図書館に本を返しに行くファウストとミスラが鉢合わせする話机の上に積んでいた一冊から、けたたましい鳥の声が響く。本にその魔法がかけられていることを完全に忘れていたファウストは思わず耳をふさぎ、紫の双眸を大きく開いて本を手に取った。
革表紙にぼうっと光の文字が浮かび上がり、それは明後日の日付を示している。返却期限であった。貸出期間が30年と比較的長期だったので、忘れないように過去の自分か店主が魔法を施していたのだろう。東の国の路地裏のさらに裏、地下深くにたたずむ古い店までは魔法舎から多少距離がある。ファウストは賢者に一言ことわりをいれて、ゆうに100を越える巻数の図録を携え返却へ向かうことにした。
ぎょろりと目ばかりが輝く老店主はファウストを一瞥すると、返された図録を一点ずつ単眼鏡でたしかめながら、底意地の悪そうな笑みを浮かべる。
1973