【夏五】第63回 お題「ドーパミン」 自分の背丈よりも何倍も大きな呪霊と対峙する。ここには悟ひとりだけだ。一緒に来た付添人は皆、遠く離れた安全圏で見学している。
どんなおどろおどろしい異形が襲い掛かってこようとも、悟の表情は1mmも動かない。ただ、いつものように攻撃を避けて、祓って、それでおしまい。
無事に祓除が終わったら、見学していた大人たちは戻ってくる。
それが普通。それが日常。
彼らは頭を下げて、いつも同じセリフを口にする。
「お見事でございます」
「さすがは悟様」
「五条家の誇り」
伏せられた顔が見えることはない。持ち上げる言葉とは裏腹に、そこに浮かぶのは嘲笑か、怯えか、それとも。
どんなに稀有な眼であっても、他人の心まではわからない。
1882