恋の予感は 八百屋の息子の朝は早い。
野菜のつまった段ボール箱を、毎度ありがとうございまーすと柄にもないアイドルスマイルとともに近所の保育園におさめたのが午前七時過ぎのこと。
あたりにひとけはまばらだった。
まだうっすらと朝靄のけぶるなか、翠は園庭をゆっくりと歩く。緑のビニールが剥がれかけた小山や滑り台など、どれもびっくりするくらい小さい。砂場にはだれかの置き忘れらしいスコップが転がっている。
俺もあんなので遊んでたころがあったんだよなあ、とつい感慨に耽る。高校一年生にしてはすくすくと伸びたこの手足、いまなら小山などひとまたぎで登れてしまいそうだった。
早朝保育に子どもを連れてきたらしい、スーツ姿の男性とすれちがう。一礼すれば、あちらからはおはようございますと爽やかな挨拶が返ってくる。
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