「父さん、もうこれ短くない?」
夏祭りに行くためにタンスから引っ張り出してきた浴衣を羽織ってみたものの、昨年ギリギリだったせいか丈がかなり短くなっていた。
「ありゃぁ、それだけ良守が大きくなったってことなんだね」
父は感慨深くそういうものの、良守は気が気ではなかった。
「みんなで行くのにこれじゃカッコ悪いよな。どうしよう・・・」
友人たちと待ち合わせしている時間が迫っており、今回は諦めるかと思ってたところで父がふと思い出した。
「あっ!」
「なに?」
「そうそう、正守が中学生くらいの頃に来てた浴衣がまだしまってあったと思うからそれ着て行けばいいよ」
兄貴のとはいえ7年も前のものだ。
「着れるの?」
「ちゃんと手入れはしてあるから大丈夫。あれ、どこにしまったかな」
タンスの中をガサゴソ探し始める。
「あ、あった、あった。帯も一緒に入ってた!」
父が出してきた浴衣は、手触りのよい麻の生地で少し大人びた雰囲気のものだった。色も藍で染めてあるものの鮮やかな青色をしている。
(うわぁカッコイイ・・・)
良守が昨年まで来ていたものとは全く違うものだった。
「正守が着てたからおさがりだけど。きっと良守のほうが背が低いから大丈夫だよね」
父なりの気遣いなんだろうが、背が低いと言われたことにグサッとささる。
「ほら、着てごらん」
「うん」
そういうと、肩から羽織ってみる。
「父さん、やっぱり丈長いよ。兄貴どんだけデカかったんだよ。くそぉぉぉ」
普通に羽織ると、見事に裾をズルズルと引きずってしまう。同じ遺伝子を持っているはずなのに悔しくなってくる。
「浴衣なんて、丈は簡単に調整できるから大丈夫だよ。ほら貸してみて」
羽織った良守を前に、父はささっと着付けをしていく。くるっと回され帯をきゅっと締められポンと叩かれる。
「苦しくない?」
「全然」
姿見の前に映った良守は、自分で見ても惚れ惚れする浴衣の色に、当時の正守を想像してみる。
今よりも若干子供っぽい顔、それでも背が高く、浴衣を着て歩く姿は周りの目をきっと引いたことだろう。
「兄貴、似合ってたんだろうな」
「そりゃ、正守カッコよかったんだから。良守だってずっと正守のことカッコイイって連呼してたの覚えてない?それに、良守だって似合ってる。さすが兄弟だ。ほら、早くしないと遅れるよ。準備しないと」
鏡の前でクルクル回りながら浴衣姿を堪能していた良守に、父はそう促した。
「やべ、待ち合せに遅れる」
慌てて部屋を出ていこうとしたところで、入ってきた人影にぶつかる。
「おっと・・・」
「あれ?良守どこか行くの?」
「えっ?兄貴?」
そこにはたまたま帰ってきた正守が立っていた。
「あ?なんでいるの?」
「自分の家だろ?」
「そうだけど。帰ってくるなんて言ってなかったじゃん」
自分には帰るなんて一言も連絡がなかった。そういう関係なのだから連絡をくれてもいいじゃないかと少し拗ねながら言う。
「ごめんごめん、近くまで来る用事ができたからさっき父さんの携帯に連絡は入れたんだけど」
「ふーん」
自分だけが子供みたいに拗ねている。
「あれ?浴衣着てどこか行くの?」
正守は、良守の浴衣姿をじっくり上から下まで舐めるよう見た。
「おう。神社のお祭り」
「へぇいいねぇ。それ俺の浴衣じゃない?」
「そうだけど・・・」
「お前も似合うな。そうだ。浴衣着てくなら色っぽくなる着方教えてやるよ。ちょっと部屋に来て」
「もう時間ないんだけど」
腕時計と正守の顔を往復する。
「ん?すぐ終わるから大丈夫」
「じゃあ、良守気を付けて行ってくるんだよ」
「行ってきます」
のんきな父の声に見送られ部屋を出ると、そのまま正守の部屋まで連れていかれ襖をピシャっとしめると結界が張られた。
「なんで結界まで張るんだよ?」
後に立っている正守の方を振り返ろうとすると、ぎゅっと抱きしめられ耳元で囁かれる。
「ねえ、俺の浴衣着てる気分どう?俺に抱かれてる感じする?」
「ばっ、バカじゃねえの?」
怒ってみたもののさっき羽織った時にそんな思いもあり、それを見透かされたようで一瞬で真っ赤になる。
「良守の浴衣姿、色っぽいからナンパされないか心配だなぁ」
襟の合わせから手を入れ、突起を探ってくる。
「あっ、やっ、もう時間ないから。ヤダ・・・」
正守と二人きりになるのは久しぶりだったので、口では否定的な言葉を発しながらも体は喜んでいる。
「ほんとにヤダ?ここももうこんなにおっきくなってるけど」
正守から与えられる刺激だけで、すでに下も外から見てもわかるくらいになって生地を押し上げている。
「こんなんじゃ出かけられないよな?とりあえず出してけよ」
無茶苦茶な理由をつけられると、裾を割って下着の上から直接揉みしだかれる。
「で、出るって、離せ…って」
正守の慣れた手つきもあり、良守はあっという間にイってしまった。
いい子とばかりに、正守は良守の頬に唇を落とした。
「正守ぃ」
甘えた声を出してさらに唇を求めてくる良守に対して、正守はすっと体を引く。
「ほら、時間がないんだろ」
「はっ!」
「これで十分色っぽくなったけど、逆に心配だな」
「お前のせいだろ!ってかどうすんだ下着濡れたじゃないか。せっかく父さんに着付けしてもらったもの崩れてるし」
「そうだな。俺のせいだな。そしたら、良守が浮気しないように下着脱いで行っちゃえよ。昔の人は下着なんてつけてなかったし、良守だって履いてなかったら落ち着かないから早く帰ってくるだろ?」
「はぁ?どういう理由だよ?部屋に寄って履いてから行く!どけ」
正守を腕で押しのけて部屋を出ていこうとすると、後ろから大きな独り言が聞こえてきた。
「そのままいい子にできたら、夜たっぷり抱いてやろうかなぁ?久しぶりだし甘々に甘やかしてやるのもいいかもなぁ」
良守の足が止まる。
「・・・・・」
「履いてくならいいよ。ほら、早く行け。崩れたのも自分で直せるだろ。気を付けて行って来いよ」
「・・・・・わかった」
くるっと正守のほうを向く。
「ん?」
「履いてかねぇ。だから絶対夜甘やかせよ?あと、着崩れたの直せ」
「ほんとに?大丈夫?無理してない?履いてないと落ち着かないよ?」
「お前が言ったんだろ?」
「まあ言ったけど」
「だったら責任とれよ」
「お前、そんなこと抱かれたかったの?思春期だねぇ」
「うるさい!早くやれ!」
「了解」
そういうと正守は良守の前に跪き、濡れた下着を脱がす。そして乱れた襟と裾をピシっと直した。
「じゃ、楽しみに待ってるからな」
正守はそう言うと、良守の肩をポンと押して見送った。
その後、祭りで偶然を装ってばったり会って、周りに気づかれないように色々とちょっかい出す正守。
それに我慢ができなくなった良守は、適当に理由をつけて友達と別れると正守が待つ神社の奥の森の方に歩いて行った。
そこには正守が待っていて、あれやこれやするのであった(ここは皆様のご想像におまかせします)