

     これは、カインとジョシュアが、小さかったころのことだ。
     ルース邸の外に、ジョシュアと同じ年頃の、気の強い少年の住む家があった。その少年が、あるときカインと歩くジョシュアをつかまえて、こう言ったのだ。
    「なあ、おまえ、木のぼりできるか? おぼっちゃんちのいい子ちゃんにはできないだろ。もし上までのぼれたら、取れた実はやるよ」
     そう言って彼が立てた親指でさしたのは、自らの家に生えている立派な柑橘の木。高さは子どもの背丈から見ればずいぶんある。ジョシュアと、カインが、それを見上げる。少年は、いかにも、ふふん、と得意げで、もうジョシュアが降参すると決めてかかっている。取れた実はやる。それはつまり、実を取ってこいということだろう。
     カインの自宅、ルース邸にともに住むジョシュアは、基本的に、他人から絡まれるようなことはそれほどない。たいていの大人は、自分の家の子どもにそれをしないように言い含めている。けれども当然のように、それを聞いてかえってちょっかいをかけてくる子どももいるのだった。ちょっとした、肝試しのような感覚なのだろう。この勝ち気な少年には特に、そういった節があった。ルース邸は威厳こそあるものの他者に支配的なわけではないので、そういった子ども同士の付き合いも、教育の一環として容認されているのだった。トップであることは、決して、イコール孤独であることではない。トップに立つ者だからこそ、周りとの付き合いも、必要になってくるというのがカインの父の方針だ。
     さて、少年から試されようとしているジョシュアは、困った。木登りというものは、したことがない。けれども、しようと思えば、きっとできるだろう。けれど。ジョシュアがまとっている衣服は、その主(あるじ)ルース邸で用意されたものだった。多少のわんぱくも許可されている邸宅とは言え、衣服が汚れたり、場合によってはほつれたりもするようなことは、避けたいというのが正直なところだった。おぼっちゃんち、という言い回しには、ルース邸への侮辱も含まれてはいると確かに思った。けれども同時に、今おもに舐められているのは自分一人とも感じた。自分一人で済むのなら、それでもいいと思ったのだ。だが、そうではないお方がひとり!
    「できるよ。ジョシュアは、おまえに恥をかかせたくないから、乗り気じゃないだけさ。ジョシュアはやさしいからね」
     むすっと、したように口を開いたのが、相手の少年よりは年下の、カイン。彼がこんなふうに好戦的になるのはたいてい、ジョシュアを守るときだけ。ああ、やさしいのはあなたのほうです!
     少年は、「なんだって…!」と、歯がみするけれど、どうもさすがに、ルース邸のおぼっちゃん本人ことカイン相手に強気に出る度胸はないようだった。ジョシュアはわずかほっと胸を撫で下ろす。カインに手出しでもされそうになったら、身を挺して守る用意はできているけれど、万が一ということもあるのだから。
     カインはそれでも、ことばだけで事態を収めるつもりでは、ないようだった。
    「ぼくがやる。こんなの、ジョシュアがでるほどのことじゃないよ」
     そう言って、少年があっけに取られているのを意にも介さず、カインは せっせと、木登りに取り組むのだった。ジョシュアは慌てる。カインさまに、なにかあったら! 私がささいなことでためらったばっかりに! けれどもその主カインは、強い決意でもって、ぐっ、ぐっ、と、力強く幹を登っていく。試行錯誤であるだろうに、そうは見せない気高さがある。最初は低いところにあまり枝がないのでよじ登っていたけれど、じき、枝に手が届いて、そこからは調子よく登っていく。ああ、カインさま! ひやり、ジョシュアは心地よい陽射しとは裏腹に冷え切った指先を合わせてくちもとに祈りのように掲げたい気持ちでいっぱいになりながら、それでも、主を信じて、ただその拳を体側で握り、静かに、待つのだった。そうして彼は、登れる上限まで到達する! 実をもぐときにバランスをくずさないかいっそう心配になるけれども、頼もしきこのおかたは、それを無事にやりとげたのだった。それがあっさりと見えた様子に対してとても懸命だったことを、ジョシュアはじゅうぶんに、理解していた。恐らく、勝ち気な少年も。
     カインが、取った実を上からふたつ、落としてジョシュアにキャッチさせる。皮がしっかりとしているので潰れはしないだろうけれども、それなりに重そうなので、あまり下で受けるには危険だろう。ジョシュアはジャンプして受け取った。カインがそれを満足げに見届け、もうコツを掴んだらしくスマートに降りてきて、ぱん、ぱんと、衣服をはたいて、どうしていいのか困った様子の少年に言う。
    「どうだい。"おぼっちゃん"のぼくにできるんだ。ジョシュアにできないわけないって、わかっただろ」
    「あ、ああ…おれがわるかったよ…ごめん、ジョシュア、カイン。ためすようなことして」
    「わかればいいさ」
     カインはあっさり、水に流していたけれど、ジョシュアは、カインの身を危険にさらしたそのテストに、物申したい気持ちでいっぱいだった。だが、それも子ども同士の成長の過程。立派にやりとげた主の気持ちを、台無しにするわけにはいかないと思った。それでもひとこと、主に釘を刺しておく意味も含めて、今は ひとこと、言うだけにとどめる。
    「…今後は、このようなことは、くれぐれもございませんよう…」
    「わかってるって、ジョシュア!」
    「だいじょうぶさ、ジョシュア」
     少年と、カインの、ふたりぶんのことばが重なる。カインさま。わたしはあなたの身を案じているのですよ、カインさま。ああ、けれども、我が主の成長のためには、多少の苦難を見守ることも、必要なのでしょう。ジョシュアがそれを、改めて学び、覚悟した機会だった。
     少年に見送られながら、カインとジョシュアは、帰路に就く。ジョシュアはその間、柑橘の実ふたつを大事に持っていた。邸宅に着いて、主カインに、彼の御自ら勝ち取ったその品をおさめようとした、そのときだった。カインが、一旦それをふたつとも受け取って、そのうちのひとつを、差し出してきたのだ。
    「はい、ジョシュア。これはきみのぶんだ」
    「え、ですが、カインさま…」
    「だって、きみのためじゃなかったら、ぼくはとても登れはしなかったからね。ぼくにできることが増えたのは、きみのおかげさ。だから、はい」
     差し出されたそれを、ジョシュアは何よりも神聖なものを賜るように両手でうやうやしく受け取り、そうして、カインの顔をゆっくり見る。はにかむ笑顔。背景の窓越しに見える青空が、彼の瞳を映した鏡のよう! けれどその輝きと透明感は到底このかたに及ばない。 その空は彼の髪の色を際立たせ、そして光に透かすのだった。ああ! このようなうつくしく、気高く、――そして、誰よりもやさしいおかた! 自分のあるじはこのおかたひとりだと、生涯かけてそうなのだと、改めて感じる瞬間のひとつだった。
     やさしいあなた。あなたのためなら、私は、この身を、いかようにも捧げましょうとも!












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    ◆a promise /原作主従(受攻お任せ)



     カインさま、カインさま。りんごのパイがやけましたよ、カインさま。
     うん! 今行くよ、ジョシュア! ジョシュア、今行くよ。ジョシュア、今――
     木漏れ日がさざ波に融ける。ざあぁっと、わずかな音は、ノイズというにはあまりに心地よく、けれどもそれを知覚する者を持たなかった。身にまとうマントそのものに、否、それよりももっとおぼろげなヴェールに思考も視界も覆われた黒衣の騎士が、ひとときのまどろみを一掃する。なにか、どこか、なにかを感じたような、いいや、わたしには何もない。ナンバーワンを目指す以外は何も。そう、何も、ない。明日の大輪ヤマトとの決戦で、すべてがわかる。
     掻き消された名残は、それでも彼に深く根付いていた。それに陰ながら寄り添い、いつくしむ者の、存在を受けて、そして多くの支えにより、確かに芽吹く。黒雲は振り払われ、カインは、見失っていた大事なものを、思い出す。これが、ぼくの。大事なもの。ぼくの。ぼくの、――
     光に満ちた視界。世界。そのなかで一条が、ひとりをことさらに際立たせてさしている。カインはそれに目をこすりたいようで、細めたいような、どうにもしがたい衝動に、駆られそうになる。
     光の中で、その魂のつがいが、言った。そうだ、彼は、ぼくにずっと寄り添ってくれていた命の片割れだ。否、これからも。その彼の様子がどこか変わらぬものに見えて、カインは改めて、はっとした。自分の命令に従っていたときも、彼はきっと、彼のままだったのだ。わずか熱の移る心地がしたのは、目頭と、それから、支えられた全身と――
    「――カインさま、さあ、一緒に、帰りましょう」
    「…一緒に?」
    「はい」
     立ち上がるのを助けるよう、伸ばされた手に、ふるり身をふるわせた手が胸をときときと鳴らす。そうっと、見上げればその相手は、にこりと微笑んだ。それがまるで初めてのように、けれどもひどく懐かしい心地でもって、カインの頬をいっそうに熱くさせる。なんだろう。この感じは。なんだろう。
    「…どうしてだろう。見覚えが、ある気がするよ」
     手をぎゅっと握り返しながら、カインはそう言った。握った手が自分よりひとまわり大きいことに、なんとも言えない心地になる。ジョシュアが、ぱちり、とひとつふたつまたたいて、それからまた、陽だまりの笑み。ああ。そうだ、そのぬくもり。忘れていた大事なもの。
    「…そうかもしれませんね。昔は、よく、こうしていましたから」
     そのはにかみ顔よ、ああ! とすり、胸を貫く矢は、――甘かった。ぎゅううっと、カインは、自身の服の胸元を握りしめる。カインの様子にさとい執事兼親友どのが、「カインさま、どうされましたか」、と、一転心配顔。だいじょうぶだよ、ジョシュア。だいじょうぶ。ジョシュア、ジョシュア――
     彼の言った昔を、そう遠くないことのように錯覚し、けれども同時に、遥か過去のことのようにも感じた。けれどなんだろう、この、真新しい記憶は。そうだ、あれだ。夢を見たんだ。あのときの、夢。あれがぼくの。
    「…夢を、見たんだ」
     突然の切り出しに、ジョシュアがまた目をまたたかせて、それからふわり、包容力そのものの笑みで相槌を打つ。
    「どのような夢ですか?」
    「ジョシュアが、ぼくを呼びに来て…あれは、いつのことだろう、たぶん、よくあることだったんだ」
    「ふふ、そうですね、それはそうかもしれません」
    「ジョシュアは、いつも、ぼくを呼びに来てくれて…そうだ、アップルパイだ。アップルパイがやけた、と言って、…それから、ぼくはどうしたんだろう」
    「アップルパイ…ですか? お屋敷では、よく出ていましたね」
     ジョシュアが、カインの父が亡くなるまでは、という但し書きに触れなかったので、カインも、それには直接触れなかった。
    「そう、ぼくのお気に入りだった。だけど、小さなころは、出たことがなかったんだ。珍しかった。だからぼくが食べたがって…」
    「…ああ! あのときですね、そうでした、わたしも、ええ、思い出しましたよ」
     カインのこととなれば何でも覚えていそうなジョシュアがその記憶の海に埋もれさせているほどとなると、よほど、ありふれたささやかなぬくもりの一コマだったのだろう。いちばん最初に触れたあのときのりんごパイはどんな味だったか。幾度もの上書きでおぼろいだ記憶に、輪郭が、よみがえっていく。
     さくり! 歯触りのいい食感と、焼き立てのバターの香り。それとハーモニーを奏でる、なんともかぐわしい蜜煮のりんごのジューシィな甘さとスパイスの風味が、口の中いっぱいに広がる、それはバトル後のおなかをじゅうぶんすぎるほどにくすぐって。
     ぐうう、っと、がらにもなくおなかを鳴らしたのは、どちらともなくだった。きょとり。わずかな間ののちに、くすくすと、笑い合う。
    「…それが、ずいぶんおいしかったものだから、ぼくが好んで、よく、焼いてもらうようになったんだったね。ジョシュアも、焼くのを手伝っていて」
    「はい、それは、わたしにも、喜ばしいことでした。――ああ、わたしは、どうして忘れていたんでしょう」
    「ぼくも同じさ」
    「カインさま、それは、言いっこなしですよ」
     ふわり、微笑みながらジョシュアが、人差し指を自らのくちもと近くに持っていき、それからカインの同じ場所へと、近付けるそぶりを見せる。こてり、傾けられたかたちのよいあたま。カインは、ジョシュアの手の指をゆるく押し開くようにして五指を絡めて握りしめ、祈るようなそのかたちのまま、言った。
    「なら、ジョシュア、もう言わない代わりに、約束だ」
    「…約束、ですか?」
     その単語を聞いてもジョシュアの顔にはみじんの不安も浮かばなかった。カインは、それでも、それでもだ。ほとんどの確信に無自覚なちいさなワガママを、どきどきと、絞り出すように、けれども極力平静をとりつくろって、告げる。
    「…ねえ、ジョシュア。…また、アップルパイを、焼いてくれないか」
    「もちろん、いくらでも!」
    「…それは、ずうっとかい?」
    「ええ、ずうっとです」
    「…ありがとう、ジョシュア…」
    「…カインさま。お気が、早いですよ」
    「いいんだ。ありがとう。ジョシュア、ほんとうに、ありがとう…」
    「…こちらこそ…あなたは、わたしの、すべてです」
     カインのありがとうが何に対してなのか、ジョシュアが最初から理解していてそれでもはぐらかしてくれたことをカインは察していた。それでも、カインはそこに、もう一歩、踏み込んだ。確認し合った絆には、昔から変わらないただひとつの想いが、決め事のように当然に、けれどももっと自然に、深く、強く、存在していた。それはまるでりんごが木から下に落ちることわりのようで、簡単には覆らず、あたかもいつも、そうであるように見える。それをそうさせる重力が失われない保証はあるか? カインは、きっと何をしたって、この絆を失うことはないだろう。けれども。それがそこにあたりまえのようにあってくれるありがたさを、忘れずに噛みしめていたいと思った。さくり! さあ、りんごのパイが焼けるよ――








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    ◆我が主のアドベント -聖なるこの日に!-/ジョシュカイ もしくは男前受のカイジョシュ


     主、カインの誕生日まで1か月を切った、2月1日。ジョシュアは、趣向を凝らした贈り物をする。それはクリスマスで言うところのアドベントカレンダーの形式だった。即ち、当日までの各日ごとにひとつの窓を持つカレンダーを、毎日一つずつ、開けていくのである。その窓の中には小さなギフトがあるという寸法。そして、こと今回においては、もうひとつ仕掛けが、あるのだった。
     カインの邸宅では、クリスマスのアドベントはしない。そのため、新鮮なそれに、カインが喜ぶ。
    「ふふ。ジョシュアったら、凝ったことをしてくれるんだね。毎日が、いっそう楽しみだよ」
     きみと居ればいつだって楽しいけど、と、はにかむ主のまばゆい後光ときたら! ジョシュアは思わず目を細めて、くすぐったい心地で、笑む。
    「…今回は、カインさまもご承知の通り、キャットカフェでアルバイトをさせて頂いて、そのお手当で、ギフトを用意させて頂きました。と言っても、手作りの品が多いのですが…」
    「――ありがとう、ジョシュア…。きみのその気持ちが、ぼくには、本当に、何よりの贈り物だ」
    「カインさま、そのお言葉、たいへんありがたく存じますが、――少々、お気が早いですよ?」
     仕掛けありげなウインクひとつ。くちもとに添えた人差し指にカインは視線を囚われて、ぽうっと見入る。それからハッとして、ふるり、髪を左右にわずか振り、にこり、笑んで返す。内心ではときときと、胸を弾ませていた。なにか、もしかしたら何か。アドベント以外の仕掛けが、あるんじゃないか。もしかして――
     そわつく胸に、舌がもつれそうな心地。それでも平静を取り繕って、カインは話題を少し逸らす。
    「…それにしても、あれには本当にびっくりしたよ。きみが、しばらくの間日中留守にするって言うから、ぼくがつまらなくてキャットカフェにふらりと行ったら。なんと、当のきみがそこで働いていたんだからね」
    「隠すつもりはなかったのですが…一日でお役御免になってはあまりに格好がつきませんから。試用期間が過ぎたら報告するつもりでいたのを、案の定、と言いますか…先に見つかってしまいましたね」
     ジョシュアが、照れくさげに頬を掻く。あのときの驚きが今でも鮮明によみがえるカインは、まるで遠い思い出話でもするかのように懐かしむ。
    「そう。きみときたら、びっくりしているぼくに、追い打ちをかけたんだ。ぼくの誕生日のためにアルバイトをしている、と、言って」
    「…はい。今回は、どうしても、カインさまの執事として得た収入ではなく、ひとりのジョシュアとして、得たものであなたに、贈り物をしたかったものですから。…結局、カインさまが通ってくださったおかげで、お手当を弾んで頂いたようなものですが…」
     どきり。そのアルバイトを知ったあのときと同じことばに、変わらぬ真摯な想いと、より深い何か、決意を感じて。はにかむジョシュアに、カインはまた、そわそわと、クリスマスを待つこどもそのものになるのだった。そうだ、ぼくにとっての新たなクリスマス。ジョシュアが用意してくれた。
    「…とにかく、楽しみにしているよ」
     そう言って、文字通りカレンダーをまくる日々が、始まる。
     そのカレンダーの小窓のなかには、丸いものが好んで入れられていることにすぐ気付いた。トリュフチョコレート、チェリーボンボン。まんまるキャンディに、ブールドネージュ。あるいはオレンジの輪切り蜜漬けにチョコ掛けしたもの、等々。バレンタインの日には少し大きなものが入っていた。そうして迎える、誕生日当日。
     急く胸は、ずっとそのまま、どきどきを味わっていたいと思わせるから不思議だ。けれどももちろん、中身は気になる。カインは、かり、かりと、桜貝の爪を滑らせて、はやる胸で、開ける。その窓を、最後のそれを。開けたのだ。そこに入っていたのは。
    「……ゆび、わ……」
     そうだ、まんまるの。すべてがこれのための布石であることを瞬時に理解する。このアドベントカレンダーを贈ったときのジョシュアの、曰くありげなウインクの仕掛けはこれだったのだ。シンプルなリングが、それでも金に小粒のダイヤモンドとルビーをあしらったものであることもすぐに分かった。こんな、こんなの。いくら手当をはずまれたって、キャットカフェのアルバイト代だけで買えるとはとても思えなかった。ジョシュアがアルバイトをしていたのは、カインのそばをそれほど長く離れないで済む範疇であったのだから。
     カインは、何から、何を言っていいのかわからなくて、アドベントカレンダーの中身と、ジョシュアとを、交互に見やる。ジョシュアが、してやったり、といういたずらっ子の顔を珍しく浮かべながら、けれども、頬を紅潮させていることに、カインは気付いてしまった。そんな余裕、ありはしないのに。熱と熱が、すべて、まるまる、伝播して。この世界すらもが球で囲われてふたりだけのものになったように錯覚する。
    「…結局、考えたのですが――わたしがひとりのジョシュアであることは、すなわち、あなたとともにあること。…わたしは、あなたのジョシュアなのです。ですから、こちらで頂戴しているお手当も、使用させていただきました」
    「それは、それは――そうだね、ああ、その通りだよ、ジョシュア、ああ…!」
    「――カインさま。ここに、改めて、誓言いたします。
     わたしは、あなたとともに、これからも、永遠(とわ)に、歩み続けることを、ここに、誓います」
     ああ! ジョシュアのそのことばには、主が望むのならば、だとか、ともにいさせてくださいますかだとか、そういったフレーズが含まれなかった。それはともすれば傲慢で、けれどもその実、カインも同じように思っているのだという強い確信と、信頼とが、そこにはあった。
     目頭が、頬が、胸が、全身が熱くなる。カインは、ぎゅっとひとつ目をつむって、わずかうつむき、自身の胸元を、ぐっと握りしめた。その手の甲に、触れるは うやうやしき。
     はっと、カインが顔を上げる。見上げたジョシュアの顔は、真剣で、それでもやわらかく、そしてわずかに照れていて、にこりと、笑む。カインは、目を、改めて閉じた。わずか仰ぎ見る顔の角度。そこに、雪のようにふわりやわらかく、そしてそれを融かすように熱い、確かな温度が、くちづけを落とすのだった。
     しばしの間、くちびるを合わせて、離れる。カインはそのままぽうっと、ジョシュアの肩にもたれかかりたかった。けれども。
     彼に、両肩口の辺りをやんわりと掴まれ、わずか離される。それに名残惜しさを覚えるけれども、ジョシュアの熱っぽいひとみに、どきり、心臓を改めて掴まれる心地になるのだった。彼が、意図あってカインから顔を離したことを察した。そしてそれは。
     彼の手が、再びカインの手を取る。左手。どきり。カインはとっさに指をちぢこまらせそうになったのを、おそるおそる、少し開きがちに伸ばす。ふるえて、今にもまたちぢこまりそうなのを、必死で伸ばす。そこに。ああ、やっぱり! ゴールドのリングは、あるべき場所に収まるのだった。カインの、左手薬指。それは、ジョシュアがカインの傍らを居場所にしていること、そしてそれを改めて誓ったことを、象徴しているとカインは思った。この指輪は、ぼくの手にはめられるためのもの。そこを在処に決めたもの。まるでジョシュア。なら、ぼくにできることは?
    「…ぼくは、……ぼくも………きみと、ともに在ることを、永遠に、誓う」
     永久(とこしえ)の陽だまりがあふれる光に躍る!
    「カインさま…! ああ、カインさま、わたしは……ああ…!」
     あれほど自信満々だったのに、ジョシュアときたら、まるで、審判を待っていたみたいに顔をほころばせるんだから! そこに緊張が隠れていたことを、理解する。恐らく、本人にも無自覚だったそれを。それはカレンダーの本当の最後の小窓。
     カインは、いっそうに照れくさくなって、ジョシュアに抱きつきながら、言うのだった。
    「…今度は、ぼくにも、贈らせてくれるかい」
    「…はい、カインさま、もちろんですとも…」
     連理の枝ということばすらふたりを表すには事足りない。まるでもともとからひとつの木であるように、魂という根をともにするそのふたつの幹は、寄り添い合うのだった。
     この日は、ことさらに、ふたりの特別な日になったのだった。もちろん、ジョシュアの誕生日も等しく。ああ、なんて幸せな毎日だろう!












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    ◆アニメ43から52話 視聴時短文まとめ /受攻お任せ



    (*43話ネタ。一瞬入る過去セリフは想像です)



    「兄弟の絆というのは、やはり、強いもの」
     カインのそのことばに、ちくり、ジョシュアの胸のひみつの小匣がかすかに揺さぶられる。そう言った主(あるじ)に兄弟などいないことを、ジョシュアは知っていた。けれども。自分と彼とは、兄弟のように育った、とも言える。兄弟の絆。強いもの。兄弟。誰と誰が? ふるり、甘ったれた幻想を振り払う。そんなもの。そんなもの、このかたには不要だ。もちろんわたしにも。
    『ジョシュアは、ぼくの、兄のようだな』
     ああ、そんなことば、もはやとうの昔のこと! おもはゆげな笑みも、頬を掻く仕草も。まばゆい夕陽も。それに透けるまつげも、金色の髪も。つややかな爪も。すべて、――すべて。過去のこと。ああ! そんな記憶たちをこっそりひとつずつ大事に拾い上げ掻き抱いた、その胸の小匣を、今日もジョシュアは、封じ込める。
     わたしは、心を持たない。そう、持たないのだ。揺るがない。このかたのためならば。凪よ。わたしのものであれ。風よ。このかたに追い風となれ。風よ、ああ、風よ――決して、決して、わたしの水面(みなも)を、さざめかせないで。ああ、風よ。わたしは、風を、受け流さなければならないのです。何事にも動じない、ただ受け流してこたえるだけの、鏡でなければ―― そこに残るものは、平坦でなければ……
     わずか動いた顔ですら、本来ならば、忌むべきところ。けれど。
     主(しゅ)よ、主よ。あなたはわたしの救い。なにがあろうと、あなたがどうあろうと、わたしが万が一にもあなたをみそこなうようなことなど、とうていありもしない。決して、決してない。だからわたしは。あなたのことばを、受け流すのです。刹那、わずか揺らいだ鏡面も、もう、もう等しく過去のこと。あなたは過去は見ない。だから、わたしも何も知らない。あなたのゆくさきだけを、ただ、見る。けれど。胸にひみつを抱くことだけは、赦されたいのです。いつかこれを、開くときが来る? そうなるときだって、あなたはあなた。わたしの大事な。それが変わることなど、決して、決して、ありはしない。




    [not, NOT EVER]
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    (*45話)


     私はバトラー。カインさまの、執事。それ以外の名前は棄てた。私は心を持たない。傷つくくらいならばそんなものは、持たないほうがいいと思ったのだ。けれど。ぱりん。くだけたのは、私の――昔の、昔から変わらぬ、確かな。それは紛れもなく、心。私のただひとつの。ああ。割れてしまった。ほろり、ぽろぽろと涙が頬を伝う。壊れた心の直しかたを、わたしは、しらない。



    ---
    (*45話)



    「ぼくには必要ないんだよ、心なんてくだらないものはね」
     かつては確かにあったそのぬくもりを、不要と言い切る我が主。常にトップであるために、冷酷に、なりきるために、徹するために。父上の望む通りであるために。心を過去に棄てやったカイン。わたしの、カイン。彼はいつしか、悪に染まっていった。そんな彼を見て傷つくことがこわくて、わたしも、心を封印した。わたしたちは、封印したのだ。かつて交わした心と心を。封印した。それがただの眠りであるならば、どんなにか よかっただろう。
     ぱりん。容易く割れたビー玉。わたしの、――わたしの心。封印が、解かれた。それはあまりにも残酷なかたちで。カインは、わたしの心を、眠っていたそれを、ためらいなく使い棄てる。ほかのビー玉となんら変わりない、ただの、ひと玉として。否、むしろ、古い安物として蔑んだ。わたしたちの約束を。わたしにとって大事な支えであるそれを、――わたしたちの交わした心と心を。かつて大事にすると笑んだそれを、そんなものなんて古くて安っぽいちんけな がらくただろう、と。わたしに、あえて、あえて念押ししたのだ。ああ。頬を伝う涙。その雫は、カインのこころには届かない。弾かれ、散る。
     わたしは、わたしの心は、それでもただひとつ、決まっていた。カインを救うためならなんだってする。だから。彼がわたしとの過去を棄てたって、今のわたしをどうしたって。彼は、救われなければならない。そのためならば。わたしは、なんだってするのだ。だから。
     わたしは、あなたと在りましょうとも。何があっても、これからもずっと。わたしは、あなたの、あなただけのバトラー。封じた名すら、あなたに捧ぐ。わたしはあなたのジョシュアなのです。さあ、カインさま、ずっとともに――





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    (*45話)


     カインさま。あなたは言った。私がマーダビィの方針に基づいて進言したときには、『いつからぼく以外の言うことをきくようになったんだい』と。それから、ヤマトたちに密かに相談していたのをみつけたときには、『鞍替えしたのか』と。――いいえ、カインさま。お気づきでないのですね。わたしは、わたしは、あなただけのための存在。すべてをあなたに捧げた、あなただけのこの身、この魂。
     わたしは、あなた以外のだれの下にも、つく気はございません。あなたがマーダビィの配下についたがためにそんなあなたに付き従ったのみ。あなたをお救いするためだけに、ヤマトたちに協力を求めたのみ。すべては、すべてはカインさまのために。あなたの、御為に。
     さあ、あなたのゆくさきに寄り添い続けましょう。それがわたしの、あなたのわたしの、在り方なのです。すべて、すべて。あなたとともに。そのさきがどんなかたちであろうとも、わたしにはそれが、何よりの、至上の幸福なのです。





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    (*46話)



     カインとの、バトル。お芝居を除けばずいぶんと久しいそれは、あまりにも、あまりにも、望ましくないかたちだった。けれども。それが致し方ないと思った。
     わたしは、わたしのすべてを失っても、カインの目を覚ますことができればいいと思った。すべてを失っても。――すべて?
    『すべては、カインさまのために――』
     それは、神羅万象、この世のすべての事物が彼のためであると同時に。当然、わたし自身のすべてを、包括されるのだった。むしろ、それがわたしにとってのすべて。ということは。
     わたしがすべてを失うことは。即ち、カインを失うこと。そうだ、わたしは――
     暗闇の、牢獄の扉の向こう。そこに閉ざされかけているカインの心に、わたしはかろうじて滑り込む。すんでのところで間に合った。わたしに、わたしにできるのは、このかたのそばに控えること。このかたが、かすかにでも光をつかむまで。
     あとは、頼みましたよ、皆さん。託した思い出のビー玉に、込められたカインの心の、真の闇からの解放を願う。ああ、満月が、まばゆく道を照らす。カインさま、きれいな月夜ですよ。いつかのようにそんな他愛のない会話を交わすことも、今はできない。カインさまが自らのもとにわたしの戻ってきたことをまんざらでもなく思い上機嫌で話すけれども、その内容は、彼の言うところの負け犬たちへの侮蔑に満ちていた。ああ、この満ち月は、これから欠けていくべきものだ。闇よ、闇よ。わたしは、この闇を、晴らしたい。新たな月よ。それが、よきものであれ。月よ――
    『たとえ相手が誰だろうと容赦はしない』
     カインさまは、わたしとのバトル前、そう言った。たとえ誰だろうと。容赦はしない。それが言外に、彼にとってわたしの立ち位置が本来は容赦をし得る存在であることを証かす。彼にとって、意味のある存在だと。ああ、わたしは、そうであれたらいい。それがわたしの、わたしのすべての役割。
     カインさまは、こうも言った。勝てるはずのない闘いをすることはみじめで、その屈辱のなかでどこまでがんばれるかが、みものであると。不憫も愛も役に立たないと。それらがすべて、すべてわたしに重なって感じる。わたしの愛は不憫でしょうか。望みの薄い戦いに挑むことはおろかでみじめでしょうか。けれど、わたしはそれを、屈辱とは思わないのです。わたしにとっては、それは、必要なこと。それがあなたのために少しでも役立つのならば、どんな境遇も至上の幸福。すべては、わたしのすべては、カイン、あなたのために。あなたの闇を晴らせるのなら、この身を刻まれようと、心砕かれようと、信念は、折れることはないのです。
     あなたを囚える、視界を狭める、闇よ。あなたの思うさきは、あなたの真のありかたではないのです。あなたの封じ込めた、大事なものを。わたしだけは、掻き抱いて、その存在をほのかなともしびにしましょうとも。たとえ、どんなことになろうとも。




    [月夜のともしび]
    ---
    (*46話)


     カイン。冷酷へと変わってゆくあなたにわたしはショックを受け、それ以上傷つくことを恐れて、心を封じた。感情を封印した。だから、気づかなかったのです。“あなた”が本当に変わってしまったのではなく、あなたも同じように、心を封印しただけなのだと。かつて交わした、心と心。それに、なんら変わりは、なかったのです! あなたはお父上を目指すために心を閉ざした。わたしはそうとは知らず、けれどもそれにまるでそっくり同じに呼応すように、心を閉ざした。わたしたちは、ひとつの鏡。わたしはあなたを映す鏡。あなたは、わたしの在るべきすべてを決定する、ただひとつの世界。あなたを映したこの身だけが、それが、わたしのすべてなのです。ああ、だからカイン。愛しきあなたよ。どうか、どうかわたしに、わずかばかりのわがままを赦してほしい。わたしが望む、あなたの在るべき姿を。この目に、映させてほしいのです。そのためならこの身がどうなろうとかまわないと思ったこともあった。けれど。わたしが、及ばずながらあなたに必要なピースのひとつであることに、気づいてしまった。だからわたしは、あなたの傍らにあり続けることを選ぶ。わたしの願いを、かつてのままのカインの心を託したグレイたちが、あなたを変えてくれることを信じて。わたしは在る。ここに、在る。それがわたしの、在るべき姿。主であるあなたよ、我が友のあなたよ。あなたよ、よりよい姿であれ――



    ---
    (*50話。こちら、特に、先の展開とだいぶ違いました…)



     ジョシュアの選んだひとつぶの光は、冷酷に傲慢に狂いゆくカインを“止める”ことだった。そこに残した救いは、カインが、ジョシュアは、ジョシュアだけは自分側の人間だと、固く信じたままであるということ。彼は、どんなに追い込まれ、焦り、苦しんでも、ジョシュアの手を求めた。ジョシュアに、求めたのだ。手助けを。だから、彼を止めるのは、ほかの人間でなければならなかった。ジョシュアだけは、カインの光でなければならなかったのだ。彼を光の世界に引き込むことができないのならば、それがせめてもの、ジョシュアにできること。それが、ジョシュアの選んだ、救いだった。
     グレイとの文字通りの死闘で、倒されたカイン。床に倒れた彼のすぐ間近に、かつてジョシュアと交わしたカインの心が、転げ寄る。抜け殻になった彼に、けれどもそれは収まるということはしなかった。そのさまはひどく皮肉なものであっただろう。だと言うのに、ジョシュアは、動じない。みじんも動じずに、ただ静かに、カインの体を支え起こした。かつての心の、ジョシュアがあれほど欲し望んだ、カインのあるべき姿をともした、ビー玉に、何の興味も持たずに。ジョシュアは、“今”のカインを、選んだのだ。変わってしまったわたしのカイン。封じた心は、もう振り返るまい。あなたのなれの果てですらわたしにはいとおしい。このまま、寄り添い遂げましょうとも。
     転げたままのビー玉は、何も語らない。誰も、何も、多くは語らなかった。置き去りにされた心は、けれども役目を立派に、果たした。それにより決定打がくだったことに、何よりの意味があった。ジョシュアは、強く誓う。もう、変わった彼から目を逸らすことも、回帰を求めることも致すまいと。心閉ざすことをやめ、けれど哀しむこともせず、ありのままのカインを受け止めようと。ですがこれ以上悪には染めさせない。グレイの協力により断ち切られた魔の手。それが何も過去に戻しはしなくとも、どんなかたちになっても、カイン、あなたは、わたしのすべて。
     抜け殻のカインがわずか、微笑んだ気がした。




    ---
    (*52話。本編を文字化しつつ補っているかんじです)


     グレイとカインとの文字通りの死闘。倒されたカインは、まるで電源の入っていない自動人形のように目から光を失い、自発的に動くということができなくなった。そんな彼をわたしは支えながら歩いて、車椅子へと乗せ、崖のふちから、暗雲のみが立ち込める世界の、終焉に限りなく近いそれの、顛末を見守っていた。まるで世界にふたり取り残されたかのように、ずっとカインと並び。その雲をみつめていたのだ。
     終焉が近い。それはすなわち、新たな世界の始まりも、近いということで。ああ、光の柱が、立ちのぼる。この世界すべてを覆いつくす黒雲へと。
    「すべてが終わったようですね、カインさま」
     光の柱が、すうっと、すべてを浄化するように消えた。わたしは、うつろな目のカインに話しかける。車椅子に座らせた彼からは答えがないことを知りながら。それでもよかった。なのに、ああ!
     無数の光が、天(そら)からふわり舞い降りる。わたしは驚いて見上げた。そのビー玉のように丸い光の、降りゆくさきを、見つめる。近寄り拾い上げて、見た、少しの間。それはぽうっと消えたのだった。はっとして、声をかけ振り向く。
    「カインさまっ…!」
     彼、わたしの主(とも)カインが、眼から光を失いまるで抜け殻のようになっていた彼が、まるで久方ぶりかのように、身動きをしただなんて! 彼がそんなふうになったのがつい先ごろだというのにわたしは、それを、創世のかなた昔の出来事のように思う。
     彼は、舞い降りる光に、てのひらを向け、手をわずか掲げる。ああ、ああ! 彼は手に降りてきたひかりを自身の近くへと引き寄せ、見つめる。それは親の手を握り返す赤子に似て。ああ…!
    「……や、…ま、…と……」
     発話に伴いそのアメジストに戻りゆく光! 産声はぎこちなく、たどたどしく、ことばを未だ知らないかのようで。けれどそれは私にとって、何よりも、何よりも幸福で、嬉しく、待ち望んだことだったのだ! 私は、膝をついて涙を流した。彼が、カインさまが、自分を、あるべき自身を、手にしたのだから。
    「…っ、カインさま…!」
     ああ、彼の足が、車椅子からゆっくりと降り、地を踏む! ざりっ、と、ちいさくおとがした。その、その第一歩があまりにも大きなことを、このかたすらまだ知らないのだ! けれどわたしはそれを、わたしだけのものにする気は、とうていなかった。
     ゆっくりと、ゆっくりと自身の力で、立ち上がるカインさま。見上げた彼の顔は、晴れやかで、みじんの闇をも知らぬ、光そのものだった。
    「やまと…」
     カインさまが、まだたどたどしい調子で、それでもそのことばを繰り返す。わたしも、ともに立ち上がる。
    「行きましょう、ヤマトのもとへ…!」
     そうしてわたしは、まだ足元のおぼつかないカインさまの肩を、それでも支えることなく、ただ手を取って、ゆっくり、ゆっくりと、その歩みに寄り添う。彼の歩みは、ここから、始まったのだ。
     わたしたちは、多くの、ほんとうに多くの“仲間たち”と、それから世界を救ったヤマトたちと合流し、大勢で、楽しくバトルをした。わたしの相手はまずはカインさま。彼はバトルになると少し動きがスムーズになった。彼とのバトルが、こんなにもうれしいだなんて! いつぶりのことだろう。
     途中、彼が、「…ジョシュ、ア…?」と、わたしの名を発したので、わたしは更なるよろこびにうちふるえた。そうです、わたしです。わたしは、ずっと、ここにいたのです。これからもずっと。わたしは、あなたとともに。
     ゆっくりで、いいのですよ、カインさま。けれどもわたしとも何戦か、そしてほかにもたくさんの相手とバトルをしているうちに、カインさまはすっかり、年相応の調子になった。それは長らくオフになっていた電源が、ふたたび入ったかのようで。まるでかつて交わした心のまま育ったかのようなそのすがすがしい顔、明るい表情、いつわりのない笑み! わたしがまた思わず涙を流せば、カインさまは、「どうしたんだい、ジョシュア?」と、言いながらわたしの頬のしずくを指ですくってくれた。ああ、ありがとう、ヤマト、そして、皆さん。カインさまは、そして魂をともにするわたしは、これから、新たな歩みをゆきます。これが、わたしたち皆の、新たな世界の幕開け。












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    ◆ ああ、しあわせを噛みしめるよろこび! /受攻お任せ



     ぼくたちのクリスマスの準備は、ほとんど一年の初めから始まる。一年がかりのその習慣が、毎年、毎年連綿と、つづいていくのだった。
     ぼくたちの住む家には、柑橘の木が一本ある。それは新年の明けて来客との挨拶や各種パーティの一通り済みひと息ついたころの中旬、ちょうど熟し始めるのだった。たわわに実った枝が重くなっていくさまはわくわくするもの。つい先ごろのクリスマスのアドベント、我が家でするところのシュトレンにそっくり重なる。ふたりの思い出がつまった柑橘の木から、大事に大事に、ふたりの時間をたくさんもらいながらひとつのものをいくつもつくっていき、歩んでいく、それがぼくたちの生活。
     実の数々はいっぺんに黄色くなるということなく、徐々に、ひとつふたつ、一歩一歩、進んでいく。その自然の歩みに合わせてぼくたちは、食べごろになったものから少しずつ、もいでいく。洗って、八つ割りに、きれいに皮を剥く。その皮を、冷凍庫に入れ、ストックして。すべてが出そろったころに、ジョシュアがシロップ漬けにするという算段。いっぺんに皮が出るのならば冷凍する必要はないのだけれど、ぼくたちは少しずつその宝物が増えていく日々を愛おしく楽しむライフスタイルだからこうしている。
     ジョシュアの作る柑橘ピールのシロップ漬けは、一週間掛かりの品物で、つやつや、ふっくらとしていてほんとうにおいしいんだ。初めてそのさまを厨房で観察したときは、こんなにもたくさんのお砂糖を使うのかとびっくりしたけれども。日ごと、彼が鍋からピールを取り出し、シロップに砂糖を加え火入れしていくさまを見ていると、これもわくわく胸躍るもの。彼はそれを煮沸消毒した瓶と、それから冷凍用の袋に分けて入れて、保管する。なんでもこのレシピは、名店のパティシエ直伝らしい。もともとはブレイクタイム用に購入したのをぼくが気に入ったものだから、ジョシュアが熱心に通い、教授を願ったのだとか。ジョシュアのその気持ちが、なによりのたからものだね。
     そうしてジョシュアが手をかけ真心いっぱいで作った柑橘ピールは、お菓子作りによく活躍する。ピールだけじゃなくて、それをじっくり漬けたシロップまで大活躍さ! だって、柑橘のさわやかな香りがなんとも絶妙に染みわたっていて、幸福感いっぱいに包まれるんだからね。ぼくの気に入りは、そのシロップを使った、栗の粉のケーキ。もともとはカスタンニャッチョというお菓子で、それにジョシュアがアレンジとしてシロップを使ってみたら、これがまたずいぶんとうまくはまったというわけさ。庭から摘んできたローズマリーの生枝(これはぼくの仕事さ!)を刺して、レーズンをあしらってオーブンで焼き上げたそれは、なんとも、かぐわしい香り! さくさく、歯ごたえよく焼けたローズマリーは風味も抜群。栗の粉の香ばしい味わい深さに、柑橘の香りと、しっとりとした食感とが相まって、ああ、ほんとうにしあわせでいっぱいだ。
     ピールやシロップは、ほかにも活躍するんだ。ごろごろピールとシロップを使ったクッキーだろう。それから、パンケーキにもよく合うんだ。これはハムと一緒に入れて塩味で焼き上げても、ピールのみで甘く仕上げてシロップをかけても美味なるもの。ジョシュアはほかにも、いろんな工夫をしてくれるよ。
     ピールのいちばんの大舞台は、クリスマスのシュトレンさ! だからぼくたちはその準備を年明けから始めているということになるね。それを最大の目的にして、それからほかの用途にも使えるように、自家製ピールと何種類ものレーズン、それからドライチェリー、たくさんのナッツをスパイスと洋酒で漬け込み、熟成させていく。これも消毒した瓶で保存して、ケーキやクッキー、パン、スコーン、いろいろなことに少しずつ活かしていく。おっと、シュトレンのぶんはもちろん確保してあるよ!
     そうして一年の、日常の部分をぼくたちはゆったりと過ごす。もちろん相応に忙しいところは忙しくしながら。どちらも、心底から楽しんでいるんだ。さあ、いよいよ、アドベントが始まるよ。
     ぼくたちのアドベントの主役はご承知の通りシュトレン! クリスマスを待ちながら、その期間、日に少しずつスライスして食べていくんだ。徐々に馴染んでいき味わいを変えるそれはカラフルな贈り物。ああ、毎日の彩りがまた輝くね。
     シュトレンをつくるのは、ふつうのパンとは少し勝手が違う。水分をあまり入れず、バターやドライフルーツがたっぷり入る重たい生地なものだから、発酵がしにくいんだってジョシュアが言っていた。そのため、特殊な発酵方法を使う。ジョシュアが、アンザッツ法と言うと教えてくれた。ジョシュアのシュトレン作りを厨房で見ていたら、鍋に水を入れて火にかけているものだから、あれ?と、思ったんだ。彼がそれを温度計でみて、そのお湯に生地を入れたのだから、ぼくはほんとうにびっくりしたね! ベーグルみたいに焼き上げる前に茹でるのとはまた違うみたいだ。前生地と呼ばれる発酵用の種となる生地を、40度のお湯で茹でて、全体の生地に混ぜ合わせることで発酵のパワーを高めるのがジョシュアのアンザッツ法で、その手法の一例。ほかにも、アンザッツ法には、常温で発酵させたり、オーブンで発酵させたりする方法もあるみたいだ。
     全体の生地に前生地をちぎるようにして加えていき、まとめる。ジョシュアの手際にうっとりみとれてしまう。それから一次発酵をさせて、ガス抜き。さあ、いよいよ、この日のために寝かせてあったフルーツとナッツの漬け込みの出番だよ。漬け込みの汁気をざるにあけてとるのはぼくの仕事。それをジョシュアが、まるでたいそうなことを成し遂げたかのように笑顔で受け取ってくれるものだから、ぼくは気恥ずかしくも、誇らしくなる。フルーツとナッツを生地全体に少量ずつまんべんなく乗せて、軽く押して四つ折りにする。生地の四隅を中央に向けて重ねていくイメージだ。それはぼくにはとてもむずかしい作業に見えて、改めて、ジョシュアがかっこよく見える瞬間だ。その作業を繰り返して、すべてのフルーツとナッツが、生地におさまったよ。さあ、ここでもうひとつ、ぼくの仕事が隠されていた。
     ぼくは、ジョシュアの手つきにうっとりしながらも、その間、シュトレンの中心に入れるためのマジパンペーストを、作ってあったのだった。アーモンドプードルと粉糖と卵白と、それから香り付けでバニラオイルを2、3滴入れて練り、冷蔵庫で寝かせてあったそれ。さあ、きみの出番だよ。
     ジョシュアが、シュトレン生地を複雑なかたちに伸ばしたり、折ったり押したりしながら、あの独特のかたちにしていく。乳飲み子を毛布でくるんだかたちと言われている。ジョシュアが、なつかしそうにする。ぼくにはそれが、面映ゆい。
     最終発酵をじっくり1時間かけてして、それから焼き上げだ。オーブンを開ける瞬間はいつも、ビー玉を発射するときのようで、それとはまた違うテイストの、高揚感の毛布にめいっぱいに包まれる。ドキドキワクワクには変わりないのに、同時に、もっと、ゆったりと心安らぐような。不思議な感覚だ。ぼくたちはそれがしあわせというものだということをよく理解していた。
     焼きあがったシュトレンの焼き色に、うっとりできる時間は束の間。惜しいけれども、おいしさのためには仕方ない! ジョシュアが溶かしバターを手早く刷毛で塗り、そこにバニラビーンズで香り付けしたグラニュ糖をたっぷりかけ、少し撫でつける。仕上げにぼくが粉糖をまんべんなく振って、熱いうちに食品用のラップで包んだらひとまずは完成。そしてここからが、スタートでもある。
     日ごと食べていくけれど、徐々に、マジパン生地がとろけるようにシュトレン生地に馴染んで、フルーツとナッツのスパイスや洋酒の風味も溶け込んで。一体となったその風味は格別。くちのなかでほどけて、けれども食感のあるそれを、その味わいを、噛みしめる。特に、ピールのさわやかな香りと芳醇な甘さときたら! ああ、楽しみが増していくのに呼応して、クリスマスが近づいてくるね。家もイルミネーションで飾って、モミの木を、一緒にツリーへと仕上げる。てっぺんの星を飾るのは、ぼくたちが毎年交代でやっている。今年はぼくの番。ジョシュアに支えてもらって、その頂をのぞむのだった! もちろんジョシュアの番のときは支えるのはぼくの役目。ぼくも、それだけ、大きくなったんだ。ジョシュアが感慨深そうにする様子は、くすぐったい気持ちにさせる。
     そんなふうにしてぼくたちはクリスマスにプレゼントの交換をして、また、次の年を迎える。そこには馴染んだ習慣と、そして、いつも、どこか新しいことがあるのだった。来年はどんな年になるのかな? たのしみだね、ジョシュア。こんな日々がこれからも続くという確信が、今は、ある。そのしあわせを、何度も何度もいつも新しい気持ちで、かみしめる。












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    ◆Special Menu for reception party /原作5か7年後



     カインとジョシュアは、婚約を交わした。それを正式に報告する意を込めて、身内向けのカジュアルなパーティの場を用意することにした。その食事のメニューを、二人で考える。
    「カインさまのくださったマシンに合わせて、赤、白、金、の三色を使用したいのですが、いかがでしょうか」
    「それはいいアイディアだね! よし、前菜はそれでいこう」
     ジョシュアの言ったのは、カインが、ジョシュアと婚約を交わした際に贈り、そして二人の共有のものとして邸宅に大事に置いてあるマシンのことだ。それは大粒ダイヤモンドとルビーをあしらった純金のもの。その誓いの証に因みたいというわけだ。二人で、その色のメニューを考える。
    「サフラン…パプリカ、あとは…金は、少し橙色でもいいかな? オレンジなんてどうだろう。うーん、いろいろ、浮かんでくるね。オレンジとニンジンのサラダなんかは、ぼくの好物だけど」
     それはミント風味のもので、昔ニンジンのあまり得意でなかったカインでも、喜んで食べていたものだった。
    「よいメニューですが、少々、色味の橙が強いかもしれませんね」
    「やっぱり、そうだよね。黄色がいいかな?」
    「黄色と言えば、トマトもございますね」
    「いいね! それなら、カラーミニトマトのカップにライスサラダを入れるのはどうだろう。赤と白と、黄色を使用して。宝石みたいだろう」
    「見た目も麗しいですね!
    三色ともそれでは少々さびしいので、黄色は、少々色が増えますが、甘夏とサニーレタスのプチサラダなどどうでしょう」
    「いいね、ぼくたちの髪の色とちょうど同じだ! そうだ、ぼくたちのイメージカラーも取り入れようよ!」
    「…そこまでは意識しませんでした…少々、気恥ずかしいですね…」
    「いいじゃないか。じゃあ、サラダはそれで。ほかの前菜は?」
    「赤と白………サーモンとヒラメのスモークを、クラッカーにのせるのはいかがでしょうか」
    「くるっと、きれいに花咲かせようか。素敵だね! そうだ、トマトと言えば、ドライトマトを入れたチャバタなんてどうだろう。生地にサフランを使って、ドライトマトを宝石のようにあしらうんだ」
    「目にも楽しいメニューですね! では、プチ・チャバタと…あとは、少量のリゾットはいかがでしょう。サフランリゾットに、赤と白の食用花を飾って…もしくは、クランチパスタなど」
    「いいね、そうしたら、リゾットがいいな。次はメインディッシュを考えよう!」
    「そうですね、サフランオレンジソース添えで、白身魚を…いえ、サフランばかりになってしまいますね…」
    「けど、サフラン水も少し添えたくなってしまうね…」
     首をひねるふたり。少し、行き詰まり始めた。
    「それでしたら、メインのひとつを青魚とオレンジのグリルにして、デザートはサフランのライスプディングや、クレープシュゼットなど、ありますが…少々、くどいでしょうね…」
    「サフランとオレンジばかりのメニューにする、っていうのも、手ではあるけど… よし、仕切り直そう!」
     ぱん、とひとつてのひらを鳴らすカイン。思考を切り替えたいときには彼はよくこうしていた。
    「だけど、オレンジと青魚のグリルは、いい案だと思う」
    「ありがとうございます」
    「そうだ、焼パプリカのオリーブオイル煮も添えようよ。白と赤とで」
    「味のバランスがいいですね。あとは…あっ、カジキマグロと野菜の串焼きはいかがでしょうか。カインさまもお好きな。お魚とタマネギの白と、トマトとレモンの赤と黄色、…それから、…その、ピーマン…いえ、ズッキーニに変更したほうがよろしいでしょうか。その、…緑、という彩りが、わたしとカインさまの髪色を思わせるかと…存じます…食材は、トマトがこれまでのメニューと重なってしまうのですが…」
     ジョシュアが少々気恥ずかしそうに提案した。その奥底にある気持ちをカインは尊重する。
    「…いいね。とても、素晴らしいよ、ジョシュア。
     …そうだ。なんだか、ぼくは、フラメンカエッグをメニューに取り入れたくて仕方ないよ。カップに入れて、トマトソースに卵をのせて焼き上げて…卵のふちにまるく見えるソースも、中心にのった黄身も、まるで、誓いのリングみたいじゃないかい? ふふ」
    「カインさま…… それでは、そういたしましょう。肉料理はいかがいたしますか?」
    「そうだね…ああ、シェリー酒を使った豚肉のローストがいいな。野菜と一緒に…」
    「シェリー酒…ですか…」
    「…だめかい?」
    「…いえ。わたしたちの門出に、ふさわしいかと思います」
    「そうだろう!
     そうだ、スープを決めていなかったね。豆がほしいかな。レンズ豆のポタージュはどうだろう、やさしい黄色だね」
    「あとは白や赤で、カブのポタージュや、ガスパッチョなどもございますね」
    「そうか…悩むね。全部、少しずつ、添えられるかな? ガスパッチョはりんごがいい!」
    「どうにかいたしましょう」
    「ありがとう、ジョシュア…たのもしいな」
     そう、厨房を取り仕切るのは、実のところジョシュアなのだった! だからこそジョシュアはためらいなく、手数(てかず)も品数も、気にせずに献立を組んでいける。カインも、その手助けはしつつも、ジョシュアの手腕に甘えることができるのだった。
    「豆ですと、あとは、紅白の茶巾絞りなどもございますね。栗を添えれば、色味もちょうどよいかと思います」
    「赤小豆と白小豆だね! それじゃあ、ちょっとした添え物にしよう。金箔も散らしたいね」
    「お料理はこのくらいでしょうか…デザートはいかがなさいますか?」
    「フロマージュのスフレがいい! レモンソースと、木イチゴのソルベを添えて…」
    「かしこまりました。それでは、決まりですね」
     そうしてできたスペシャルメニューは、メニュー表を見た仲間たちに「いや、宝石多ないか?!」「それだけ、こだわりが詰まっているんですね」などと、話の彩りを花咲かせるのだった。











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    ◆光に透けたロゼはうつくしい /アニメ版



     光に透けたロゼはうつくしい。“旦那様”ことカインの父親に供されるためのワインのボトルを見て、ジョシュアはそんなことを思ったものだ。それと一緒に思い出すのは、同じく光を受けるカインのてのひらの記憶。ジョシュアと交わしたビー玉を時折かざす彼の、白い肌質のバラ色が、その薄い部分が、わずか透けていた。気恥ずかしくて視線を逸らして、それでもちらりと顔を見れば、そこにも、バラ色に輝く頬と耳とが見え、まぶしくて目を細めた。その手も、頬も、耳も、未だ何も変わらない。変わってしまったものをひととき忘れさせる。ああ。人生は薔薇色だ。ピンク、黄色、赤、そして青。今は遠く感じる希望すら彩り。人生は、薔薇色だ。
    ジョシュアがロゼワイン越しの光をうつくしいと思ったとき、そのボトルは、封をされたままだった。繊細なロゼの色を見せるための透明な瓶。それは、開けられるためにそこにあり、そして実際に目前に、開封が迫っていた。複雑な光源で放射線状に散る淡いピンクに、はっとして、息を呑む。童心には手の届かない存在に思えた。それでも、そのままずっと、眺めていたいと思った。どうか、どうかこのボトルを、開けないままで。そんな淡い期待はもちろん叶わない。だって、そのロゼは供されるためにそこにあったのだから。けれど、ジョシュアはすぐに気付いた。ロゼは、封をとかれても、うつくしいままなのだと。その徐々に変わりゆくヒストリーまるまるが、追憶のすべて。ジョシュアはあいにくと、食卓への同席はゆるされていなかった。だからそれが、グラスのなかでどんないろをしていたのか、知らない。



    ***



     “こころを持たない”ジョシュアと、カインとの共謀。『わたしは心を持たない』。そう言うジョシュアは、そのときまだ知らなかった。カインに関するいくつかの大事なことを。当のカインですら知りはしない。
     カインは、決して、決して、ジョシュアが忠誠心のために心を殺してくれているのを利用しているわけではなかった。彼は、心底から信じていたのだ。カインの計画のために動くジョシュアの、その胸にあるものが、まことの賛同であると。ジョシュアが心底から自分の計画に乗ってくれているのだと思っていたのだ。だから、それはカインの心持ちにおいては利用ではなかった。いつもぼくのために尽くしてくれるジョシュア。信頼できる、ぼくのジョシュア。彼は、ジョシュアを妄信していた。彼らは一枚の鏡。鏡像が錯覚の虚像であることに気づかない、鏡だったのだ。それが彼らの、すれ違いを生んだ。
     そのすれ違いにジョシュアが気付いたのは、ほんとうに、本当に皮肉なことだった。カインを救う手助けを求め、ジョシュアは、他(た)を頼った。それはふたりきりで完結する世界からの脱却を意味しただろうか? その場においてはNo, 長期的に見ればYesでもありNoでもあった。密会の場に襲来したカイン。猛攻に応じたグレイが倒れる。ジョシュアはカインと刃を交える。騎士の加護者は、その信じる役割のために向き合ったのだ。そうして、皮肉にも気付いた。“変わってしまった”カインの奥底に、かつて交わしたままの童心が無自覚に眠らされていること。“変わってしまっても”カインが、ジョシュアを、信じているということ。彼の信頼をそれ以上裏切ることは、彼の心を本当の牢獄の扉(と)に閉ざしてしまうにほかならないこと。――それならば自分にできることは、彼に、彼のもとに寄り添い、光の兆しをわずかひとつぶでも探ることただひとつ。ジョシュアは、悪に染まるカインを止める役割は自分以外の人間がなさなければいけないことを理解した。自身は自身にしかできないことを改めて模索する。
     ジョシュアは、カインが光を得る、あるいは取り戻す手助けをできないか、最後の最後まで、ぎりぎりのふちまであがいた。けれども、結果的には、それがほとんど絶望的であることを悟る。同時に、そのあらゆる絶望の底にたったひとつ、ひとつぶだけ、希望が残されていることも最終局面で理解した。自分は、自分だけは、カインさまが唯一信じられる存在だった。そうでなければならないとジョシュアが思っていた以上に、絶対的に。カインは、ジョシュアのことだけは、だいきらいだと言ってすら最後まで信じ続けた。ジョシュアの渡したビー玉を、あたらしいものと思い込んだ。ことばは届かない。彼は、彼の鏡の中の“ジョシュア”だけを信じていたのだ。それが盲信であろうと、それだけが彼の救いだった。ジョシュア、という名には、“主は救い”あるいは“救う者”という意味がある。ジョシュアにとっての主(あるじ)カインには、どちらだっただろうか。
     グレイとの最後の死闘。暴走し、狂いゆくカイン。徐々に、状況が、追い込まれていく。ことばのとどかないカイン。ひとりで、――否、“ジョシュア”とともに、ああ、舟がどんどん浅瀬へと向かう。ジョシュアは、顔をわずかゆがめた。最後の最後。もう、その条件下においては、カインを物理的に止めるしか手が無くなったことを悟った。それならば自分にできることは。止まってしまったカインさまの舟にともに乗り続けて、ぽつり、永遠(とわ)をゆくこと。わたしは、さいごまであなたについてゆきます。舟が、座礁した。
     カインが追い込まれていくなかで、ジョシュアは、自身の過ちを自覚していた。思い返すは過去のワンシーン。カインの笑顔が見られるならばすべてがゆるされるとおもっていた。カインがビーダマンでピンを倒し損なったのを、実力不足ではなく自分の用意したビー玉がわるかったのだとジョシュアは言ったのだ。それを、それを、ああ! カインは、きっと、信じ続けてきた。グレイとのバトルの最終局面ですら、ビー玉がわるいんだ!と悲痛に叫び、新しいビー玉を欲した我があるじ! 彼がその歩みの舵取りを誤った、その舵を、ジョシュアもがともににぎっていることを、ジョシュアは長らく知らずにきた。彼の“笑顔”のために、ごまかしを言っている自覚はあったのかもしれない。けれどもそれが、ああ、この偉大なる主の歩みに影響してきただなんて、ゆめゆめ思うだにしなかったのだ!
     ほんのわずか前のことを、遠く感じる。ジョシュアがグレイたちと密会しながらもカインのもとに戻ったとき、カインは、言った。『それでこそぼくのジョシュア』――彼はジョシュアを、“信頼”していたのだ。ジョシュアは、ある意味ではカインにとって救いの主たる信仰の対象で、それはその名の通りであり、彼にとっては、“ぼくの信頼できるジョシュア”の意だった。そのジョシュアを信じながら、道を誤ったつみびとカイン。それは、彼の父がその名に込め、彼に求めたことだった。“兄弟殺しのカイン”という伝承。父はそのフレーズの響きのみに焦点を当て、冷徹さを期待した。目的のためならば手段を選ばないことを。カインにとってジョシュアは、兄弟のように育った存在。その“心”を、カインは、知らぬ間に殺していたのだった。それでもジョシュアは、当然、どんなことになってもカインを見捨てるようなことはありえはしなかった。
     ジョシュアとカインは、本来、排他的な存在だったのかもしれない。完結された、ふたりきりの世界、一枚の鏡。歪んだ虚像。ジョシュアは、かつては、一輪の気高きバラのようなカインに付き従うことが使命と捉えていた。そのためならば、地を這おうと血を流そうと構わなかった。けれども、他の価値観との関わりが救いになったのだ。仲間たちの力で救われたのは、世界の存亡の危機だけではなかった。ああ! 奇跡が、起きた。一度は目から光を失い、電源の落ちた自動人形のようになったカインが、ああ、文字通り光を取り戻す。その目に、そして、その新たな世界に。動く。その体が、止まった時間が。奇跡がおきた。ジョシュアの涙伝う頬はバラ色だっただろうか? そこを伝う光は色を灯しただろうか。この世界に、わたしたちは、ふたりきりではなかったのだ! たくさんの協力を得て、たくさんの仲間たちが力を合わせて、今こうして、すべてが始まる。
    ジョシュアは追想する。ジョシュアにとっては、カインの座礁しゆく舟に乗り込むことは、そのあるじが舵取りを誤る原因になった責任を取る意味もあった。もとよりそこに乗っていたのかもしれない。座礁するとしてもあなたはひとりではありません。それだけが一縷の希望、あらゆる絶望がこの世(せ)に飛び立ったそこにのこったひとつぶの光だった。だからジョシュアは、カインがそのまま、うつろでなんの反応もしないままでも構わないと、それに寄り添い尽くし続けることがその条件下でありえた至上の幸福だと思っていた。それが、自分の仕事だと。そう生きる決意と、覚悟があった。ここからはわたしの仕事。もうあらゆる可能性が消え去ったあの状況で、その生き方を最大の喜びとする。ああ。人生は薔薇色だ。どんな色でも、このかたといれば。けれども奇跡が起きたのだ。救われた。だから、涙をこぼした。そうだ、だって、つい先頃まで想定し得たその“幸せ”は、やむを得ずのものだったのだから! 限られた条件のなかで選んだベストを、自らのよろこびと決める覚悟。そこには責任感よりもむしろ、何よりも純粋純然な、忠誠と愛が捧げられていた。純粋に愛おしく、こころをささげた相手として、添い遂げる決意をしていたのだ。
    “変わってしまった”止まるまえのカインさま。けれども彼は、かつての純心を持ったまま、それを封じて、暗闇のなか舵取りをしてしまっただけだったのだ。即ち、かつても今も、止まっても、その根っこは何ら変わらない。彼のその迷走を真心から皮肉にも助長させてしまったジョシュア。ジョシュアがカインのためだと思ってしてきたことは誤りを多く含んできた。尽くす対象の“カインさま”を、見誤ってきた。けれども、そのやさしいウソは、100%の真心から出ていた。場合によっては、心底からそう思っていたのかもしれない。けれども、真心ですら、必ずしも正しくないと気付いたのだ。よかれと思ってしたごまかしが、その善意が、逆効果だったことは、そっくりそのまま、“心を封じてまで”“変わってしまったカインさま”に尽くすのが自身の努めという誤解に重なる。もしジョシュアが、カインがかつての心を封じていることにもっと早く気付いていれば、その心を開き陽向に連れ出すために、なんの惜しげもない尽力をしただろうに。変わりゆくカインにショックを受け自らの心を封じたジョシュアには、そのカインも同じくそうなのだということに気付く余裕がなかったのだ。だからカインの意向に沿うように自らの心を封じたのは、あくまでまるまる、カインのためだった。
     ジョシュアが真心からしてきたことがカインに善意の悪影響だったことをジョシュアは自覚して、改めて、それならば、そのカインを自分が止めることはやはり違うと思ったのだった。自分ごと、ともに無理矢理止める選択肢もなくはなかっただろう。舟を沈めればよかったのか? けれども、自分の責任のとりかたはそれではないと思ったのだった。真綿で首を絞めてきたジョシュア。そのほの暗い責任感。それをも照らし尽くしてなお強い、まばゆい忠誠と愛。けれどもそれだけが、世界ではなかった!
     ヤマトの熱いビー魂。世界に光が降り注ぐ。そうして奇跡が起きたとき、呼応して再び動き出したカインは、もっとずっと昔に止まった時間、かつての、ジョシュアと交わした純心で生きていた時点からやり直すことになったのだ。こどものままで内心止まっていたカインの時間。そのまま航海を続けてこじらせた、それがつい先ごろまでのカインのすべてだった。だから彼は狂った様子が全面に出たとき幼い言葉遣いになった。そこまでも、一種の幼さゆえのこだわりの強さで航路を誤っていたのだろうか。けれどその“迷った”心を一旦止めたことで切り離すことができた。こじれる前の心から、再スタートを切ったのだ。舟が、ああ、新たな海へとぷかり浮かぶ! それはまるで、電源が落ちたときに安全な初期プログラムから始動したようなものだった。その、動き出した、封じられていたかつての心は、体の止まったときのカインにとっては完全にはイコールでなかった。だからそのとき心のビー玉は入ってこなかった。けれど、それは確かに、ああ、確かに、彼の内で眠っていたのだった!
     足下のおぼつかない、そしてまだ思考の不明瞭なカインを支えていて、カインの耳がジョシュアの目に付く。ロゼワインのようなバラ色をしたそこ。ああ、かつてとなんら変わらない。ときがとまったときですら、このひとの耳も頬も、ゆびさきも、同じ色をしていた。車椅子を用意して乗せたとき、目についたものだった。きっと、グローブの下のてのひらだって同じ。どんな状況でもこのひとはうつくしいと、思ったのだ。それが、今はいっそうに、明るく光弾けて見える! ああ、光に透けるロゼのなんとうつくしいことだろう! ジョシュアはもう、そのボトルの中身を知っていた。グラスに注がれたそれが、変わらぬ光を放つことを。人生は薔薇色だ。いろいろな色、すべてが彩り。数々のことがあった。すべてが、薔薇の色。ピンクはうつくしい肌の色。赤は燃える情熱と深い愛の色。青は、青は――不可能と思えることを可能にする、奇跡の、祝福の色… 絶望と表裏一体の希望だ。ああ、人生は薔薇色だ。
     ジョシュアとカインは仲間たちと合流して、ふたりでバトルもした。歪んだ“二人”ではなく、改めて、ひとりとひとりの個として、改めて“ふたり”になったのだ。我が救いの主は道を正された。ふたりの人生、今後の歩みは、光に満ちている。












    ---
    ◆Epilog: Ah, dear vin rosé/主従7年後



     カインの二十歳の誕生日に向け、準備が始まる。ジョシュアが尋ねた。
    「カインさま。なにか、ご希望のディナーなど、ございますか?」
     カインはその問いが来ることをわかっていた。何しろ、誕生日には毎年訊かれることなものだから。そして、初めから答えが存在していたふうに返した。
    「ロゼワイン、……を、飲みたい」
     けれどもその彼の口ぶりは、照れくさく面はゆげなものなのだった! ジョシュアも、その単語には、追憶の欠片がある。ああ、そのうつくしき、気高き、愛しのバラ色!
    「ロゼ…ですか」
     ジョシュアのその返しが決して困惑の類いでなく、懐かしむようであることをカインは違和感なく受け止める。
    「ああ。昔…父さんの、グラスに、注がれているのを見た記憶があるんだ。テーブルの向こうだからずいぶんと遠かったけど、グラスに注がれるその色がすごく、美しい色をしていて―― ぼうっと、見入ってしまったものだよ」
    「そうですね、わたしも、旦那様に供されるためのボトルを見たのが、鮮明な印象として残っています。食卓への同席はゆるされていなかったので、ボトルのみの記憶ですが…。あの光に透けた色味がとてもうつくしくて、まるで…」
    「ジョシュアのほっぺたと、そっくり同じだ!」
    「カインさまの、光に透けるてのひらのようでした」
     ぱちくり。まばたきふたつ。きょとんとした間。それから、けらり、幼いこどものようににあどけなく笑い合う。重なったふたり分の声。想い。歩み。すべて。
    「…そうか。ジョシュアには、そう見えるんだな」
    「カインさまこそ…気恥ずかしいです…」
    「ふふ。それじゃあ、ロゼは、ぼくたちふたりの色だ! いや、人は、みんな、バラ色なんだね。
    ジョシュアは、今まで、ぼくが成人するまでは、と言って、お酒は飲まずに来たね。だから、ぼくの誕生日には、一緒にロゼを飲もうよ」
    「ええ…楽しみですね」
    「そうだ、今すぐにでも、選びに行こう!」
    「支度いたしましょう」
     ああ、人生は薔薇色だ。ピンク、黄色、赤、そして青。未だ色あせず間近に思い返す昔も、今は遠く感じる過去も、すべてが彩り。祝福と希望に満ちている。人生は、薔薇色だ。




    Ah, dear vin rosé

    Fin.


    *あとがき!

     前回の本からあまり間が空いていなくてすみません!!!
    というか三週間で三冊目ですね…! 主従の本は、アニメ本編を総括する話を書いたらまとめるつもりでいて、それが若干難航したのですが、かたちになったので発行に至りました!
     主従!!!!!!!!! アニメも原作も、あらゆる次元において永遠(とわ)にしあわせであってくれ!!!!!!!!! という気持ちが強めに出ているかなぁと思います。
     これを書いている時点でまだアニメの二期を見ている途中なので、二期のラストとかにちょっとでてきたり…しない…?と思っているのですが、出るのか出ないのか、マジで知りません…確認してから本を出したほうがいいのかなぁとも思ったのですが、気にせず出さないことにしました! さて、二月末の自分がこのあとがきを見たらどう思うのでしょうか!
     主従の本は水色トレペを使いたい!と思って、それに合わせるならパール紙だな~!と思って、こういうかんじになりました。表紙はポストカードにしたいな~!と最初から思っていたのですが、もう一枚のポスカは作業進行途中で思い付いたものです。手持ちに真っ白の封筒があったのでそれに入れてみたり… そんなわけで、今思いつく範囲のやりたいことを詰めてみた本とノベルティです! めちゃくちゃたのしかったです!!!
     カインの名、原作世界ではアベルカインの話が存在しなくて(もしくは平和な話)、カインさまもその名を背負ってはいないけど、アニメは、アニメ用にアレンジするにあたって、ジョシュアとカインの名を筋書きの軸にしたのかなぁと思ってます。
     主従~~~~~~!!!!! これからもおしあわせに!!
     だけどダークなかんじも好きだよ! ダークなしあわせもしあわせだもの…どんなかたちでも主従は一緒にいればしあわせなのだ… さて! このへんで失礼いたします! それでは!



    a promise make
    them.
    a propose make
    them.
    The Advent has
    come
    good you, good
    night.
    ah, what a
    good day
    La vie en rose.
    scenario is NOT
    but always THERE.
    by"narrative of Shu-ju".
    (※補足:本のラストに手書き文字を画像で薄くいれていたもので、架空の説話です)

    発行日:2020.01.18(大安)
    発行者:grantieYa(ぐらんてぃーや)/いしえ
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    いしえ

    PAST短編集『主従ア・ラ・カルト』2020/01/18大安発行。受攻お任せ多めバトビ主従CP全年齢本web再録。本への編集時にいれたあとがき等以外全てpixiv公開の短編小説で、webから本にしたものを更にポイピク用に編集しweb再録。
    もくじ、まえがきあとがき、ラストにいれた文章も入れましたが、挿絵のメニュー表等、関連画像https://poipiku.com/26132/9933701.htmlにて
    主従ア・ラ・カルト/受攻お任せが多めのバトビ主従CP全年齢本【本からのweb再録】◆Menu *受攻お任せのものについて…片方で見て頂いてももちろん構いません! as you like

    ◆それはおやすみの魔法(原作主従)
    独自設定(ハーブ、今回は特にカモミールを母の影響で生活によく取り入れてきた幼少期と、カイン改心時の話)。
    カインの父が亡くなったとき習慣が続くか途絶えるかで、2パターンに分岐します。
    受攻曖昧(ジョシュカイ寄りの部分とカイジョシュ寄りの部分とが混在)です。

    ◆propose -誓いの宣言-(原作5年後)
    原作ラスト、5年後の、18歳と21歳の主従。
    受攻お任せですが主からのプロポーズ(従もするつもりがあった)。受攻がニュートラルなかんじです。わりとカイジョシュ寄りに見えやすいですが、そう見えるジョシュカイっぽい要素もあるかと思いますので、そんなかんじで大丈夫なかた向けです。
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    もくじ、まえがきあとがき、ラストにいれた文章も入れましたが、挿絵のメニュー表等、関連画像https://poipiku.com/26132/9933701.htmlにて
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    ◆それはおやすみの魔法(原作主従)
    独自設定(ハーブ、今回は特にカモミールを母の影響で生活によく取り入れてきた幼少期と、カイン改心時の話)。
    カインの父が亡くなったとき習慣が続くか途絶えるかで、2パターンに分岐します。
    受攻曖昧(ジョシュカイ寄りの部分とカイジョシュ寄りの部分とが混在)です。

    ◆propose -誓いの宣言-(原作5年後)
    原作ラスト、5年後の、18歳と21歳の主従。
    受攻お任せですが主からのプロポーズ(従もするつもりがあった)。受攻がニュートラルなかんじです。わりとカイジョシュ寄りに見えやすいですが、そう見えるジョシュカイっぽい要素もあるかと思いますので、そんなかんじで大丈夫なかた向けです。
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