試供品、ノベルティ、差し入れ、お見舞い、お下がり、私的なプレゼント。
いや、まさかな。脳内に挙げつらった可能性の、そのどれもがしっくりこなくて、太刀川はさてと首を捻った。
と、同時に、轟音がブオンと太刀川の左耳を掠めていく。たった今まで自分の頭部が存在していた場所を、巨大な虫の脚が撫でていった風切り音だった。宙で蠢くモールモッドの脚を、太刀川は横目で見守る。見守りながら、自分の右肩目掛けて飛んできた鋭利なブレードへ、弧月を振り落とした。
モールモッドが、身体の一部を失った怒りにか咆哮を上げる。白い怪物は勢いのまま、最後の一本となった左足部のブレードを、軋みと共に高く掲げた。その一矢が振り下ろされるのも待たず、太刀川は孤月を怪物の脳天へと突き立てる。そしてモールモッドの活動停止を目視で確認した後、おもむろに、溜め息をついてみせた。
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