ご親切にどうもありがとう /2 大概の口約束は破られるものである。そうでなければ何故、神はモーセに石の板を与えただろう?神でさえも物理的な手段で残すことを選んだのだ、人間同士ならば契約書類は絶対必要であるし、あるからと言って油断してもいけない。クリーチャーは賢い人間なので、契約の有用性と無効性を巧みに利用して上澄を啜ることを心得ていた。つまり――傭兵だか軍人だか知らないが、ナワーブ・サベダーの珍妙な申し出など、実しやかな嘘だろうとハナから信用していなかったのである。
この荘園に来た人間が、本当の身分を洗いざらい打ち明ける必要があるだろうか?信用ならない連中とうまくやっていくためには、嘘と夢と上辺だけの平和を楽しむ上品さがあれば十分だ。真実は誰にも確かめようもなく、また真実だからと言って価値があるわけでもない。クリーチャーが『慈善家』でなくとも、そう主張し続けることこそに意義がある。
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