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    Moco

    @Tsugito_51

    腐を含む物書き絵描きです。
    どうぞよろしくお願いします。

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    POIPOI 17

    Moco

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    10月のサトヤブ合わせで発行予定本の内容の一部です。
    本にしたい…けどまだ未定。
    今回あげた部分にはウツハン♂︎は含まれません!エルガドでの愛弟子奮闘記の問題提起のみです。
    全体的にははウツハン♂︎前提のエルガドでの物語になります。

    荒削り、未組立。自分へのはっぱかけに上げます。
    もし読んで気になってくださったら嬉しい…です✨

    エルガド編【仮】◇◇◇

    太陽を背にした、辺り一帯を覆い隠す大きさの影が急降下してくる。吐かれた火球ぎりぎりを対象から離れ過ぎないように転がり、かわしていく。
    剣斧を握り直し、横を通り抜けざまに尾に一発叩き込んだ…が、びくともしない。攻撃はそれなりに弱点へと叩き込んでいるはずなのに。

    ふわりと軽く浮き上がった時は毒棘の仕込まれた尾を獲物に叩き込む動作だ。リオレイアの動向を見据えながら、剣に変形させ、眉間のど真ん中合わせで振り下ろした。
    当たった確かな手ごたえが両手に鈍い振動となって伝わってくる。流石に脳天へ一発はきつかったのだろう、ギャウ、と一鳴きし、壮絶な鋭さをぎらつかせる両目が伏せた。
    畳みかけるようにもう一発、斧変形で地面へと叩き落とそうとした時だった。

    「旦那サン!避けるニャ!」
    ザクロの動転した声を理解する前にがつんとした衝撃が走り、視界が急激に揺れた。なんだ、何が起こった?混乱する中、次第に昇ってくる体中の痛みと吐き気に意識が上手く保てない。
    「…ク、ぃ……!」
    やっとのことで口にした半端な言葉もきちんと伝わったようだ。クチナシの大げさに吠える声が遠くへと離れていく。うまくリオレイアの気を逸らしてくれているようだ。白い霧に包まれる。ザクロの活力壺で次第に毒からの吐き気は減り、意識が明瞭になってきた。
    毒気でまだ少しもたつく手でポーチのアメフリツブリを探し出し、地面へと解放する。薄く光る緑の光が白い霧に重なる。これで少しは動けるはずだ。
    「旦那サン、アイツもいつものと違うニャ。」
    「あぁ、そうみたいだな。動きも、攻撃力も…段違いだ。」
    リオレイアだけではない。エルガドに来てから対峙するモンスター達は今までとは一回りも、いやそれ以上に異なっていた。カムラで培ってきた技量が何とか通じるくらいのこの異常さはやはり襲来したメル・ゼナの影響でもあるのだろうか。
    リオレイアを他の場所へと誘導してくれたらしい。無事に駆けてきたクチナシを感謝の気持ちを込めて大きく撫でかき回した。回復してきたのを見計らい、再び武器を手に取る。
    「行くぞ。…ぶっ潰す。」
    別にやけっぱちでも、当たって砕けろ精神でもない。いつも以上にモンスターの動きを見極め、一撃一撃丁寧に攻撃を入れていく。時間がかかったっていい、反撃で倒れてもいい、その代わり確実に、倒す。泥臭いがそれが俺のやり方だ。そうやって糧にしてきたんだ。これからもそれは変わらない。
    武器を研ぎあげ、クチナシに飛び乗った。遠くから聞こえる咆哮へと目標を定め、掛け声と共に駆け出した。



    「ボク、修行が必要だと思うのニャ。」
    リオレイアを討伐した帰り道、そう強い声で発したのはザクロだった。
    「エルガドのモンスター達は本当に強くて…ボクは旦那サンの補助にもなれてないのが悔しいんだニャ。元々オトモアイルーとして傍にいたわけじゃないから、きっとまだ強くなる為にやれることはあると思うニャ。ボクは……旦那サンの役に立ちたいんだニャ。」
    真剣な彼の言葉を聞いている途中、手が自分の左頬についた二本の傷跡に自然に触れていたことに気付く。両親もまだいた幼い頃だ。どこから来たのか、里外れの大木、遥か頭上の枝に降りられない子アイルーがしがみついていたのを無謀にも登って助けて…途中で落ちた時についた傷だ。体も打って動けなくなってしまっている所を両親のオトモガルクが探しに来たっけ。手当された後、俺と、なんでか子アイルーもこっぴどく叱られたな。
    今はその両親はハンター業に向かったまま行方不明だが、子アイルーだったザクロはヒーラーとして、両親のガルクだったクチナシは俺のお目付け役に任命されたそのまま、ふたりとも俺のオトモとして今一緒にいてくれている。
    そう、悔しい時も嬉しい時もずっと隣にいてくれた。あの教官に出会う前から一緒にいた仲間だ。その彼が俺の為に離れる決意をしてくれている。そこまで想ってもらえるのは本当にありがたいことだ。それでも少し…なんというか。
    「ボクの一生のお願いだニャ。」
    「バカだな…そんなことで一生のお願いなんて使うなよ。」
    しばらくお預けになる柔らかい桃色の毛並みをゆっくりと、存分に撫でておいた。



    オトモ案内のナギさんは事情を聞くと修行を快く引き受けてくれた。
    「さて、その間のオトモはどうするかニャ?雇うならご案内もできますニャよ?」
    正直気が進まない。オトモでもない野良アイルーだったザクロが俺と一緒に居たいからとヒーラーの道に進んでくれたのを知っている分、彼以外を雇用する気が全くなかった。ザクロがいない間だけ雇うなんて他のアイルーにも失礼な気もする。
    「でしたら……ちょっとご相談があるニャ。」
    そう、潜めた声で提案され案内された先には一匹のアイルーがそっぽを向いて座っていた。大きく上にのびた耳、薄く黄が入った若草色の毛並みはカムラでも見かけたことのない外見のアイルーだった。
    「彼を連れて行ってくれませんかニャ?」
    「わざわざ頼むなんて、何かあるのか?」
    「まぁ…条件があるアイルーではあるニャ。」
    ひとつ、あらゆる狩場に連れていく事。
    ふたつ、自分の使命が優先でハンターの補助は二の次。
    みっつ、使命が完了次第オトモ契約を解除する。
    「…という条件なんだニャ。まぁ、ちょっとアレな所もあるけど…旦那サンの条件にも結構合ってるんじゃないかニャ?」
    オトモに条件があるアイルーなんているのか。そう話されてる間も紹介されている彼はこちらを向くこともない。
    「なぁ、名前は?」
    「……。」
    「使命って何なんだ?スピーみたいにやりたいことがあるのか?」
    「……。」
    「役職は?ヒーラー?アシスト?」
    「……。」
    何を言っても反応なしか。そうくるならこっちの返答は一択だ。
    「面白れぇ。お前、一緒に来いよ。」
    初めて動きがあった。アイルーの中でもさらに細く、つり上がった目の奥の透いた琥珀が驚きに見開いてこちらを捉えた。それも一瞬でまたそっぽを向いてしまったが。
    「ありがとうございますニャ旦那サン!この子は何度雇われても雇用破棄されて早々に戻ってきてしまうから気になってたんだニャ。カムラの英雄サンになら安心だニャ。どうか最後までよろしくニャ…。」
    本当に心配だったんだな。ほっとした様子のナギさんに、こちらも気合が入った。
    「なぁ。恥ずかしい話だけど、モンスターに苦戦中なんだよ。今までの培ってきたものがほとんど通用しねぇ。俺は俺で修行しながら狩りをするつもりだ。補助は逆にいらねぇ。だからお前はお前のやりたいことやってくれ。」
    顔を合わせようとしない喋らぬアイルーだったが、先ほどとは違い、ふさふさの尻尾がゆらゆらと揺らめく。笑い出しそうになったが耐えた。アイルーもガルクも、口よりも尻尾の方が雄弁だな。
    「なぁ、名前は?」
    「……。」
    それも無言かよ。お前、相当手ごわいな?
    「よろしく。」
    にっかりと笑って手を差し出した俺に返ってきたのは、手をぱしりと叩く名無しアイルーの尻尾だった。


    【つづく】
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