夏草にひつじ 第一印象はこうだ。噂よりは堅苦しくないが、身長以上に、大きく見える女性だな、と。
「本日をもって警視庁警備部特科車両二課に着任致しました、後藤喜一警部補です」
滅多にないことだが、それなりの気合を入れて敬礼をすると、女は舞踊のように美しい所作で同じように敬礼をし、「警視庁警備部特科車両二課小隊長、南雲しのぶ警部補です」、と耳障りのよい声で返してきた。
良くも悪くも、本庁にいた人間で後藤のことを知らない人はいないし、部下を率いるには良いが、本庁で出世するには真面目が過ぎて、ついに居場所がなくなった南雲のことは多少は耳に入っている。互いに相手について知らなかったのは声と顔と身長ぐらいだろう。そんな関係性から考えれば白々しい儀式ではあるが、飛ばされるほど律儀な同僚と適度な関係を築くためには必要不可欠なものだろう。
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