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    きたまお

    @kitamao_aot
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    きたまお

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    上司キースに悩むエルヴィン。ちょっとエルリ風味

    ##進撃
    ##エルリ

    「調査兵団もこちらで不服はありませんな」
     憲兵団師団長が禿頭に手をやり、こちら側を見た。エルヴィンの右に座っているキース・シャーディスは、顔を下に向けたまま、目だけを動かしてエルヴィンを伺う。テーブルに着くほかの人員には見えないように、エルヴィンはあごをわずかに引いた。
    「はい、調査兵団も同意します」
     キースが師団長へ答える。総統局、憲兵団、訓練兵団の各首脳陣がやれやれと首や肩を回した。キースはうつむいたままだ。
     いつからか、団長のキースが部下であるエルヴィンに判断を仰ぐことが増えてきた。最初は些細なことだった。この兵士はどこの分隊が向いているだろうか、兵団の食料の仕入れ先を変更する必要はあるだろうか。エリックはスピードはあるが注意力にかけることがあるので、丁寧に部下を見るフラゴンの下が良いです、いまの出入り業者は憲兵団からの紹介で、仕入れ金額を憲兵団と握っている気配があるので、徐々に変えていった方がいいでしょう。
     そのうちに、キースの質問はどんどん増えてきた。調査兵団の後援になってくれる有力者はいるだろうか、いくらまで資金をひっぱれるだろうか、新兵の訓練メニューを作ってくれ、次の壁外調査のルートを考えてくれ。気がつけば、いつしか調査兵団内の判断のほとんどをエルヴィンが行うようになっていた。
     他兵団のものに、キースはエルヴィンの傀儡だと言われているのを耳にしたことがある。キースにもきっと聞こえていただろうが、彼はまったく顔に出さなかった。揶揄した本人のせせら笑いをエルヴィンはにらみつけた。
     仕事が増えることは、まだ、苦ではない。ただ、自分の直属の上司であるキースの、こちらをうかがう視線には困った。
     ——おまえは自分のほうがえらいと思っている。
     ——おまえはいつ、俺の寝首をかくつもりだ。
     キースが自分を信頼し、同時に心の底から憎んでいることが手に取るようにわかった。彼は振り子だ。片側には壁の中にぬりこめられた人類の怒り、片側には自分の持てる力の少なさの嘆き。そのあいだを行ったり来たり揺れ動いている。
    「エルヴィン。とっととおまえが実権を握ったほうがいいのではないか」
     地下街の入り口を目指しているとき、他の二人とは距離を置いてからミケが言った。ミケは優秀な人員であるが、人付き合いに癖がある。誤解されることが多く、いまだエルヴィンの分隊で班長に甘んじている。ミケを分隊長にとエルヴィンは様子を見てキースに上申しているが、いまだ叶っていない。
    「それは私が判断することではないよ。団長自身が判断されることだ。組織というのは上下を無視し始めるとろくなことにならない。世界が私を必要とするのなら、いずれ、自然とそうなるだろう」
    「大した自信だ」
     ミケは鼻を鳴らした。
     次期団長にエルヴィン・スミスを、という声はエルヴィンの耳にも届いていた。調査兵団の団長はいままで、前団長の死によってしか交代していない。おそろしく致死率の高い組織なのだ。団長であっても、安全な場所にいるわけにはいかない。次期団長候補が誰かという話はいつでも陰に日向にささやかれている。エルヴィン以前にも次期団長候補はいた。が、みんな壁外調査で命を落とした。
     キースが命を落とすのが早いか、先にエルヴィンの運がつきるかのどちらかだ。
    「それで、あれか」
     地下街の通路でミケが上を仰ぐ。ごつごつした岩の天井すれすれを飛んでいる姿がある。「ああ、鳥のようにとはいかないが、コウモリ程度には自由だろう。あれに、本物の空を与えてやるんだ」
     地下街のゴロツキを調査兵団の一員として迎え入れるというのは、エルヴィンの今回一番の賭けだった。調査兵団は兵組織であるがため、規律を重視している。兵団全体を一個の生物として考えている。そこに、能力は高いが全体となじまないものを投入したらどうなるか。
    「私の推測では七割の確率で、調査兵団に新たな力を授けるはずだ」
    「残りの三割は?」
    「調査兵団はバラバラになり、死傷者が増える」
     肩をすくめたミケと二人の同行者に声をかけて、エルヴィンは地下のコウモリたちを追いかけ始めた。
     首尾良くリヴァイたちを引き入れ、ロヴォフを失脚させることに成功した。エルヴィンは賭けに勝った。リヴァイの加入は調査兵団に新しい風を起こした。最初は渋い顔だった調査兵団の古参たちも、リヴァイの戦果を見て次第に態度を変えていった。強いものは強い。エルヴィンにとってはあたりまえのことだった。
     だが、キースだけはわだかまりがとれないようだった。彼がリヴァイを見る目には、エルヴィンを見るときと同じ光がある。羨望と恐れだ。
    「エルヴィン」
     エルヴィンの胸ほどしかない小柄な男が、腕を組んだままその黒い目をエルヴィンに向けてくる。
    「おまえが望むなら、俺が手を汚すのはかまわない。命令しろ」
    「なんのことだ」
    「みなが言っている。おまえが団長をやるほうが、調査兵団は損害が減る。調査兵と馬は限りのある資源だ。無駄にしてよいものではない。もしおまえが団長をやるというのなら、方法はいくらでもある」
     世間話でもするような顔でリヴァイは物騒なことをいう。これほどあからさまではないが、似たようなことならいままでも聞かなかったわけではない。エルヴィンが兵の配置を指定するのだから、うまいこと巨人が来る場所に誘導すればいいだけでは。調査兵団は損害の大きい組織だから、誰にも疑われることなく人を亡き者にできる。
    「リヴァイ、きみがどういう心からそれを言いだしたのかわからないが、あまり褒められた話ではないな」
     リヴァイが片眉だけ上げた。
    「なぜ。調査兵団全体を生き残らせるために、おまえがなにも考えていないはずないだろう」
    「たしかに調査兵団は組織で戦うものだ。だが、私が団長の座を奪うというのは話が違うよ。それを認めてしまうと、結果として組織の崩壊を招く」
     本心だ。キースのあのうっとうしい視線を感じても、いつかは時がくると思って待っていた。エルヴィンが私欲で手を下してはいけない。世界がエルヴィンを要請しなければいけない。
    「……俺は、誰にも従わないで生きてきた。調査兵団に入っても、俺は俺だ。せめて、仕える相手は俺自身に選ばせろ」
     組んでいた腕を下ろし、リヴァイがエルヴィンへ一歩近づく。
    「俺は、おまえにだけ従う」
     その言葉はエルヴィンの内に深くしみた。左胸の奥に落ちて、そこに貯まる。
    「リヴァイ。おまえが望んでくれるのなら、きっと近いうちに時がくるだろう」
     果たして、すぐに時は来た。キースは誰の目から見てももう限界だった。シガンシナ区で壁外調査の帰りに、兵士の母の前で涙を流し、自分の無能さを叫んだ。
    「エルヴィン、団長をやってくれるか」
     始めて、団長が生きたまま、自らの限界を感じて身を引いた瞬間だった。
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271