誰がために鐘は鳴る たこ、なす、ひろうす、ああやっぱりコロにしといて。
生中ひとつ、あとお湯割り、えー、麩ぅあれへんの。
馴染みのないイントネーションとあちらこちらから巻き起こる賑やかな笑い声に、なんとはなし肩身が狭くなって環はおひやのグラスを抱えた。
おでん屋の一角だった。調理場を囲んで凹形になったカウンターの、入口のあたりにいま環はいる。隣にはファットガムがいて、もぐもぐと蒟蒻をほおばっている。
高架下にある店内は昼だというのにぼんやりと暗い。十人も入れば満杯になるだろう店内はカウンターと壁との距離が近く、ひとびとは先客のうしろを横歩きして席に着く。
水曜日の午後3時だった。サラリーマン風の男がふたり黙々と大根を食らう横で濃い化粧の老女がビールの大ジョッキを掲げ、さらにその向こうではちいさい女の子をまんなかにした家族連れがにこやかに箸を進めている。
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