いざにゃとかくぬい3/エマとイザナ暖かなある日、イザナ達の家にいざにゃの知らない人達がやってきました。
金色の髪の女の人と龍の刺青を頭に入れている男の人がふたりの赤ちゃんを抱っこしています。
「久しぶり、ニィ。」
「エマ…ゆっくりしていけよ。ドラケンは赤ん坊抱いてるのが様になってるな。」
「そいつはどうも。」
「この子がいざにゃ?」
「ミィ。」
なんで名前知ってるんだとイザナといざにゃは首を傾げましたが、鶴蝶が教えてくれたと聞いて更にハテナが浮かびました。
「エマとドラケン、オレの妹と旦那。」
そう紹介されたいざにゃはドラケンとエマをじっと見ました、ドラケンはおっかなそうだけどよろしくなといざにゃを優しく撫でてくれました。
エマは笑った顔が可愛くてイザナに似てないような似ているような、不思議な感覚にいざにゃは撫でられながら首を傾げました。
双子の赤ちゃんはそんな二人に瓜二つです。
エマ達を招き入れると、段ボールを抱えた鶴蝶がイザナ達の前に現れました。
「ドラケンとエマじゃないか。」
「あ、鶴蝶。いざにゃの話聞いて遊びに来たよ。」
「お前らいつの間に仲良くなってんだよ。」
スーパーでお買い物する時によく会って食材を折半したりしているとか、その時にいざにゃの話を聞いたそうです。
イザナは何でもべらべら話すんじゃねぇと鶴蝶に詰め寄りました。
「大変そうだな。」
部屋に招かれてからも荷物を運び出している鶴蝶にドラケンが話しかけました、天竺に持っていくものが沢山あるんだというとドラケンも荷物を抱えました。
「人手がいるなら手伝うぞ鶴蝶、行っても大丈夫かエマ。」
「悪いけどドラケン借りてもいいか?」
「ちゃんと返してね。」
勿論だ、と鶴蝶とドラケンは荷物を運び出すと天竺に出かけていきました。
「オレの許可は取らねーのかよ。」
「ニィ、ケンちゃん優しいでしょ。」
「そうだな。」
「あげないよ。」
「オレには鶴蝶がいるから、ドラケンはエマにやるよ。」
「ケンちゃんはニィのじゃないでしょ、マイキーには取られちゃうけど。」
エマは少し頬を膨らまして、でもケンちゃんとマイキーが一緒にいるのが嬉しいのも本当なんだよね。と笑っていました。
マイキーもこの子達の面倒を見てくれるんだ、真兄もだけどよく泣かれてる、マイキーは結構上手いんだよと意外じゃない話と意外な話をイザナは聞いています。
エマの話を聞きながらイザナがミルクをあげています、おなかがいっぱいになったからげっぷもさせるとドラケンに似てる赤ちゃんはすやすやと眠ってしまいました。
「ニィ、上手だね。」
「エマがこんぐらいの時に面倒見てたからな、天竺でも赤ん坊の面倒を見ることもあるから慣れちまった。」
「ニィは凄いね。」
「エマもドラケンもだ、ついでに万次郎も。」
ニィが必要な子達がたくさんいるから、すぐにじゃなくていいけどもう少しでみんなの誕生日だし、マイキーも真兄もニィに会いたいって言ってたよと笑うエマにイザナは少し考えて。
「エマがいうなら、行ってやるよ。」
喧嘩するかもしれねーけど、と冗談になってない冗談を言うとエマがもう!と怒ったのでイザナはごめんなと謝りました。
エマに似ている赤ちゃんはミルクを飲んでも寝ないでいざにゃに興味津々でした。
エマも中々眠ってくれなかったなとイザナは赤ちゃんといざにゃを見ています。
「ねこちゃ、ねこちゃ。」
「ミィ、ミィ。」
いざにゃは何度も子供に石を投げられたりしたので最初は赤ちゃんにも警戒していましたが、尻尾を振って赤ちゃんをあやしてあげています。
ねこちゃ、と幼い声で小さな手を振っている赤ちゃんと、尻尾で包まれてるかくぬいもいざにゃに遊んで貰えて嬉しいと思っていました。
「ミィ!ミィ!!」
かくぬいが気になったのか赤ちゃんはいざにゃの尻尾からかくぬいを取ると小さな手でぎゅっとしてしまいました。
ミィミィ鳴いてるいざにゃとぬいぐるみを離さない赤ちゃんに気付いてエマは優しく赤ちゃんに話しかけています。
「ダメだよ、この子はいざにゃのぬいぐるみさんだから返してあげて。」
エマが赤ちゃんの手からかくぬいを取ろうとするといやだいやだと火がついたように泣き出しました。
無理矢理取ると怪我をさせてしまうと思ったエマですが、いざにゃの困った鳴き声に早く返してあげないとという気持ちが募りました。
「どうしよう…ごめんね、いざにゃ。」
「ミィ。」
この時イザナはふらっと部屋を出て行ってしまいました、このままエマ任せにしてしまうのかと思いましたが。
「よう、元気に泣いてるな。」
「ニィ…」
すぐにくまのぬいぐるみを抱えているイザナがエマといざにゃ達のところに戻ってきました。
かくぬいをぎゅっとしたまま、赤ちゃんはくまのぬいぐるみに目をやると泣くのをやめました。
「そいつカッコいいよな。でもこいつのものだからこれと交換してくれるか?」
イザナがぬいぐるみを赤ちゃんに差し出すと、かくぬいから興味がそちらに移ったようで開いた手からかくぬいを手に取ると、くまのぬいぐるみを抱っこさせてあげました。
くまちゃ、とご機嫌になってからぎゅっと抱き締めると泣き疲れたからかそのまま眠ってしまいました。
すやすやと眠っているふたりとそれを見ているいざにゃを見ていたエマが口を開きました。
「ママになるのって難しいね。」
「そうだな。」
「…ママもこんな風に思ったりしたのかな。」
「……母さんは、」
きっと母さんなりに、オレ達のことを愛そうとしてくれていたよ。
そう信じたくて絞り出すように、イザナは子供のような顔で呟きました。
オレがエマと血が繋がってないなんて、母さんに言われるまで気付きもしなかったしな。
イザナの言葉にいざにゃとかくぬいは目を丸めていました、不思議な感じになったのはそれが理由だと分かりました。
ただ母さんを支えてくれる誰かがいれば良かったのにな、かつての幼い自分では叶えられなかったことをイザナは続けて口にします。
「ニィは、ママのこと…」
「本当のことを知って恨みたかったし悲しかった筈だけど、今はもう分からない。」
イザナはエマと赤ちゃんの頭を優しく撫でてあげます、悩んだらドラケンでもマイキーでも、シンイチローだっている、勿論オレでもいい、頼ってくれればいいんだから。
それがエマだけじゃなくてこいつらの為にもなるだろ?とイザナはエマ達に笑いかけました。
「ミィミィ。」
「いざにゃ、さっきはすぐに返してあげられなくてごめんね。」
「ミィイ。」
かくぬいを取られたことは困ってしまったけど、ちゃんと自分に返そうとしてくれたのが嬉しかったいざにゃはエマの膝の上に乗りました。
エマはいざにゃを撫でながら約束をします。
「この子達がもっと大きくなるまで、ううん、なってからも元気でいてね。」
「ミィ!」
いざにゃとエマは前脚と小指を触れ合わせて指切りをしました。
「ニィ、またいざにゃ達に会いに来てもいい?」
「ダメって言っても来るんだろ?」
ウン!と元気にいうエマに溜息を吐いて、しょうがねえなと笑うイザナ、笑った顔が似ているのは血は繋がっていなくても兄妹として過ごした日々があったからだといざにゃ達は思いました。
イザナの携帯が鳴り、鶴蝶達が帰ってくる連絡が入りました。
「メシ、食ってくか?」
「いいの?」
あいつらが帰ってくるまでに何か作ってやるよ、キッチンに立とうとするイザナを抱き締めたエマはニィ、大好き。と笑顔を向けました。
母親がいない時に簡単な料理を作ってエマが喜んでくれたことを思い出して、あの頃より出来る事が増えたことを思いながらエマ達の為に料理を作り始めました。
「ニィのごはん、美味しいんだよ。」
いざにゃを優しく撫でる嬉しそうなエマを見て、やっぱりイザナはエマのお兄ちゃんなんだといざにゃはミィ!と鳴いてみせました。