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    が土まん

    字書き。無断転載禁止。ツイ垢が凍結されたので暫く支部だけの活動のなります。

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    が土まん

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    12月12日に発行するコピー本のサンプルです。虎杖が花吐き病になる話。
    全32ページ、100円、全年齢、五悠。

    #五悠
    GoYuu
    #サンプル
    sample

    花を喰らって、愛を知れ花を吐く。
    白い花がはらはらと舞う。

    「あーあ、触っちゃったか」

    花弁はなんの威力も、殺意も持たない。
    だからこそ、警戒をするりと抜けて触れてしまった。

    一通り花を吐き出して心当たりを探してみれば、思い浮かぶのは彼の姿。それ以外はてんで思い浮かばない。

    どうやら、自分は彼が好きなようだ。ライクではなく、ラブな方で。

    「マジか」

    落ちた言葉とため息と。今日からそこに花が加わる。
    初めて吐いた花は、葬儀でよく見る花と色が似ていた。

    ◆◆◆

    無事学校に復活し、手荒い歓迎をうけて、つかぬ間の小康の日々。
     呪具の使い方が上手い先輩に扱かれて、パンダに投げられて、森の中を走って。一息ついて、呪専の中にあるベンチに座る。種類が限られてる自動販売機で買ったスポーツドリンクを一気に飲み込めば、身体に籠った熱が一気に引いていく。
     今日の訓練は釘崎と一緒で、訓練に不参加だった伏黒は朝から地方へ行っている。なんでも呪物の回収のサポートかなんとか。出発前に偶然会って、補助監督の車を待っている間わざわざ教えてくれた任務の後半の詳しい部分は眠すぎて聞き流した。俺の生返事に呆れたように小言を言う伏黒の姿はうっすらと覚えている。まぁすぐ戻ると言っていたから、多分今日中には戻ってくるだろう。
     飲み終わったペットボトルのラベルを剥がして不燃ごみの箱に入れる。キャップと本体を手洗い場で軽く洗い流したら、キャップ専用のボックスに入れて、本体は握りつぶしてペットボトル専用の回収箱に投げ込んだ。本当はこんなに分別をしなくてもペットボトルと缶の入り口が別なごみ箱はある。でも爺ちゃんが入院してから家の事は一人でやることが多くなって、ごみの分別もきちんと分けるのが癖になった。寮暮らしになって分別の仕方でつまずくことなく過ごせているのは、俺が間違えて分別すると拳骨を落とした爺ちゃんと親身になって教えてくれた近所のおばちゃんのおかげだ。
     懐かしい思い出を思い出していたら、廊下に真っ黒なツンツン頭がいた。
    「あれ、あのツンツン頭…もしかして伏黒?」
     ここの制服も来ているし、特徴的な文字が額に書かれた真っ黒な犬もがそばに立っている。あれは多分玉犬だ。玉犬は口に白いビニール袋を咥えていた。テレビで見た加護を持ってお使いする犬みたいで可愛い。
    「伏黒! 玉犬! お前らいつ帰ってきたんだ?」
    「虎杖か。さっき任務が終わって帰ってきたところだ」
    近づけば向こうから寄ってきてくれるし、うりうりと撫でれば気持ちよさそうに目を細めて尻尾をブンブン振る。可愛い奴め。
    「さっきから気になってたんだけど。これ、何持たせてんの?」
    「花弁だ、触るなよ」
    玉犬が咥えている半透明のビニール袋から薄ら見えるのは見覚えのある形。どうやら中身は花のようだ。
    「ま! 伏黒くんったら色気づいちゃって!」
    「んなわけねーだろ。今朝やった任務の回収物だ」
     伏黒に小突かれる。そんなに痛くないから本当には怒ってない。
    「ごめんて。で、なんで玉犬に?」
    「これはヒト対象の呪いだ。その呪いにかからないように玉犬に持たせている。触ろうとすんなよ」
    伏黒が曲がれ右で歩き出す。方向的に職員室か家入さんのところだろう。さて、俺もそろそろと立ち上がった時、伏黒の後をついて行く玉犬が咥えている袋から一枚花弁が落ちた。床に就く前に思わずそれを掴んで、さっきまで伏黒が言ってたことを思い出して冷や汗が出た。
    伏黒も玉犬も気づいていないようで、そのまま歩いている。その袋から溢れて反射的に触ってしまった花びらをしっかりと握って伏黒に声を掛けた。
    「伏黒、花弁落としてんぞ!」
    勢いよく振り返った伏黒は俺の手に持ったものを見ると、血相変えてズンズンと近付いて来た。
    「おい馬鹿! こんな怪しいものを何も考えるに拾うな!」
     伏黒の叫び声に反応した玉犬が俺にタックルを仕掛けてきた。いつもなら受け止められるけど、中途半端な体制で食らった玉犬のタックルを止められるはずなかった。玉犬の身体を受け止めながら、地面に倒れ込む。倒れ込むときの視界がやけに緩やかで、近づいてくる伏黒の動きと空中を舞う花弁がスローモーションだった。
     廊下に大きな衝撃音が響く。上手く受け身はとれなかったけど、一瞬背中に衝撃はきたけど身体に痛みは残っていない。空中を優雅に待っていた花弁もちゃんとキャッチできた。
    その音に反応したかのようなナイスタイミングで紙の束を持った五条先生が廊下の先から姿を現す。俺達の姿が目に入った先生はにこやかに紙の束を振っていた。
    「お疲れサマンサーやぁ二人とも、こんな廊下で痴話喧嘩?」
    「ブッ飛ばしますよ?」
     固まった俺達二人。俺の上に乗ったまま尻尾を振っている玉犬。地面に落ちて中身が散らばった綺麗な花たちと俺の手の中にある花弁。それらを見渡して、それなりの答えにたどり着いた先生が一言。
    「もしかして悠仁、直で触っちゃった?」
    「触っちゃったんだけど…」
    「え、マジ?」
    「「マジ」」
     デジャヴのような問答の後、伏黒が重いため息をつく。
     先生は少し間抜けた顔をして、すぐに黒い目隠しをとって俺をじっと見た。久しぶりに見た青い目が隅々までこちらを覗き込んでいる様子は、敵意を感じなくても気後れする迫力が滲み出ている。
     たっぷり―実際の時間ではそんなに経っていない僅かな―時間をかけて、青い目がそっと閉じて目隠しの中に仕舞われた。
    「今すぐ硝子のところ全力ダッシュで行ってきて。恵も悠仁と一緒に念の為に診てもらえ。悠仁はその花びらを落とさないようにしっかり持って、恵は絶対に触らないこと」
     先生の声が少しだけ、固いような気がした。俺が宿儺の指を食べた時だって、別格というか、余裕綽々といった雰囲気を纏っていた。でも今は飄々とした雰囲気を保ちながらも困っているような気配を感じる。
    「言われなくたってわかってますよそんなこと!」
     俺の手の中にある花弁を玉犬が口で拾って、そのまま伏黒の元に近寄る。伏黒はいつの間にか個性的な手袋をつけて地面に散らばった花を拾って、玉犬が拾った花弁をビニール袋を乱暴に入れると玉犬を連れて走り出した。後に残ったのは何がなんだか分からない俺と、物知り顔をした先生だけの異様な空間だった。
    「五条先生、これ一体何?」
    「これは接触型呪物『掌天花粧(しょうてんかそう)』の呪いの媒介だよ。ある界隈では有名で、別名片恋殺し。表の通称では『花吐き病』とも言うね」
     致死率はなんと破格の五十パーセント、一級呪物の割に微妙なラインだよね。そんな茶化した先生の声が俺の脳みそに留まることはなく、耳から耳へと通り過ぎた。

    ◆◆◆

    「また面倒くさい呪いにかかったもんだな、虎杖」
    「家入さんにはお世話になってます」
    「そう思っているなら、あまりここには来てほしくないんだけどね」
    「気を付けます」
    「そうしてくれ。ああ、でも。少しだけ気を付ける時間が遅かったようだ」
    五条先生に言われた通り、家入さんのところに二人揃ってダッシュできた。先生は予定があるらしくて、後日結果を報告するようにと言ってその場で別れた。
    伏黒は家入さんと一言二言話終わると、玉犬に持たせていた袋を処分するらしく、すぐに部屋を出て行った。一人残された俺は家入さんと向き合って、今回の面倒くさいことの全貌を聞いていた。
    「表の正式名称は『嘔吐中枢花被性疾患』で花吐き病は通称。 名前の通りある感情を拗ねらせた者が花を吐くとされている。根本的な治療法は未だ見つかっていないというのが表の情報だ。だが本当の名前は接触発動型一級呪物「掌天花粧(しょうてんかそう)」という呪物による呪いだ」
    伏黒が持ってきたものとは別のビニール袋に入れられた栞とジップロックのような透明な袋に入れられた真っ黒な花を翳した。
    「呪物である栞に触った者が花を吐き、その吐き出された花に接触すると同じ呪いに感染する。それ以外の症状は確認されていないが、ずっと吐き続けていると花に身体を蝕られて栄養失調でポックリ死ぬ。お前が拾ったものはこの呪物の一部であり、感染者から吐かれた花弁だよ」
    「身体を蝕む」
    「そう、呪力から物体を作り出すには本来その様な術式と膨大な呪力が必要だ。人間に花を生やす器官はない。だから、この呪物は呪力で花を具現化させる術式を埋め込まれている。と言っても、花を具現化させるには養分が必要だから、その養分は被呪者の身体から賄われ、吐く花の大きさと数で消費の量は変わってくる。そして、嘔吐される花の形は被呪者の保持する呪力で左右される」
    家入さんの言葉を必死に噛み砕いて必死に頭で反芻する。
    つまり栞は呪物で触ったら花を吐く。その花に触っても花を吐く。吐く花は大きさと量で消費する呪力と体力が変わる。そして吐き出される花の形はそいつの呪力の量で決まってくる。今のところ、強制的な解呪は不可能。死ぬまで花を吐き続ける。
    「もしかして……これってヤバい?」
    「ヤバいな」
    「五条先生でもヤバい?」
    「そうだな……例えばあいつは反転術式の使い手で膨大な呪力を持っている。肉体は自分でなんとかできるし、六眼で常に呪力の省エネ化が出来るから、まず呪力の枯渇はあり得ない。だが、毎日マイナス1ずつ呪力の上限を引かれていけば、例え五条であっても長い時間をかけて膨大な呪力は必ず底をつく。推測だが死にに行くスピードが他の呪術師よりも遥かに遅くなるぐらいしか誤差はないだろう」
    「先生なら無理矢理呪い解けそうだけど」
    特級呪術師で最強、生き物としての格が違う先生ならこんな呪いはパパッと祓って笑っていそう。まぁ先生なら呪物をうっかり触って呪われるなんてドジ、するのはないかもしれないけれど。
    そう言うと、家入さんはフッと笑ってタバコに火をつけた。
    「そう簡単にはいかない。この呪物は無から花と言う有機物を作るために自然の原理を利用している。種は想い、養分は被呪者の体力、嘔吐することで花が咲く。これは植物界では『共生』とも呼ばれる。咲く場所がどこであれ、花が咲くという原理は自然の摂理だ。吐くと言う行為も胎内に異物が混入した時の正当な反応。植物や自然は呪いを持たない。人は自然に勝てない。吐くという行為も反射行動で呪いじゃない。だから、呪いを解くと言う概念がないに等しい。呪いは呪いでしか祓えない。あいつのアレも言ってしまえば呪いだ。呪いと言う概念がないものに、強制解呪という方法は取れない。あの五条であってもね」
    「先生でも解呪出来ないって、メチャクチャヤバいじゃん、それ」
    「ああ、だからヤバいと言っただろ」
    「この呪物は簡潔な縛り故に明確な回避法と解呪の仕方が存在する。こんな風に呪物と媒介をビニール袋の上から触ることは可能。お前みたいにうっかり素手で触らなければ呪いは発動しない。呪いの対象者全員に確実な死を付与する割に階級が低いのはそこにある。わざわざ呪物に縛りを施さなくても存在するだけで危機にはならないからな」
    「ま、悠仁のことだからそこら辺含めて諸々大丈夫だと思うけど」
    ひょいと背後から五条先生が飛び出してくる。
    「それどーいう意味よ?」
    「だって、悠仁の好きなタイプは?」
    「ジェニファーローレンス!」
    「そうそう、ケツとタッパがデカいイカした子が好きなんだよね」
    「あまり恋現と言ったタイプには見えないしな。この呪物の効果ないに等しい。安心しろ」
    大人二人は納得した表情で頷く。二人にだけ通じるものがあって、俺一人だけ取り残されたような気分だ。
    「え、と。みんなが納得している中悪いんだけど、どう言うこと?」
    「さっきも言ったけど、この呪物は接触発動型呪物。この呪物の縛りは『栞又は被呪者が吐いた花弁に直接触ったら花を吐く』じゃなくて、『栞又は被呪者が吐いた花弁を片想いを拗らせた者が直接触ると花を吐く。』 逆を言えば片想い中で触らなければ感染らない。触っても、想いを通じさせればこの呪いは解呪される」
    「死ぬまでは個人差があれど、平均して半年間。そもそもとして発動条件が『直接触る、片恋』という狭くて高いハードルをクリアしなくてはいけない」
    「つまり……片想いしている人間じゃないと、この呪物の呪いは発動しない?」
    「そう言うこと。まぁ潜伏期間はあるけど、その期間も一、二ヶ月とかなり短い。その間に誰かに惚れなければ大丈夫。潜伏期間は短く、発症期間は長いなんて呪物にしては良心的だよね」
    二人がよかったと一安心する傍で、俺の背中には冷や汗が止まらない。

     どうしよう。俺は、今、五条先生に実らない恋をしている。



     俺の先生への想いはあったらいけないモノだとしても、この意志は先生にとって罪じゃない。先生は強い奴は大歓迎だと言っていた。なら先生が寄っかかっても倒れない人間は先生が言っていた強い人間に当てはまる。俺の目指す行先が先生が望む方へ続くんだ。それぐらいは先生なら許してくれるはずだ。
    『その汚いものを吐き出してか?』
     うっさいな、興味ないなら話しかけんなよ。
    『お前は本当に面白みが欠ける』
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